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『天ノ川綺麗と天ノ川雄大の姉弟はとどまるところを知らない!』第2話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】


「ふう……」
 綺麗が教室でため息をつく。
「綺麗」
 鈴木が声をかけ、空いていた前の席に座る。
「あ、花子……」
「今度は何の部活に入るの?」
「う~ん……しばらくはスポーツ系は良いかなと思ってまして……ふあ……」
 綺麗が小さく欠伸をする。そういった姿も絵になる。
「眠そうね」
「これは失礼いたしました……言い訳ですが、最近寝不足気味でして……」
「あら、珍しいわね、勉強でもしてたの?」
高校の学習範囲は中学までにすべて終わらせております
「あ、そ、そうなの……じゃあ何? まさか単なる夜更かし?」
「漫画にハマっておりまして……」
「本当に夜更かしじゃない」
「いや、それがそれが面白くて……ついつい時間を忘れて……」
「読んでしまうと……」
描いてしまうのです
「!? あ、か、描くの!?」
 鈴木が驚く。
「ええ、初めは単なる一読者でしたが、読んでいる内にわたくしの内側にあるクリエイティビティが段々と刺激されてきて……」
 綺麗が自らの胸にそっと右手を添える。
「へ、へえ……」
「そうだ、良かったら読んで頂けませんか?」
「え?」
「タブレット端末を持ってきたのです」
 綺麗がタブレットを机の上に出す。
「ふ、ふ~ん、それじゃあ拝見させてもらおうかしら……」
「これです」
 画面にリアルなタッチの犬と猫、そしてウサギの絵が表示される。
「あら、上手いじゃない……!」
 鈴木が素直に感心する。
「ありがとうございます」
「人の言葉で話している?」
「動物同士でしか伝わらない会話です。飼い主の方についてのお話などで盛り上がっています」
「あ~ペット同士なのね……」
 鈴木がタブレットの画面をスクロールさせていく。
「どうでしょうか?」
 綺麗が尋ねる。
「……面白いと思うわ。でも……」
「でも?」
「会話内容が比較的コミカルなのに、犬たちの絵のタッチがリアル過ぎないかしら? 画力の高さは伝わるし、これはこれでギャップは生まれると思うけど、どっちかに寄せた方が良いんじゃないかしら……例えば犬たちを可愛らしくディフォルメさせるとか……」
「ディフォルメですか……」
「そう」
「まあ、こういうキャラもいますが……」
 リアルな犬たちに囲まれた二頭身の眼鏡をかけた頭がバーコードのように禿げている中年男性の絵を表示させる。
「! こ、これは……?」
「三匹の飼い主の川村さんです」
そっちをディフォルメしちゃったの!?
「はい、タイトルは『とにかく愛くるしい川村さん』です」
「あ、メイン川村さん!?」
「ちょっと長いので、『とにかわ』と略そうかと……」
「と、とにかわ……」
「ギャップはあると思うのですが……」
「ま、まあ、良いんじゃないの……」
「そうですか!」
 綺麗の顔がパアっと輝く。
「う、うん……」
「実はもう一作、描いているのです」
「え、ええ?」
「こちらなのですが……」
 綺麗は丘の上で体育座りをしている可愛らしい少年の絵を表示させる。
「こ、これは……?」
「『おかの子』です」
「お、おかの子!?」
「この子は視力はすごく良いのです」
「あ、ああ、丘の上から遥か遠くの方まで見渡せちゃうんだ?」
人の内面なども見透かせます
「視力が良いってそういうこと!?」
「その視力を活かして、丘の下でくり広げられる様々な人間模様をシニカルに眺めます。そしてアイロニーな一言を放ちます」
可愛らしい絵からのまさかの社会派寄りの作品!
