はみ禁の場所で、先行する自転車等低速車を追い越せるか?
|結論
法律的には右側部分にはみ出すことは禁止。しかし自転車や小型特殊など低速度で進行する車両が進路を譲らない場合や避譲しても前の車両の右側部分に十分な間隔がとれない場合には、対向車の有無等周囲の安全を確認しつつ最小限度において中央線(黄色)を超えて追い越しをすることが容認されることになるであろう。
つまり、追い越しても直ちには違反として問議されないであろうと考える。
|”X(旧Twitter)"の記事から
”X”に、
追い越しのための右側部分はみ出し禁止規制のかかっている道路の部分で低速車が先行する場合に後続の車はどうしたらよいか?
中央線が「黄色い実線」の場合には右側部分にはみ出しができないのでは・・・?
という投稿があった。
いろいろな方の見解・主張があったので・・・私見を書いておきます。
|はみ禁規制に例外はない
道路中央線が黄色標示され、道路標識「はみ禁」の設置されて
「追い越しのための右側部分はみ出し禁止」の規制
には、法令上の除外事由はないので、厳密には、たとえ先行する車(被追越し車両)が法定速度の低い小型特殊や原付、軽車両であっても右側部分にはみ出して追越しはできないことになる。
|はみ禁規制の趣旨
追越しのため右側部分はみ出し通行禁止違反は、追越し時における対向車との衝突事故を防止するために、道路の右側部分にはみ出すことを禁止したものです。
当然、追い越し禁止ではないので、右側にはみ出さなければ追越しは可能ですが、前車(披追越車両)の種類に関係なく追い越しをするために右側部分にはみ出して進行してはいけないということです。
したがって、前述のように前車が軽車両や原付、小型特殊などの低速度車両であっても、これを追越すために右側部分にはみ出して通行すると違反になります。
|これには矛盾を感じる
とはいえ、矛盾を感じますよね。
なぜなら、前車が低速しか出せない車両(小型特殊自動車は時速15km/hを超える速度を出すことができない構造である)や軽車両(自転車など)の場合に、この前車(被追越車両)に追い付いた普通乗用車を運転してる人にとっては、どこまでその状態が続くのか不透明であり、かつ右側部分にはみ出すことができないことから追い越すことができないので(追い越す幅員があれば別)・・・いつまでも追従し続けなければならないことになり、極めて精神的にも安全運転の観点からも問題があるといえます。
|被追越し車両の義務
ところで、道路交通法上は、キープレフトが原則、さらには追い付かれた車両側には「他の車両に追いつかれた車両の義務」(法第27条)があります。
それによれば、「追いつかれた車両」側は、『進路を譲る義務』(道路交通法第27条2項)があり、道路左端に寄ることで右側に余地ができるのであれば、後続車は右側部分にはみ出さずに追い越しをすることが可能になります。
また、前車が左端に寄って一旦停止をして進路を譲るのであれば、追い越しとはならず、停車中の車両の側方を通過して右側部分にはみ出したとしても「追い越しのための右側部分はみ出し禁止規制」の構成要件に該当せず違反は成立しません。
|追いつかれた車両に期待できるか
しかしながら、自転車などの軽車両や小型特殊自動車などの低速車の運転者が、このように被追越し車両の運転者の義務(避譲義務)を確実に履行することの期待可能性は低いですよね。
現に多くの低速車両は左側端に寄っても、一旦停止するなどの避譲措置を講じることがなく、後車は先行車両の右側に十分な間隔、スペースがないことから追い越しすることが不可能な状態が続くことになります。
いつ前車(被追越し車両)が避譲してくれるのか不明な状態でのろのろと進行し続けると、通常は交通渋滞が発生して著しく交通の円滑を阻害することになり、道路交通法の目的である「交通の安全と円滑」を害することになるのです。
|期待可能性がない
一方で、交通が渋滞しなくとも、どこまで行くともわからないその自転車や小特の後に続いて進行することを、追い付いた後車の運転者に期待することも一般的には困難である考えられ、刑法上の
違法性阻却事由である「期待可能性の理論」
に照らして考えても、はみ出しの程度をできるだけ少なくして、対向車両等の安全を確認しつつ追い越すことを直ちに違法ということはできないであろうと考えられます。
したがって、追い越しのための右側部分はみ出し通行禁止規制のある道路の部分でも、自転車や小型特殊車両などの低速車両が先行しているときには、対向車両の有無、周囲の安全等を確認した上で最小限度の範囲において右側部分にはみ出して追い越しをしても違反として直ちに問議することはないのでしょうね。
|交通指導取締り基準
過去において、交通指導取締り基準(現在は非開示のようであるが・・)では、先行する低速度の車両がある場合でやむ得ない事情のある場合(例えば前車の速度が著しく低速など)には、追越しのために必要最小限はみ出しをした場合で具体的危険が生じなかったときには「指導警告」としていたことにも頷けますね。
なお、低速度の車両については、法定速度等が低いと言うことに限ることなく、現実には高齢者や運転不慣れなどにより、自転車のような低速度で走行している先行車を追い越す場合についても同様の考え方をとっているようです。
※現在は交通指導取締り基準等は非開示。TPOにより取締りを行っているといっている。
以上であるが、公開されている通達等において本件に関係する見解が明確に表記されたものは発見できなかったが、道路交通法解説(東京法令)に類似の見解が記載されていました。