『天ノ川綺麗と天ノ川雄大の姉弟はとどまるところを知らない!』第1話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】
あらすじ
日本を代表する、世界的な企業グループ、『天ノ川グループ』。そのグループの社長令嬢と令息である天ノ川綺麗と天ノ川雄大は二卵性双生児の双子の姉弟で、この春、揃って高校生となった。
二人は親から、高校卒業後は大学に通いつつ、グループの仕事を本格的に手伝うように言われている。つまり、自由に過ごすことが出来るのは高校での三年間だけ……そこで姉弟が導き出した結論は……『高校生活を極める!』というもの。
ハイスペックな姉弟がハイスクールライフを徹底的に謳歌する!
本編
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「いたか、鈴木!?」
七三分けの男子がおかっぱ頭の女子に尋ねる。
「いないわ、佐藤は見つけたの!?」
鈴木と呼ばれたおかっぱ頭が問い返す。
「いいや……」
佐藤と呼ばれた七三分けが首を左右に振る。
「くっ、一体どこに……」
鈴木が爪を噛む。
「天ノ川グループが経営する『天ノ川学院』の入学式に、肝心のグループの跡継ぎ二人がいなくては大変だぞ!」
「ええ……」
「お付きの俺たちの責任が厳しく問われる……!」
「そんなことは分かっているわよ!」
鈴木が声を上げる。
「俺に当たるなよ!」
「先に騒いだのはそっちでしょう!?」
「なにを!?」
「なによ!?」
佐藤と鈴木が睨み合う。佐藤がため息をつく。
「……やめよう、ここで揉めてもしょうがない……」
「そうね……」
「しかし、どこに行ったんだ?」
「駐車場には車はあったわ。ドライバーさんも見てないって」
「校門に行ったが、警備員さんたちも見ていないそうだ」
「では……」
「ああ、帰ったわけではなさそうだ」
「いえ、まだ分からないわ……」
「えっ?」
鈴木が右手の人差し指で空を、左手の人差し指で地面を指差す。
「空か地下から脱出した可能性が残っているわ……!」
「ば、馬鹿な……」
「まったくありえない話ではないわ! 私はヘリポートに向かうから佐藤は下水道を!」
「い、嫌だよ!」
佐藤が拒否する。
「そんなことを言っている場合!?」
「それなら代わってくれ!」
「嫌よ、汚いもの!」
「汚い方を押し付けるなよ!」
「こうしている間にも敷地内から抜け出しているかもしれないのよ!」
「さ、さすがに下水道はないだろう……」
「そんなの行ってみないと分からないでしょう!」
「お、おい、引っ張るなよ!」
「早く探しに!」
「ええ……」
「ええ……じゃない!」
「……何を騒いでいらっしゃるの?」
金髪のロングヘアの美人が声をかける。
「! き、綺麗お嬢様……!」
「花子、校内ではお嬢様はやめてって言っているでしょう」
綺麗と呼ばれた金髪ロングヘアが鈴木を注意する。
「も、申し訳ごさいません……」
鈴木が丁重に頭を下げる。
「敬語も禁止」
「ご、ごめん……」
「それで? 二人で何を騒いでいらっしゃったの? 中学生気分は卒業なさい。体育館では入学式の最中よ」
「そ、それよ!」
「……?」
「あなたたち二人が入学式を抜け出したりするから探しに来たのよ!」
「ああ、そうだったの……」
「そうだったの……じゃないわよ! どこに行ってたの?」
「う~ん、どこというか……」
「これから向かうところだ……」
「! 雄大坊ちゃま!」
佐藤が声を上げる。視線の先には無造作風のヘアスタイルをした少し長い銀髪のハンサムな男子が立っていた。男子が佐藤を睨む。
「太郎……坊ちゃまはいい加減やめろって言ってるだろう」
「も、申し訳ございません……」
「敬語もだ」
「す、すまん……」
「しょうがないなあ……」
銀髪の男子は髪をかき上げる。佐藤はムッとする。
「しょうがないなあじゃねえ! お前も何をしていやがる!」
「……姉さん」
銀髪の男子が金髪の女子に視線を向ける。金髪の女子が頷いて話し出す。
「お二人ももしかしたら聞いてらっしゃるかもしれませんけど……わたくしたち姉弟は高校卒業後、本格的に家業の手伝いに入ることとなります」
「は、はあ……」
鈴木が間の抜けた反応をする。
「無論、大学にもきちんと通う予定です。学業と仕事の両立……かなり多忙なスケジュールになるでしょうね……」
「へ、へあ……」
佐藤がさらに間の抜けた反応をする。
「……つまり!」
「「!」」
