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自転車事故の責任が問われた事例は・・

今回は,これまでストックしておいた自転車事故で、自転車側の責任が問われた事例について列挙してみました。
自転車利用者の皆さん注意して運転してくださいね。


|自転車の刑事責任

自転車が加害者となる事故を発生させた場合、基本的には次のような罪に問われる可能性がある。

〇 過失傷害罪(第209条)
不注意により他人に傷害を与えた場合
罰則:30万円以下の罰金または科料

〇 過失致死罪(第210条)
不注意により他人を死亡させた場合
罰則:50万円以下の罰金

〇 重過失致死傷罪(第211条後段)
重大な不注意により他人を死傷させた場合
罰則:5年以下の禁固若しくは禁錮または100万円以下の罰金
注)2025年6月より改正刑法が施行され、懲役刑と禁錮刑が廃止されて「拘禁刑」となる。

〇 業務上過失致死傷罪(第211条前段)
反復継続して自転車の運転行為を業務として運転している者が、必要な注意を怠り他人を死傷させた場合
罰則:5年以下の懲役若しくは禁錮または100万円以下の罰金

👉 重過失致傷罪の例としては、
・スマホを見ながら運転していて事故を起こした場合
・信号無視をして事故を起こした場合
・飲酒した状態で運転し事故を起こした場合
など重大な過失・不注意による事故。

👉 業務上過失致死傷罪の例
自転車事故の場合、従来は過失致死傷罪や重過失致死傷罪などが適用させてきた。それは運転免許を必要としないこと、車ほど危険な乗り物ではないということなどからである。

しかし、2022年12月、デリバリーサービス配達員が横断歩道横断中の高齢男性と衝突し死亡させる事故を起こした事案に対して,ロードバイクでスピードを出して運転中であったこと,自転車を利用した配送業務であることなどから「業務上過失致死罪」で起訴された。

|責任を問われた事例

最近の自転車事故で責任を問われた事例をあげる。
なお、罰金刑以上の刑事罰を受けると、医師、看護師、栄養士、調理師などの免許が与えられないことがあるので要注意。

これらの職に就くことを目指して大学などに進学しても、自転車事故などで刑事罰を受けると、就きたい仕事に就けなくなるおそれがあるなど副次的なデメリットがあることを認識しておくことも必要である。

〇 子供同乗の自転車を運転中の女性が横断歩道で歩行者と衝突した事故
子供を乗せた自転車を運転していた女性が子どもの会話に気を取られ、赤信号(対面にある車両用信号機)に気づかず横断歩道に進入し、横断歩道を歩行中のAさん(当時65歳)に衝突し、全治7ヶ月の脳挫傷などのケガをさせた
「重過失傷害罪」で禁錮1年4月、執行猫予3年の判決(横浜地裁)

〇 歩行者専用道路を自転車で走行中に歩行者と衝突
歩行者専用道路上を、電動アシスト自転車で、左耳にイヤホンを付け、右手にペットボトル、左手でスマホを持った状態で自転車を運転中、スマホをズボンの左ポケットにしまおうとして歩行中の歩行者に気づかず衝突させ、脳挫傷で死亡させた。「重過失致死罪」で禁錮2年、執行猫予4年(横浜地裁)

○ 自転車で横断中の歩行者と衝突、横断歩行者の女性が死亡した事故
横断歩道のある交差点で、自転車に乗った女性会社員(47)と横断歩道を横断中の歩行者(75歳女性)が衝突し、歩行者が頭を強く打ち死亡した交通事故。

自転車に乗っていた会社員の女性は、時速30~40キロの速度で交差点に進入し、かつ横断歩道があるのに横断者の有無などの安全確認を怠った過失があるとして「重過失致死罪」で書類送検された。

○   自転車と歩行者の衝突、その後逃走したひき逃げ事故
下り坂を自転車に乗って約25km/hの速度で走行していた会社員の男性(37)が、前から歩いてきた60代の女性に衝突、転倒させ、頭に大けがをした女性を救護せずにその場から逃げたひき逃げ交通事故。

自転車の男性が前をよく見ていなかったもので、前方不注視等が原因であるとして「重過失傷害罪、道路交通法違反(ひき逃げ)」の疑いで書類送検された。

○ 自転車が酒酔い運転で歩行者をはねて現行犯逮捕
自転車通行可の歩道を飲酒して自転車を運転していた男性(35)が、歩道を歩いていた小学生二人に衝突して負傷させた交通事故。
自転車は酒酔い状態であったことから「重過失傷害と道交法違反(酒酔い)」の疑いで現行犯逮捕され送検された。

○ 前方不注意の自転車が歩行者をはねて現行犯逮捕
幅員7mの河川敷道路を自転車に乗っていた男性(44)が、犬の散歩をしていた男性(67)に衝突、散歩中の男性は頭の骨を折る重傷を負った交通事故。

自転車を運転していた男性が前をよく見ていなかった前方不注視による事故であることから「重過失傷害」の容疑で現行犯逮捕され送検された。

○ 前かががみで運転中の自転車が歩行者と衝突し現行犯逮捕
スポーツタイプの自転車に乗用中の男性(44)は、前かがみになって歩道を運転していたため直前しか見えずに対向歩行していた女性(89)に気付くのが遅れて衝突、女性は転倒して頭を打ち死亡した交通事故。

スポーツタイプの自転車を運転していた男は、重過失傷害の容疑で現行犯逮捕され、女性が死亡したため「重過失致死罪」で送致された。

○  自転車(大学生)の死亡ひき逃げ事故で逮捕
男性(77)が自宅マンション前の歩道の一部に立てた脚立に乗って作業中、歩道を走行してきた大学生が乗車する自転車が脚立に衝突し、脚立が倒されて乗って作業中の男性が転落死した交通事故。

