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PMBOK第7版:原理・原則「6.リーダーシップ」の深堀り②

本記事の概要

本記事は、PMBOK第7版の12個の原理・原則のうち、「6. リーダーシップ」について深堀りした解説をしています。"プロジェクトマネジメント" と聞くと、タスクの役割分担、進捗やリソースの管理、リスクや品質管理など、管理業務を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。

それらも必要ですが、「管理」だけでは、不十分です。

  • 現代のプロジェクトマネジメントは、マネジメント(管理業務)に加えて、リーダーシップの発揮も求められています。

「リーダーシップ」と言われても、「マネジメント」との違いや、振舞い方について、いまいちピンとこない方もいらっしゃるかもしれません。

本記事では、そのような皆さまが悩まれるであろう、「リーダーシップ」のスタイルについて解説しています。

なお、「リーダーシップ」については、長くなりますので、数回に分けて説明をしていきます。本記事は主に「サーバントリーダーシップ」に焦点をあてていますが、トップダウン型など異なるリーダーシップのスタイルが気になる方は、下記で解説をしています。

「マネジメント」や「管理」との差異と、現代プロジェクトで必要な「リーダーシップ」の重要性については、下記の記事で解説しています。

この記事で学べること

  • プロジェクトマネジメントで活躍する様々な「リーダーシップ」のスタイルの中で、現代プロジェクトにおいて有力な "サーバントリーダーシップ" と具体的な行動を学ぶことができる。


すでにサーバントリーダーシップを理解し、実践的な取り組み事例が気になる方は、下記の記事がお役に立てるはずです。


また、PMBOK 第7版の12個の原理・原則については、下記の2つの記事で超ざっくり解説をしていますので、興味があれば参照して下さい。

それでは、本記事の内容に入っていきます。


1.「リーダーシップ」のスタイル

まず初めに、皆さまに質問があります。

  • 皆さまは、リーダーシップと聞くと、何を思い浮かべますか?

リーダーシップと聞して、学校の生徒会長、部活動の部長、つまり、チームの先頭に立ち、メンバーを強く引っ張るというイメージを持つ方が多いかも知れません。

他にも、人前に立ちカッコ良くプレゼンテーションができる人、であったり、様々な意見が出ることでしょう。
これらの行動は、必ずしも全員が行動に移せるものではないですし、人により得意、不得意もあります。
誤解しないでいただきたいのは、「不得意な方は、プロジェクトマネージャーの資質がない」と言うつもりは一切なく、PMBOKにおいても、そのような記載は私の知る限り存在しません

その代わりに、「リーダーシップのスタイルを状況に応じて使い分ける」という旨の記載があります。それでは、

  • "リーダーシップ" には、どのような "スタイル" があるのでしょうか。

個々の詳細説明に入る前に、もう少しだけ、補足させてください。

実は世の中には、本当に多くのリーダーシップのスタイルが存在します。
本記事は、リーダーシップについて具体的なイメージを持っていただくために、筆者が使い分けている代表的なリーダーシップのスタイルについて解説をします。

ここで伝えたいことは、"どのリーダーシップのスタイルが良い/悪い" という話ではなく、"どのようなリーダーシップ論や整理の仕方が良い/悪い" といった、リーダーシップ論の批評をしたいわけではありません。

  • 様々なリーダーシップのスタイルが存在することを念頭に、プロジェクトの状況に合わせ、より最適なリーダーシップのスタイルを適用すべき

ということです。
逆に言えば、ありとあらゆるプロジェクトにおいて、

  • 理由も無しに、常に変わらないリーダーシップのスタイルというのは、
    プロジェクトマネジメントの観点からは不適切

とも言えます。

本記事では、代表的なリーダーシップのスタイルの一例を紹介しますが、
必ずしも、私の紹介するものを使う必要はありません。

その前提で、リーダーシップのスタイルについて紹介していきます。


2.サーバントリーダーシップの概要と重要性

この言葉を聞いたことがある方は、アジャイル開発のプロジェクトを経験されたり、PMPの勉強をされている方ではないでしょうか。
逆に、多くの方はこの言葉を聞いたことがないかもしれません。

"サーバント" の言葉は、日本語で "執事" の意味となります。
プロジェクトの障害を取り除いたり、プロジェクトメンバーが成果を出しやすい環境を構築するなどによる、支援型のリーダーシップのスタイルです。

これは、PMBOK第7版でも触れられている特徴的なリーダーシップのスタイルです。

主なキーワードを並べると、傾聴、共感、気づき、先見、などが挙げられています。少し余談にはなりますが、日本にはサーバントリーダーシップをテーマに活動しているNPO法人もあり、サーバントリーダーには大きく分けて10種の属性があるとされています。

