仲間と何億年も青春する「一億年のテレスコープ」
<SF(195歩目)>
読後に、現実世界に「戻ってきた・・・」と強く感じる作品でした。今年の代表作の一つになると思う。
一億年のテレスコープ
春暮康一 (著)
早川書房
「195歩目」は、春暮康一さんの長大なハードSF。この作品はとても面白いです。
「法治の獣 早川書房」を越えた宇宙探査SFで、スケールがとても大きい。
とても長大(でも、いろいろな理論を学べるお得感あり)なので、九部までの作品を九の中篇にもできる。いや、もっとかな。
特に前半と後半でスポットを当てているところが変遷している(でも、読み終わると一気通貫しているのですが)ので、3人の成長と研究。
3人のアップロード、3人のアップロード後。
たくさんの生命体と出会えていく。そして真理をつかめた後。
色々と見せ場が多いと思った。
天文学でなくても、人間には「未知(Unknown)」を明らかにしたい本能あり。この本能をベースにいろいろな作品を描いてほしいと思いました。
このきっかけだけで、春暮さんなら何作も描けそう。
一つ感じたことは、「大始祖」なる言葉。
ちょっと漢字でこう書かれると、なんとなく「三体」含めた中華SFテイストを期待する。あるいは、連想してしまう自分がいる。
でも、現代日本社会だと主人公は最大公約数的な「善人」である若者になっていく。ここが「文化大革命」等で複雑に社会を憎む主人公と異なるところで、きれいで美しい。けれど、アップロードまでの話よりも、後半に重きを置くともっと読者をひきつける気がしました。申し訳ありません。
それ以外は、壮大なSFの中で、ファンを唸らせる仕掛けあり。美しい友情あり。とても切なさ(思わず、涙腺崩壊した・・・)を感じるシーンあり。とても洗練された作品です。
また、異種知性体(おそらく春暮さんの得意分野)もキャラがたっている。この世界観でいくつか出してほしい。
また、いろいろなテイストありで、青春ものであり、ロードノベルものであり、そして何故か「オズの魔法使い 光文社古典新訳文庫」を感じさせたところあり。一冊で、いろいろな本を再読してみたいと感じた作品で、今年を代表する作品だと思いました。