事故後、自転車はそのまま逃走したためひき逃げ事件として捜査の上「重過失致死罪及び道交法違反(ひき逃げ)」の疑いで逮捕され送検された。

○ 死亡事故を誘発した自転車に「重過失致死罪」を適用
国道交差点で、赤信号で横断してきた男性(96)が乗る自転車を避けようとしたトラックが道路脇の建物に衝突し、運転者が死亡した交通事故。

この交通事故で、赤信号を無視した自転車を運転していた男は「重過失致死罪」で取り調べを受け書類送致された。
裁判で裁判官は、「信号に従って通行するのは自転車運転者の義務」とした上で、横断歩道を自転車で横断中の高齢者が赤信用を見落として自転車で横断し事故を引き起こしたのは重大な過失」と自転車の過失を認定し、禁固1年4ヶ月執行猶予3年の実刑判決を言い渡した。

|民事上の責任

加害者である自転車の運転者は、自転車事故を起こすと民法第709条の不法行為責任を負うことになる。
加害者である運転者以外の者は、民法715条の使用者責任または第714条の監督者責任の適用がある場合を除き、たとえ加害自転車の保有者であっても責任を負うことはない。

しかし、2024年11月より自転車の飲酒運転に係る罰則が強化され、運転者はもちろんだが、
・飲酒運転をするおそれのある者に自転車を貸した者(車両貸与罪)
・自転車運転者であることを認識しながら飲酒させた者(酒類の提供罪)
・飲酒運転の自転車に同乗者
の行為が違反とされたことから、自動車と同様に、今後は車両を提供した者などが民事上の責任を負うこともあり得るであろう。

|賠償責任の事例

近年、自転車事故の加害者が、収入のない中高校生などのときには、損害賠償金の支払いが大きな問題となる。
自転車事故による損害賠償額には次のようなものがある。

〇 11歳(小5)の少年が下り坂をライトを点灯したマウンテンバイクで下っていた際に、進路上を散歩中の女性に気がつかず正面衝突し、女性は転倒、頭を強く打ち脳挫傷の重傷を負った。意識は戻らず、四肢拘縮などの後遺障害も残った。(損害賠償額約9,500万円)

○ 高校2年の男子が、登校時に猛スピードで下り坂を走行中、高齢者と接触し、高齢者が転倒して死亡。(損害賠償額1,054万円)

○ 高校1年の女子が、傘をさしながら走行中にT字路で自転車と出会い頭に衝突し、相手方の左大腿部を骨折させた。(損害賠償額505万円)

○ 高校1年の女子が、道路の右側を走行中に対向してきた主婦の自転車と接触し、主婦が転倒、後日死亡。(損害賠償額2,650万円)

○ 駅付近の混雑した歩道で、自転車に乗った男子高校生が主婦とすれ違ったときに、自転車のハンドルが主婦のショルダーバッグの肩ひもにひっかかり、主婦が転倒してケガをした。(損害賠償額1,743万円)

○ 女子高校生が夜間、携帯電話を操作しながら無灯火で走行中に、看護師の女性と衝突。女性には重大な障害が残った。(損害賠償額5,000万円)

○ 自転車で通学中、歩行者に衝突し転倒させ、脊髄損傷による麻痺(後遺障害)が残った(損害賠償額6,008万円)

○ 白色実線内を歩行していた老女が、電柱を避けて車道に進出時、無灯火で自転車を運転して対向進行してきた中学生(当時14歳)と衝突し、老女が頭部外傷による後遺障害2級の障害を残した。(中学生の損害賠償金は約3,120万円)

👉 中高校生も責任を負う?
中高校生が自転車事故の加害者になった場合、損害賠償責任について、判例で中学生にも責任能力を認めていることから、当然に高校生にも責任能力はあるとされる。
したがって、中高校生でも損害賠償金は就職して給料が貰えるようになってから支払うことになるのだ。

また、民法第714条では「責任弁識能力のない者の責任は、監督義務者がその責任を負う」としているので、被害者は、加害者の親等に対して損害賠償請求をすることができる。

子どもが起こした自転車事故は、加害者に責任能力がないとその監督義務を負う者が賠償の責任を負う、という民法714条、もしくは民法709条により責任を追及する場合がある。
709条を噛み砕くと、自分の行為(故意or不注意)が他人の権利や利益を侵害すれば損害賠償しなくてはならない、となる。つまり「親の監督責任そのもの」が709条の不法行為になりうるのだ。

親が子供に対して交通事故防止、自転車の安全利用について必要な監督指導を行っていないと認められる場合には親に賠償責任が発生することになる。

なお、ここに記載したのは裁判確定のものであって、損害賠償保険の支払いなどでは2億円台の事例もある。

|おわりに

交通事故といえば、自動車事故ばかりイメージするが、自転車も軽車両に該当し、自動車との事故は車両相互事故として、また歩行者との事故は人対車両事故として扱われるのだ。
自転車事故でも交通事故であり、自転車事故の当事者になったときは警察への届出をする義務がある。

また、業務上過失致死傷罪が適用された事例があったが、自転車で仕事をする人はもちろん、通勤で自転車を使用する人もスピードを出したり危険な運転をすれば、車と同等の責任を負うということを自覚して運転することが肝要だ。

自転車保険の加入も必要です。年齢制限もないのでこれが良いかも・・。
サイクル安心保険 https://www.jtsa.or.jp/jitensyakai/index.html

参考資料