高度化データマーケティングとクリエイティブを融合させるNext CXスキーム ― ウェビナーレポート
2022年2月に開催されたCX Creative Daysでは、1dayウェビナーと2daysのVRショーケースを通じてCXクリエイティブの実践事例をお届けしました。
「高度化データマーケティングとクリエイティブを融合させるNext CX スキーム」と題したセッションでは、データドリブンマーケティングを推し進めることで提供できるエクスペリエンスについて、味の素株式会社の「Smart Salt(スマ塩)プロジェクト」を例として、電通 CXクリエーティブ・センターの中田有が紹介しました。
本記事は、CX Creative Studio note編集部がセッションの内容をまとめたものです。
「減塩」という顧客視点で世界のパーセプションチェンジを目指す
電通CXCC(カスタマー・エクスペリエンス・クリエーティブ・センター)は、データマーケティングとクリエイティブを融合させることで、クライアントの事業成長に必要な施策を講じる取り組みを行っている。その一例が、味の素株式会社が展開する「Smart Salt(スマ塩)プロジェクト」だ。“食と健康の課題解決企業”を目指す味の素が、その想いを胸に世界中の人々の健康寿命延伸に向き合ったもので、「おいしい・やさしい・あたらしい減塩」をコンセプトとしている。
一般に減塩料理といえば味気ないものを想像するが、スマ塩における減塩は、そうした従来からある概念とは一線を画している。うま味とだしを効かせることで塩を減らしながらおいしい料理を楽しむという、うま味を追求してきた味の素ならではのあたらしい減塩の提案である。特定の人が仕方なく取り組む減塩ではなく、全ての人がおいしさと楽しさを求めて減塩していく世界へのパーセプションチェンジを目指す。電通CXCCに求められたのは、このパーセプションチェンジを全ての人々に普及していくことだった。
活用した基本スキームは、次の通りだ。
まず前提として、企業やブランドが消費者に対してどのような価値を持っているのか、いわゆるパーパスがしっかりと定まっていなければならない。
次にこのパーパスを下敷きに、電通が持つPDM®(People Driven Marketing®)に基づくPeople Driven DMP®(Data Management Platform)を活用して有望顧客を発見する。発見した有望顧客をいくつかのセグメントに分け、それぞれに最適なエクスペリエンスをファネル上に描く。その後は、ターゲットセグメントごとにパフォーマンスを向上させる。アドに触れた顧客がオウンドサイトに遷移して、どのように回遊したのか、どの辺りに熱量があるのかというデータを抽出し、次の打ち手を考えるのだ。
このPDCAサイクルを回すことで、さらなる打ち手を考えるための知見がストックされる。知見を貯めながらスパイラルアップしていくのが、このスキームの強みである。
すべての起点はPDM®に基づくデータマーケティング
実はスマ塩プロジェクトはスタートから電通が支援してきたものではない。プロジェクトのスタートは2019年、電通が支援し始めたときには既に2年分の実績を持っていた。プロジェクトは功を奏して、2019年から2020年にかけて対前年比127%の売上をもたらしていた。
次なる施策をより確かなものにするためには、どのような顧客層が、どの程度の金額・人数規模で増加したのかを分析する必要がある。そこで電通CXCCチームは、味の素に成長をもたらした顧客層を分析して課題を設定することから手を付けた。
当初、減塩に関心が強い顕在層と、ゆくゆくは減塩に興味を持つであろうとされる潜在層の2つに顧客は大別されていたが、これをより細分化しなければならない。Googleとの共創や自社が持つPeople Driven DMP®の活用、そこに味の素の知見も加えて分析すると、2020年に減塩市場を牽引した有望顧客は大きく5つのクラスタに分かれることがわかった。
「事前に予想していたようなターゲットセグメントももちろん出てきましたが、良い意味で予想外のセグメントも発見されました。こうした意外なセグメントの発見も、データをフラットに見ていくことによりもたらされる良い影響の一つだと感じています。」(中田)
5つのセグメントに分かれたターゲットユーザーの解像度の高いペルソナを設定し、伝えるべきメッセージ「What to say」を明確化する。そのメッセージを伝える施策は、テストと本格展開の2段階に分けると効果的だ。スマ塩プロジェクトにおいても同様の方策を取った。
既存写真と「What to say」を組み合わせたバナーを数多く展開し、効果測定する。これにより、どのターゲットセグメントに、どのメッセージが、どのファネルレイヤーで効くのかが確かめられる。このテストで得られたデータをしっかり分析することで、マーケティングディレクションやクリエイティブディレクションの知見をストックできる。これがフェーズ1だ。
テストを通じて、マーケティングディレクションにおいて変えてはいけない部分はどこなのか、施策を支える新しい仮説は何なのか、より確かな答えを探っていく。スマ塩プロジェクトのフェーズ1では、静止画とキャッチコピーを組み合わせたバナーでアッパーファネルを占めた。ロワーファネルにおいてはオウンドサイトで数多くの減塩レシピコンテンツを掲載、ターゲットセグメントに応じたLPも制作した
本格実施するフェーズ2では、得られた知見から導き出された効果の高いクリエイティブを、より高いクオリティで制作し展開する。選択と集中、費用をより効果の高いクリエイティブに投じていった。
クライアントの成果に繋げるNext CXスキームの拡張性
ここまで事例に則して最新のCXスキームを紹介してきたが、電通CXCCは未来に向けた拡張性にも期待している。ゆくゆくはアドだけではなく、あらゆるCXクリエイティブアクションをデータドリブンにプロットして実施し、PDCAサイクルを回していく時代が訪れるのではないかと考えているからだ。そこで用いられるであろうスキームこそ、Next CXスキームだ。
電通と電通デジタルはCX Creative Studioを設立し、500人規模のCXバーチャルチームが発信するさまざまなクリエイティブアクションは今後ますます増えていくに違いない。これらのアクションをデータドリブンな設計のもとに走らせていくことが重要だ。KGI達成の最適なプランニングを行い、一つひとつのクリエイティビティあふれるアクションをどうプロットすればクライアントの成果につながるのかを考えながら取り組んでいかなければならない。そんな時代が目の前まで来ている。
ウェビナーを終えて:PDM®を主軸に顧客視点で作るCXクリエイティブ
セッション終了後、電通CXクリエーティブ・センター センター長の並河進より、セッション内容を踏まえてディスカッションが行われた。
並河:特にデータマーケティングに基づくクリエイティブを作っていく上でのポイントはありますか?
