部活はやめたけどトランペットは吹きたい
トランペットが吹きたい。
私は、高校では吹奏楽部に入っていた。
二年生の初めまで。
楽器はトランペットだ。
なぜトランペットを選んだのかというと、純粋にかっこいいからだ。
あんなにハリと勢いのある音を出す楽器には、憧れがあった。
部員は吹奏楽部にしては少なく、楽器初心者が多かった。
私はピアノを習っていたので音感はあり、楽譜も読めるので何とかなっていた。
ただ、トランペットの練習方法という練習方法がよくわかっていなかった。
同じ楽器の先輩が一人だけいたので教わっていたが、今思えばひたすらに気合で高い音を出す練習をしていた。
そして、私は部員の大半の人と違うコースを選んでいたので、授業を終えてから急いで部活に行っても、30分くらいしか練習できなかった。
このころは運指を覚えて、気合でFまで出す練習をひたすらやっていた。
1年目の後期になって、いきなり先生が変わった。
そして、吹奏楽部の先生になりたいから学校に来たというかわいらしい方が顧問になった。
それから吹奏楽部は変わった。
まず、紙パックを用意するように言われた。それを口に当てて、紙パックをべこべこ言わせるように呼吸するのだ。きつい。そして、腹筋がつらい姿勢を保つ。
吹奏楽部っぽくて楽しかった。
それから、トランペット奏者の方に息の入れ方や練習の仕方など、いろいろなことを教えていただいて、練習をするという日々が続いた。
放課後の練習時間も長くなっていったが、私はそれでは足りなかったため、朝も練習した。
少し経ってから、様々な高校のトランペット初心者だけで講師の方に指導してもらったこともあった。
その時、「君、唇厚いね」といわれたことが、ここから心に残り続ける。
周りを見てみると、唇が薄い人ばかりだったのだ。先輩も、隣の人も、先生も。皮膚にメスを入れて、血がでてきたのかというくらいの。
その時初めて、トランペットが向いていないと思った。
私は小さいころから唇が厚いといわれて育ったので、自覚はあった。
別に唇が嫌いなわけでもなかった。楽器を変えようかと思った。
けど、部活動体験の時にはすぐにマウスピースの音が出たという謎の自信があったのと、何よりトランペットを吹けるようになりたかった。
私がどれだけ下手なのかもわかっていて、それでも少しだけできるようになっている気がして楽しかったから、続けたかった。
先生が来て少し経ってから、クリスマスコンサートもやった。
「合奏ができている」という感じがして、ぞくぞくした。音が重なったら楽しかった。
これからもっとうまくなりたいと思った。
しかし、部員たちはそうは思っていなかったらしく、どんどんやめていった。
そして、なんと部員は私を含めて楽器初心者一年生3名だけになった。
吹奏楽をやりに来た先生も想定してなかっただろう。
私もびっくりだ。
だが、私も色々な理由を絡めてやめたいという気持ちと、別にトランペットはうまくないけどこのままやめるのもいやだという気持ちが戦い始めていた。
なんやかんやあって、4月には多くの新入部員を向かえることができた。
そこでトランペットにも後輩ができた。ひとりは経験者。もう一人は初心者。しかしその初心者がトランペットを始めて持ったとは思えないほど高い音を出すのだ。
その時の私は、もうそろそろ高い音も出せるようになりたいと少し焦り始めていた。
そんな時に一発で出されるのだ。心もおれる。
そして何より二人とも唇が薄い。
いまなら、先生がその時「あなたは上達の速度が遅いわけではないよ、普通だよ」といった理由もわかる。
それと同時に、いつか先生に言われた「賢い人のほうがうまくなるのが早い」という言葉も脳裏に浮かび続ける。
結局、色々考えて、やめた。
まあ、要するに私も逃げた。
今思うと、すごく逃げてる。もうちょっと根気見せてよ。戦ってよ。
いまの私は、あの時ほど人と比較することはない。しかし、周りが上手い中で、練習とはいえ一緒に音を出すことができるのだろうか。いや、出せなかった悔しさをばねに練習して、出せるようになっていくものな気がする。
楽器は好きなので、トランペット吹きたい欲を収めるようにウクレレやカリンバ、ギターやオカリナやリコーダーなど、家でもできる楽器をいろいろやっている。
けど、いまだにトランペットを吹きたい。基礎練などをやり続けて、ちょっとだけでも吹けるようになりたい。そして、あの強くてまっすぐな音を出したい。
なんせ、トランペットはいくら消音にしても音が大きくて、なかなか練習できる場所がない。
昨日も、先生に頭を下げて吹奏楽部に入らせてもらって、部員の人たちと走ったりチューニングをして音が違うと怒られたりする夢を見た。楽しかった。
やっぱり、トランペットが吹きたい。
Amazonでトランペット買って山の方の広い公園で練習しようかな。できそうだな。
絶対に越えたら強くなれる壁だったんだと今なら思える。
次から、やたらと辛い、悩ましくてやめたくなるような現実があったら、
「これは壁だな?乗り越えたら強くなれそうなやつだな?」
と思って、頑張ってみようと思う。
病院にはお世話にならない程度に。
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