内容を詳細に覚える必要はありませんが、3章の初めに説明した、"メンバーを強く引っ張る" というイメージからはかけ離れているリーダーシップのスタイルが存在すると認識できれば大丈夫です。

【スピアーズによるサーバントリーダーの属性】
1. 傾聴 (Listening)
2. 共感 (Empathy)
3. 癒し (Healing)
4. 気づき (Awareness)
5. 説得 (Persuasion)
6. 概念化 (Conceptualization)
7. 先見力、予見力 (Foresight)
8. 執事役 (Stewardship)
9. 人々の成長に関わる (Commitment to the Growth of people)
10. コミュニティづくり (Building community)

NPO法人 日本サーバント・リーダーシップ協会
スピアーズによるサーバントリーダーの属性
https://www.servantleader.jp/about/10s

私が最初にサーバントリーダーシップを取り上げた理由は、昨今のプロジェクトマネジメントにおいて、最も現実的なリーダーシップのスタイルだと考えるからです。

例えば、新規ITシステムの構築案件において、プロジェクトマネージャーが "各IT領域の全てをチームの誰よりも熟知している" という状況は、なかなか珍しいのではないでしょうか。

と言うのも、新規にITシステムを1つ構築するにも、様々な専門スキルを有する要員が協力する必要があるからです。
例えば、下記のような領域と、それぞれの専門性が必要となります。

【新規ITシステム構築時に求められる専門スキルの例】
・ アプリケーションの開発(コーディング)
・ サーバーの構築
・ 仮想環境、クラウド環境、コンテナ環境
・ ネットワークの通信経路、FWやルーターなどのネットワーク機器
・ 認証基盤との連携
・ 死活監視やセキュリティ監視などの運用組織との連携
・・・などなど

実際には、要件定理、開発・実装、テスト段階など、フェーズにより必要なスキルは異なりますし、チームメンバーも変化することもあります。
このような状況下において、プロジェクトマネージャーが全てを熟知し、生徒会長や部活動の部長のように、メンバーの先頭に立つというのは、そう簡単ではありません。

また、これは、ITシステムの構築に関するプロジェクトに限定した話ではありません

B2Cのサービスのマーケティング業務においても、様々な業務に細分化されており、それぞれ専門的なスキルを担う要員で構成されています。幅広いマーケティング業務の領域において、企画から実装、運用まで全てを担うことのできる要員は、もはや超人とも言えるでしょぅ。

【B2C向けサービスのマーケティング業務の例】
・ ユーザの声や市場調査、トレンドの分析
・ セールスプロモーションの企画
・ 自社商品やサービスへのフィードバック
・ 広告バナーやCMの動画の作成
・ SEO対策
・ ブランドイメージや戦略の検討
・ SNSの運用
・・・などなど

つまり、現代においては、個々の業務領域について専門性が求められ、それぞれにスキルを有する要員がプロジェクトに参加することが多く、プロジェクトマネージャーが都度、専門的な内容を理解し、具体的な指示を出すことは非常に困難といえます。

プロジェクトのトラブルの原因として、

  • プロジェクトマネージャーが特定の領域について適切に見積もりができなかった

という事例を耳にしますが、それは現代プロジェクトでは当たり前のことであり、そもそもプロジェクトマネージャーが全てを理解し、正確な見積り作成や、個々の事象について指示をするのは、もはや適切ではないとも考えています。

サーバントリーダーシップは、各プロジェクトメンバーの特性を理解し、それぞれが最大限のパフォーマンスを発揮できるよう、必要な支援を行うものとも言えます。

3.サーバントリーダーシップの10の特性

サーバントリーダーシップの10の特性は、リーダーがチームメンバーとの信頼を築き、プロジェクトの成功に向けて必要なサポートを行うための基本的な資質を示しています。

概要について記載するのはもちろん、筆者が思いつく中で、可能な限りイメージのし易い【具体的な行動例】も記載しました。
今すぐ全ての特性をプロジェクトに反映することは困難かも知れませんが、本記事を参考に、少しずつ試してみてください。

3.1.具体的な行動:①傾聴(Listening)

相手の話に真剣に耳を傾け、言葉だけでなく、感情や背景に込められた意図を深く理解します。"アクティブリスニング" と呼ばれることもありますが、メンバーの意見、感情、考え方を受け止める姿勢を示すことで、信頼を構築し、円滑なコミュニケーションを促します。

