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歩行者と車はカタキ同士?ではないよね

道路交通法は歩行者保護の考え方がベースにあるという。なぜなの?
今回は道路交通法の策定時の考え方などをひもといてみた。


|歩行者と車では最初から勝負にならない

歩行者には、幼児から高齢者までおり、さらには身体に障害のある人などもいる。
一方、車の運転者はというと、一定の要件を満たし運転することが許可(運転免許)された人であり、二輪であれ大型トラックであれ「鉄の塊」を動かし道路の大部分を占領しながら走行している。
そして両者による事故が発生すると、結果は目に見えている。

道路交通法は、交通の安全と円滑などを目的としていることから、交通の安全を確保するために、勝負にならない歩行者を保護することを基本理念としたという。

現行の道路交通法の立案作業に従事した内海倫(元交通局長、元人事院総裁)の著書「道交法とつきあう法」に歩行者優先とした理由について以下のような記述をしている。

 自動車と人間がぶつかった場合、どちらが大きな傷手を受けるだろうか。相手がス-パーマンでもないかぎり、この答えはあまりにも明らかだろう。車はすこしくらいへこむかもしれないが、ドライバーはほとんど無傷であるのに対して、歩行者は悪くすれば命を失うのである。
 つまり、車と歩行者は、同じ立場で比較できないほど、歩行者は弱い存在なのである。したがって、歩行者優先というのも、強い者が弱い者を保護するためにつけたハンディキャップのようなものといえよう。

|業務上の注意義務

車の運転者にとって、歩行者優先というのは、腹ただしい時もあるかもしれない。

歩行者の急な飛び出し、横断歩道のないところでの横断などにより万が一交通事故が発生すると、歩行者側にも過失はあるものの、車側は重い責任を問われることになる。

車を運転する人は、自動車運転という業務を行う場合には事故を起こさないように安全に運転する注意義務があるのだ。

そして、車を運転中に過失によって、人をケガをさせた場合「過失運転致傷罪」という犯罪になり、また人を死亡させた場合は、「過失運転致死罪」となる。

(過失運転致死傷)
第五条自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる

e-Gov法令検索::「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」

飲酒運転など一定の危険運転行為等により人を死傷させた場合には危険運転致死傷罪に問われることになる。

(危険運転致死傷)
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
一 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
二 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
三 その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
四 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
五 車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為
六 高速自動車国道(高速自動車国道法(昭和三十二年法律第七十九号)第四条第一項に規定する道路をいう。)又は自動車専用道路(道路法(昭和二十七年法律第百八十号)第四十八条の四に規定する自動車専用道路をいう。)において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行(自動車が直ちに停止することができるような速度で進行することをいう。)をさせる行為
七 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
八 通行禁止道路(道路標識若しくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいう。)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
第三条 アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた者は十二年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は十五年以下の懲役に処する。
2 自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた者も、前項と同様とする。

e-Gov法令検索::「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」

一方で歩行者がルールをまもらなかった場合には、自分を危険にさらすことになるので、罰則以上の罰を受ける結果になる。
また民事上の損害賠償請求等においても、歩行者側も過失相殺され実質的に賠償額が減額されるというペナルティを受けることになる。

|対歩行者事故の状況

歩行者と車(人対車)の交通事故の発生状況を見ると
 平成5年中は39,444件で、全事故件数の307、930件に占める割合は12.8%
である。

なお、この中には、車側の過失(法例違反)と合わせて歩行者側にも何らかの法令違反のある事故もある。

歩行中(第1当事者・第2当事者)死傷者数は8,164人であり約2割死傷者に法令違反があるという。

|おわりに

現在の道路交通法は、歩行者の保護・優先を基本理念としている。
そして良識ある運転者は、それは当然もしくは仕方がないと思うでしょう。

しかし世の中そういう運転者だけではない、事実SNSでは「道路交通法が間違っている」などと書いてる人もいる。

でも、自動車は鉄の塊であり一歩間違えば走る凶器と化するのである。
車と歩行者は、同じ立場で比較できないほど、歩行者は弱い存在なのであり、カタキ同士にはなりえないでしよう。

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