金髪の女子の鋭く通る声に鈴木と佐藤がビクッとなる。金髪の女子は笑みを浮かべながら、右手の三本の指をたてる。
「わたくしたち姉弟に残された自由な時間はこの高校で過ごす三年間のみなのです……!」
「……それが何故に入学式を抜け出して良いということに?」
鈴木が問う。
「幼稚舎からのエスカレーター式のこの学院……その学院の高等部の入学式などはっきり言って時間の無駄です」
「じ、時間の無駄って……」
金髪の女子の物言いに佐藤が思わず苦笑する。
「……わたくしたち姉弟は話し合って決めたのです」
「……なにを?」
鈴木が重ねて問う。金髪の女子が銀髪の男子に目配せする。二人が声を揃えて宣言する。
「「高校生活を極める!」」
「「!?」」
「……というわけで、部活動の入部チラシも受け取りに行ってきた」
銀髪の男子が何十枚もの紙の束をカバンから取り出す。佐藤が戸惑う。
「う、受け取りに行ったのかよ、ああいうのは普通は待ち構えられてるもんなんだが……」
「全員面食らった様子だったな」
「そうだろうな……」
「そして、これから入部してくる」
「えっ!? も、もう決めたのか!?」
「ああ」
「な、何部だ?」
「卓球部だ」
「わたくしもですわ」
「ええっ、綺麗も入るの?」
鈴木が驚く。
「ええ」
「な、なんでまた……?」
「卓球には混合ダブルスというものがあります」
「! ま、まさか!」
「そう、わたくしたち姉弟でそれに臨みますわ……!」
「そ、そんな……」
「えっと……」
言葉を失う鈴木の横で、佐藤が自らの側頭部をポリポリと搔く。
「花子、太郎、あなたがたお二人はわたくしたちお付きということではありますが……どうぞご自由になさっていただいて構いませんわ」
「あ、は、はい……」
「というわけで行ってくる……!」
銀髪の男子と金髪の女子が並んで卓球場の方に颯爽と向かう。
「い、行ってしまった……」
「はあ……私たちも卓球部に入部するわよ」
「えっ!? い、今自由にしていいって……」
「だからこそよ。私たちも自由意志で卓球部に入部するの」
「え、ええ……」
「ええ……じゃない。忘れてしまったの? 子どもの頃の決意を?」
「! い、いいや、忘れていないぜ……!」
「私たちはあの天ノ川綺麗(あまのがわきれい)と……」
「天ノ川雄大(あまのがわゆうだい)の生き様を見届ける……!」
鈴木と佐藤は顔を見合わせて頷き合い、天ノ川姉弟の後を追いかける。
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「ちょ、ちょっと待てよ、雄大!」
佐藤が天ノ川姉弟の弟、雄大を呼び止める。雄大は振り返る。
「……なんだ?」
「なんだ? じゃねえよ! 卓球部を辞めるってどういうこった!? まだ仮入部期間も終わってねえのに!」
「とりあえず、卓球は一区切りだ」
「い、いくらなんでも早すぎるだろうが!?」
「太郎、お前も見ただろう……?」
「ああ、全国優勝ペアに勝っちまったな、お前と綺麗ちゃん……」
「あくまでも練習試合とはいえ、俺と姉さんが実質日本一ということでいいだろう。相手は終盤は明らかに本気モードだったしな」
「一体どうやったんだ?」
「箱根にうちのグループが所有している温泉宿があるだろう」
「ああ、俺と鈴木も何度かついて行ったことがあるな」
「あそこに世界一のペアを中国から招き、春休みの一週間、特訓していた」
「! わ、わざわざそんなことを……!?」
「当然だろう、日本一に勝つなら世界一だ」
「ちょ、ちょっと待て……温泉卓球で日本一になったのかよ!?」
「まあ、結果的にはそういうことになるかな……」
「おいおい……」
「まさか浸かっていた温泉がドーピングに引っかかるとでも言うのか!?」
「そうは言ってねえよ! 発想が怖いな! お前らの実力だということはよ~く分かっているさ……」
佐藤が雄大を落ち着かせる。
「ふむ……」
「で? これからどうするんだ? 帰宅部か?」
「帰宅部のレジェンドを目指すのも面白そうだが……」
「いや、冗談だよ、真に受けんな」
「……別の部活にすでに目を付けている……」
「え? なんだよ?」
「興味あるのか?」
「そりゃああるさ」
「そうか……では、三日後、この会場まで来ると良い……」
雄大がスマホを佐藤に見せる。画面を見た佐藤が目を丸くする。
「これは……幕張の……?」
「準備があるから、俺は今日は帰るぞ」
「あ、ああ……ひょっとして……」
