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菜食と動物倫理④日本の家畜動物

 現在、日本の家畜動物はどのような環境で生きているのでしょうか?
 採卵鶏(=卵を産む鶏)、ブロイラー(=食肉用の鶏)、豚、乳用牛、肉用牛の順にみていきたいと思います※3。

 採卵鶏の9割は、バタリーケージ(=B5サイズほどの檻)の中、羽を伸ばすこともできない状態で生かされています。8割は、鶏同士でつつきあうのを防ぐために雛のうちにくちばしを焼き切られます。産卵を始めて一年ほどで採卵率が低下していきますが、3分の2は二週間の強制換羽(=絶食・絶水などの給餌制限)で羽を抜け変わらせることで再び卵を産むようになります。
 運動不足と卵を産み続ける負担のために骨軟化症や骨粗鬆症にかかることが多く、出荷時には3割の鶏が骨折しています[26]。採卵鶏はもちろんみな雌なので、必要のない雄の雛は生まれてすぐに袋で窒息・圧死させるなどの方法で殺されます。日本で殺処分される雛の数は、一年におよそ1億羽ほどと言われています[27]。
 
 ブロイラーは、一平方メートルあたり15羽ほどの密集した畜舎の中で飼育されます。品種改変のため体重がすぐに膨らみ、自分の重みのためにほとんど歩けません。急激に体が成長するためバランスが取れず、しばしば足に炎症が起こります。生まれてから二か月弱で屠殺されます。

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 [図]品種改変により体型が作り変えられるブロイラー

 雌の豚の一部は繁殖用に飼育され、そのうち9割は、妊娠ストール(=体の向きを変えられない狭い檻)の中で食事、排泄、睡眠のすべてを行います。その為ストレスで檻の柵をかじり続けるなどの異常行動を示します。一年に2~3度子供を産みますが、子豚は生まれてすぐ、他の豚への害を避けるため6割は犬歯を切除され、かじられるのを防ぐため8割は尻尾を切られます。さらに肉に臭みが付くのを防ぐために雄の95%は去勢されます。これらは麻酔なしで行われることが多いようです。離乳後には子豚だけの畜舎に移され、六か月後に屠殺されます。
 ストレスや体に合わないトウモロコシなどの濃厚飼料の摂取のために、胃潰瘍を患うことがあります。屠殺される豚の6割は、病気などにより体の一部が損傷していると言われています[27]。

 乳牛は、乳を出させるために生涯で平均4回授精され、乳量が減ってくると食用にされます4分の3狭い区画でつながれて一生を過ごし(=つなぎ飼い)、ストレスで異常行動や病気がしばしば生じます。濃厚飼料を与えるために牛舎で育てられることが多いのです。子供は生まれて数日で母牛と引き離され、雌なら乳牛となり、雄なら肉牛でないために安く取引されます。

 肉牛は、霜降り肉(=脂肪が筋肉に網目状に入った状態)を作るために、人為的に体内のビタミンAを減らされながら飼育されます[27]。ビタミンAの減少により肉となった際の脂肪は増えますが、代わりに牛が失明するリスクを負います
 また、雄は生後数か月で去勢され、群れでの行動や運動を制限されるなか濃厚飼料で育てられます。肉牛は生後二年半ほどで屠殺されます。

 いずれの牛も人への害を防ぐために生後数か月で角が切られます。角には神経と血管が通っているため大きな痛みを伴いますが、8割は麻酔なしで行われます。また牧草などの粗飼料ではなく濃厚飼料を与えていると、牛の体に合わないために膨張症や酸毒症を患うと言われています[28]。

 もし健康に育ったなら、鶏は10年、豚は15年、牛は20年は生きると言われていますが、ここにみたように彼らが食用にされる場合、それよりはるかに早く命を絶たれるという現実があります。

<注>

※3家畜動物の現状については基本的に枝廣淳子『アニマルウェルフェア』(岩波書店 2018)を参考にしていますが、本書以外の情報を載せる際には参考文献を示しました。

<参考>

[27]佐藤衆介(2005)『アニマルウェルフェア―動物の幸せについての科学と倫理』東京大学出版会
[28]生田武志(2019)『いのちへの礼儀―国家・資本・家族の変容と動物たち』筑摩書房 前編第五章
[29] ポーラン, マイケル(2009)『雑食動物のジレンマ』ラッセル秀子訳 pp105-106



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