【具体的な行動例】
・ 会議中に相手の話を遮らない
・ 相手の発言中はメモを取ることや、視覚的な表現(ボディランゲージや表情)などを通じて、相手目線で "話を聞いてくれている" と分かる行動をする。
・ メンバーの個人的な悩みを聞き、解決策をすぐに提示するのではなく、まずは相手の気持ちを受け止める
・ メンバーが感情的になった場合、相手が落ち着くまで静かに待つ。
・ 相手の発言を言い換えて確認することで、正確な理解を伝える。

3.2.具体的な行動:②共感(Empathy)

相手の視点に立って物事を理解し、その感情や状況に寄り添うことです。
単に寄り添うだけでなく、時には相手の置かれている立場や背景、価値観を考慮しながら、その人の行動の理由を推測することもあります。

メンバーとの会話の中で共感力を発揮すると、メンバーが尊重されていると感じ、モチベーションが向上することや、時にはメンバー間の衝突や誤解を解消することに繋がります。

【具体的な行動例】
・ プロジェクトの遅延など、問題の原因を特定する前に、相手のストレスや不安に共感する。
・ チームの誰かが体調不良や家族の問題を抱えている場合、その状況に配慮した柔軟な対応を提供する。
・ チーム内での対立が起きた際、全員の視点を理解し、それぞれの立場に共感しながら調停する。
・ メンバーの文化的背景や価値観を理解し、コミュニケーションスタイルを調整する。

3.3.具体的な行動:➂癒し(Healing)

メンバーのストレスや困難を理解し、支援を提供することで、心理的安全性や、心身の健康を向上させます。心理的安全性や心身の健康が保たれることで、チーム全体のパフォーマンスに良い影響を与えます。

【具体的な行動例】
・ メンバーのリフレッシュの時間として、休憩や小イベントを提案する。
・ メンバーが失敗した場合、叱責するのではなく、学びを共有し再挑戦の機会を与える。
・ チームに心理的安全性を提供するため、オープンでカジュアルなコミュニケーションを増やす。
・ 個別の問題を抱えるメンバーに対し、メンタリングなどの個別の会話の機会を提案する。

3.4.具体的な行動:④気づき(Awareness)

問題が顕在化する前に、その兆候を察知し、迅速に対応します。
メンバーの小さな感情の変化を察知することもあれば、プロジェクトの進行に影響を及ぼす可能性のあるリソース不足の可能性の早期に発見など、プロジェクトの様々な場面において、小さな変化や異変に気付き、大きなトラブルになる前に対応に繋げます。
また、サーバントリーダーシップの "気づき" の中には、自身の振り返りの内容も含まれています。

【具体的な行動例】
・ メンバーのパフォーマンス、モチベーション、健康面などの小さな変化を観察し、必要に応じてサポートを申し出る。
・ メンバーと個別に会話し、業務の進捗やモチベーションについて確認する。
・ 感情表現が苦手なメンバーにも注意を払い、個別に意見を求める。
・ 自分のリーダーシップスタイルの長所と短所を定期的に振り返るため、メンバーに対してフィードバックを求める。

3.5.具体的な行動:⑤説得(Persuasion)

指示や命令ではなく、対話を通じて相手の理解を得た上で、行動を促します。対話や伝え方には、感情や物語を利用する方法もあれば、客観的なデータを活用するなどの論理的な表現を行うなどの方法がありますが、相手に合わせて取捨選択し、メンバーが自発的に行動するための意欲や主体性を促進します。

【具体的な行動例】
・ ストーリーテリングや、成功事例、客観的なデータを用いて、意見やアイデアに説得力を持たせる。
・ メンバーに強制的に指示するのではなく、対話を通じて納得できる結論を引き出す。

3.6.具体的な行動:⑥概念化(Conceptualization)

大局的な視点を持ち、中長期的なビジョンを描き、短期的な目標と結びつけ、メンバーに伝えるなどにより、チーム一丸となって目標達成に導きます。
また、複雑な問題に対しては、その根本原因を把握し、問題の背後にある構造的な課題への解決策を提案するなど、チームが目標達成に必要な情報を整えることもあります。

【具体的な行動例】
・ 組織全体のビジョンや、中長期的な目標、計画などを策定する。
・ メンバーが抱える日々のタスクや課題が、プロジェクト全体にどのように影響するかを説明する。
・ 問題解決の方法の参考として、業界のベストプラクティスを紹介する。
・ 問題の根本原因への対応として、既存のプロセスやルールを見直す提案を行う
(その他、過去の成功や失敗事例を元に、プロジェクトに適用する新しい知見やアセットを整備する、なども同様)

3.7.具体的な行動:⑦先見力、予見力(Foresight)