三日後、幕張の会場に佐藤と鈴木が赴く。煌びやかなステージの壇上でスーツ姿の男性がマイクを通じて声高らかに叫ぶ。
「日本有数のゲームの祭典、『eーフェスティバル』にようこそ!」
「やっぱりeスポーツか!」
佐藤が声を上げる。
「なるほどね……」
鈴木が頷く。
「なにがなるほどなんだ?」
「eスポーツは高校生でも日本一になれる可能性のある競技だわ」
「! 雄大と綺麗ちゃん、優勝を狙ってんのか!?」
「そりゃあ、あの二人なら当然狙うでしょう……」
「そ、そんなに上手くいくもんかね……?」
「私たちは見守るだけよ……」
大会が進んでいく。司会の男性が声を上げる。
「さあ、続いては『ゾンビの鉄人』部門だ!」
「うおおっ!」
観客席から歓声が上がる。
「聞いたことのないゲームだが、観客は盛り上がってんな……」
「あ、見て!」
鈴木がステージ上を指差す。綺麗と雄大が登壇する。
「それでは、全国各地のゲームセンターでの予選を勝ち抜いた、二組による対戦だ!」
「対戦型のゲームなのか?」
司会の言葉に佐藤が首を傾げる。
「佐藤、知らないの?」
「知らねえ……太鼓型の筐体が置いてあるから、リズムゲームかと……」
「太鼓を叩いて生じた衝撃波で迫りくるゾンビを倒すゲームよ」
「銃を撃つのじゃ駄目なのかよ、太鼓要るか?」
「あっ、始まったわ!」
綺麗と雄大は見事なプレーを見せる。観客たちが感嘆とする。
「やるな、あの高校生ペア……!」
「ああ、このゲーム、ゾンビのグラフィックが異様にグロくて、直視に堪えないんだよな……」
「あのペア……目を閉じてプレーしていやがる……!」
「あれなら画面を見なくて済むもんな……でも、後半のステージってゾンビの出現順が完全にランダムじゃなかったか?」
「……耳だ! 耳で音を聴いて、ゾンビの位置を把握しているんだ!」
「か、神プレーだ……!」
「……」
隣に座る観客たちの盛り上がりを佐藤は黙って聞く。ゾンビの鉄人部門は綺麗と雄大ペアが抜きん出たプレーで優勝した。
「続いては、『ノムさんの野望』部門!」
「うおおおっ!」
観客席から大歓声が上がる。佐藤が首を傾げる。
「また知らないゲームだ……」
「プロ野球の監督になって、野球史上に名を残す名選手たちを集め、強力なチームを作り上げていくゲームよ」
「……シミュレーションゲームか?」
「まあ、見ていなさい……」
「打ったー!」
「あの高校生ペアの兄ちゃん、良いバッテイング操作だぜ!」
「投げた! 三振!」
「あのペアの姉ちゃん、絶妙な投球コントロールだぜ!」
雄大と綺麗のプレーに観客が湧く。鈴木が呟く。
「このゲーム、実際の試合での操作の巧拙が鍵を握るのよ……」
「いや、名選手を集める意味は!? 普通に野球ゲームやれよ!」
佐藤が思わず声を上げる。ノムさんの野望部門も綺麗と雄大ペアが圧倒的な強さで優勝した。
「続いては、『値切りがお得Ⅶ』部門!」
「うおおおおっ!」
観客席から大大歓声が上がる。佐藤が首を捻る。
「またまた知らないゲームだ……」
「値切って買った装備を身に着けて、魔王を倒すゲームよ。どれだけ安上がりな武器や鎧を集められるかが鍵を握るわ」
「……なんでお前はそんなに詳しいんだよ?」
佐藤が鈴木に問う。
「世界的に大ヒットしているシリーズよ?」
「そうみたいだな、ナンバリングがⅦだもの……しかし、どういうゲームなんだ? 説明を聞いてもいまいち……」
「まあまあ、見ていなさいよ……」
「おおっ、値切ったー!」
「あのペアの兄ちゃん、なんていう交渉力だ!」
「また値切ったー!」
「信じられねえ! レア武器をあんな安価で!?」
「またまた値切ったー!」
「うわあっ! 最強の剣と盾と鎧が揃った!」
「これなら魔王も楽勝じゃねえか?」
「いや、Ⅶの魔王は強いぞ?」
「……!」
「おおっ!? ペアの姉ちゃんの魔法が決まったぞ! これでとどめだ!」
「いや、結局魔法かい! 装備を買いそろえた意味は!?」
佐藤が叫ぶ。値切りがお得Ⅶ部門も綺麗と雄大ペアがぶっちぎりの強さで優勝した。綺麗と雄大ペアは三冠を獲得した。大会終了後にもメディアやファンの注目を集めたのは、綺麗と雄大だった。
「たった一晩で『日本eスポーツ界に天ノ川姉弟あり』っていうことを世界中に知らしめちゃったわね……」
鈴木が両手を挙げて参ったというポーズを取る。
「その世界には俺は含まれてはいないようだがな……」
佐藤が苦笑しつつもステージ上で三つのトロフィーを誇らしげに掲げる雄大と綺麗に対して惜しみない拍手を送る。