「ギャップがあるかなと……」
 綺麗が小首を傾げながら呟く。
「ま、まあ、ちょっと毒と言うか、スパイスを効かせた方が刺激的で良いかもしれないわね……い、良いんじゃないの」
「そうですか、良かったですわ」
 綺麗が笑みを浮かべる。
「しかし、二作も書いていたら、そりゃあ寝不足にもなるわね」
「……実はもう一作あるのです」
「ええっ!?」
「こちらです……」
 綺麗がタブレットを操作すると、4つのコマが表示させる。
「あら、4コマ漫画?」
「ええ、1ページ漫画やショート漫画だけでなく、そちらにもチャレンジをしてみました」
「旺盛な創作意欲ね……」
 鈴木が感心したように頷く。
「ああ、4コマを見る前に表紙も描いたので、そちらをご覧ください」
「……!?」
 綺麗が表示させたのは可愛らしい絵柄の女子高生3人がソンブレロというメキシコ伝統の大きな帽子を被り、ギターやバイオリンなどを持って笑顔で立っている絵だった。
「タイトルは『とりお・で・まりあっち!!!』です」
「よ、陽気な感じ!」
「楽しそうな方が良いかと……」
「ま、まあ、それはね……でも、何故に女子高生がメキシカンスタイル?」
女子高生にニッチな趣味をさせるのが漫画アニメのひとつのジャンルだという話を目にしましたので」
「そ、それにしてもニッチ過ぎるような……でも、肝心の女の子が可愛らしく描けていると思うから、これはこれでアリっちゃアリかも……」
「どうでしょうか?」
「うん、これも含めて、三作とも良いんじゃない?」
「では、早速EXの方にアップしてみましょう!」
「まあ、それなりにはウケるかしらね……」
 タブレットを嬉々として操作する綺麗の横顔を鈴木が笑顔で見つめる。その後数日経って……。
「おいおい! 綺麗ちゃんの漫画、超バズっているぞ!」
 佐藤が雄大に話しかける。雄大が頷く。
「ああ……」
「こりゃあ、姉ちゃんに水を開けられちまったな~」
「……」
 雄大が腕を組んだまま黙っている。佐藤が慌てる。
「お、怒んなって……」
「ポストをよく見ろ……」
「え? ……あっ!?」
 スマホを確認した佐藤が驚く。
「俺も作画協力している」
「そ、そうだったのか……」
「話も一部は考えている」
「本当だ、原案協力にも名前が入っている……」
これらの漫画は俺たち姉弟の共作だ
「はあ……しかし、バズらせるのは見事だな」
「……これで終わりではない」
「ええ?」
「まあ、どうなるかしっかりと見ていろ……」
「あ、ああ……」
「ふふっ……」
 その数日後、三作品をアニメーション化した動画がYouBroadで公開されて大いに話題となった。
「お、おい! このアニメ!?」
「最近は便利だな、個人でもかなりのクオリティーのアニメを制作することが出来るのだから」
「まさか、これも……?」
「ああ、俺と姉さんの共作だ」
 佐藤の問いに雄大が頷く。
「マ、マジかよ……キャラクターがめっちゃぬるぬると動いているぞ?
「目指したところは『妖絶の腕 無尽電車編』の戦闘シーンだ」
「三作品ともどちらかと言えば、日常系のジャンルだろう? 力の入れどころを間違っているような……」
「話題になっているから良いだろう」
「ま、まあ、それはそうだけどよ……しかし、こんな仕掛けを用意していたとはな……」
「まだだ」
 雄大は静かに首を左右に振る。佐藤が首を傾げる。
「まだ?」
二の矢、三の矢を用意してある
「え、ええ?」
「まあ、見ていろ……」
 その数日後、アニメにオープニング主題歌を付けた動画がアップされる。独特な言葉遊びがふんだんに盛り込まれた歌詞に聞き馴染の良いメロディーが合わさった曲もまた話題を呼んだ。さらに、綺麗と雄大が『歌ってみた』動画もアップされた。製作者本人が自ら歌うということだけでなく、その高い歌唱力と単純なルックスの良さも大いに大衆の耳目を集めた。
 さらに、キャラクターが可愛らしく踊る動画もアップされた。これも綺麗と雄大本人が『踊ってみた』動画をアップ。真面目な顔つきでちょっと力の抜けた、それでいて決めるところは決めるダンスを踊る様子はこれまた話題を呼び、TikTakなどでは、綺麗たちと同世代の若者たちがこのダンスを真似することが世界中で流行、一大トレンドとなった。
「たった十日間くらいで世界中に『天ノ川姉弟ブーム』を巻き起こしてしまったわね……」
 廊下でスマホを眺めながら、鈴木が呟く。その隣に立つ佐藤が尋ねる。
「まさか……作詞作曲もあいつらか?」
「ええ、編曲はアメリカの大物アーティストにお願いしたみたいだけど」
「……ダンスは?」
「韓国からKポップ界の大物振付師を招聘したそうよ」
「そ、そこまでやるか……」
 佐藤が両手を挙げて参ったというポーズを取る。
「そこまでやるのがあの二人なのよ……」
 鈴木が笑みを浮かべながらインスタグラフに新たに上がった綺麗と雄大の動画にいいねを押すのであった。




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