過去の経験と現在の状況を踏まえ、未来を予測します。
これには、市場のトレンドを元に中長期的なビジョンを検討するような大局的な目線もあれば、プロジェクトの進行における潜在的なリスクを察知し、事前に適切な対応策を講じるような、日々の取り組みも含まれます
先見力は、チームを安全な方向へ導くために不可欠な観点です。

【具体的な行動例】
・ 市場や技術のトレンドレポートを定期的にチームと共有し、中長期的に目指すべき方向性を議論する。
・ プロジェクトで想定されるリスクを事前にリストアップし、対応策をチームで計画する。
・ シナリオ分析を活用し、現在の判断が中長期的にプロジェクトに与える影響を想定し、チームと共有する。

3.8.具体的な行動:⑧執事役(Stewardship)

自身や、自身のプロジェクトの利益、短期的な利益ではなく、幅広く全体を見渡し、中長期の目線で必要な利益を実現できるよう、プロジェクトをサポートします。また、プロジェクト内外のステークホルダーに対して献身的に接し、プロジェクトで活動し易いよう環境を整えます。

【具体的な行動例】
・ 持続可能な事業運営の観点から、環境に配慮した資源を利用する。
・ プロジェクト内で不正が起こらないよう、倫理的に運営する。
・ タスクの進め方で悩みを抱えるメンバーに対し、必要な情報やツールを提供する。
・ プロジェクト外部のステークホルダーと連携が必要な際に、メンバーが動きやすいよう、積極的に調整する。

3.9.具体的な行動:⑨人々の成長に関わる(Commitment to the Growth of People)

メンバーの潜在能力を引き出すことや、成長を支援する取り組みを行います。例えば、トレーニングやキャリア開発の機会を提供することや、メンバーへのフィードバックなどにより、目標達成を後押し、個人とチームのパフォーマンスの向上を狙います。

【具体的な行動例】
・ 個別にキャリアプランを話し合い、支援できる方法を模索する。
・ 学びの機会を提供するために、外部セミナーや勉強会に参加を促す。
・ 社内外のメンターを紹介し、継続的な成長を支援する。
・ メンバーに新しい役割や挑戦の機会を提供し、成長に繋げる。
・ 定期的なフィードバックや、360度フィードバックなどにより、成長のヒントを提供する。

3.10.具体的な行動:➉コミュニティづくり(Building Community)

チーム内外で強固な関係性を築き、互いに支え合う文化を形成します。
チーム内で良好なリレーションを構築し、パフォーマンスを高めることもあれば、社外のコミュニティに参加し、外部の知見をプロジェクトに生かすこともあります。反対に、社会貢献の一環として、チームの知見や能力を提供する活動も挙げられます。

【具体的な行動例】
・ チームの絆を深めるための交流イベントや懇親会を開催する。
・ 地域社会や業界団体へのイベントに参加する。
(時には、共同プロジェクトを計画し、社会貢献を行う)
・ オンラインとオフラインの両方でメンバー間のつながりを強化する場を提供する。

4.サーバントリーダーシップのまとめ

サーバントリーダーシップの特性を中心に、具体的な行動例を解説しました。

従来のトップダウン型のリーダーシップような、チームの先頭に立ち、行動を指示するリーダーシップと異なり、リーダーは "執事" のように、チームメンバーを支え、時には彼らの成長を促進するような行動をします。

トップダウン型のリーダーシップに慣れている方や、サーバントリーダーシップのスタイルを見たことのない方にとっては、違和感があるかもしれません。

しかし、そのような方にも、全ての特性とは言いません、一部で良いので、ぜひ試して欲しいと思っています。
筆者の経験にはなりますが、一気にプロジェクトマネジメントが楽になりますし、トラブルも減ります

また、チームが成熟し、自立したチームを築き上げた経験から言えることは、"リーダーが不在になっても機能する" ということです。不在とまではいかなくても、困り事だけのフォローでほぼ解決する状況までたどり着く事例を数多く見てきました。

繰り返しにはなりますが、ぜひ一度、サーバントリーダーシップを試していただければと思いますし、多くのプロジェクトで活用できるでしょう。

また、サーバントリーダーシップは、プロジェクトの枠組みを超えて、部門やチームにも応用することができます。

とはいえ、全てのプロジェクトにおいて、サーバントリーダーシップが適していると言うつもりもありません
現代のプロジェクトマネジメントにおいて、サーバントリーダーシップは有力な候補の1つではありますが、その他のリーダーシップのスタイルも存在します。

その中でも特にトップダウン型のリーダーシップを中心に、他のリーダーシップの解説も作成しました。









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PMCat |プロジェクトマネジメント
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