中田:まず何をターゲットクラスタにメッセージするのかという「What to say」の部分がある程度、顧客分析によって明らかになっているところが大きいと思います。仮にその「What to say」が違うよ、データ的に上手くいっていない場合には、「今までストックしていた知見はこれだね」。「じゃあここまで1回立ち返ってステップを踏み出して行くにはどうしたら良いか」という、その立ち返る場所も用意しながら思いっきりクリエイティブジャンプできるというような安心感が大きく違うのかなと感じています。
並河:なるほど。1回やってみて上手くいかなくてまたゼロからではなくて、そこでの経験はこう積み重なっていく、土台になっていくというイメージですね。
実は、僕自身がお医者さんから減塩するように言われているので、この減塩プロジェクトは自分ごと化して見ていました。先ほど、「これが減塩レシピかと驚く」という話がありましたが、一般的な料理が全部網羅されていて、材料から選ぶこともできて我慢しない減塩というか、そこがスマ塩というタイトルにも表れているのかなと思いました。この辺りのコンセプトはどんな風に捉えていましたか?
中田: CXと言った時に、どういうエクスペリエンスをお客様に提供していくのか。その思いがとても重要かなと思っています。体の調子を鑑みて減塩しなければならない方が、サイトに訪れた時に「こんな減塩の仕方があるのか」と。「これなら食べても楽しく暮らしていけそうだ」みたいな、一つの夢とか希望とか、毎日の生活に光が差すような明るい部分っていうのが提供できるのかなと思います。このスマ塩プロジェクトでは「減塩ってこういうものだよね」という閉じこまった世界から、健康とおいしさを求めながらみんなが楽しめる減塩があるんだっていう、世界観への誘い方が CX のX部分(体験)に表れている。これをいかに設定していくかというのがものすごく大事だと感じています。
並河:ありがとうございます。バリエーションが少なかったり、あるいは料理も限られたり、色々と減っていっちゃうみたいなイメージがありますが、そうじゃなくて実は減塩の世界にもこれだけ幅があると感じられたのがエクスペリエンスとしてすごく素敵なところだなと思います。
お伺いしたいのですが、アドとオウンド、ファネルの上と下、ここを繋ぐものとして一つは今話したようなCXのクリエイティブコンセプトがあるのですが、データの領域だとそのオウンドでのデータをアドにも活かすようなこともしていますか?
中田:そうですね。アドとオウンドのデータはある程度、連携して見ているところはあります。
並河:そういう意味ではデータとそのCXのコンセプトで全部を繋いで見ていくということになるのかなと。お話を聞いていて従来のクリエイターはアイデアを出してビジュアルを作るイメージですが、中田さんの果たしている役割は、従来のクリエイターとはだいぶ違うイメージがありました。CX を組み立てるというか、設計するクリエイターが果たしてく役割やスキルについてどう思いますか?
中田:そうですね。ターゲットセグメントに対してどのような「What to say」を伝えるか、細かな部分でそれぞれに対して本当に刺さるクリエイティブを一つひとつ丁寧に作っていくというパーツはもちろんあります。そこでそれぞれのパフォーマンスを最大化していく、そしてクリエイティブとしても「その手があったか」と思えるようなインパクトのある表現やアクションを提示していきたいです。
全体のスマ塩プロジェクトの取り組みとして、どんな思いを掲げ、どんな思いで括るのかを意識しながらやらないといけません。そう考えると、これまでとあまり変わっていることをやっている意識はなく、広告の作り方としてキャンペーン・キャッチコピーでどうやって括るのか? そして各論どうなっていくの? みたいなことと同様の世界の中でデータドリブンの世界も考えていて良いのかなと思っています。
並河:全体を組み立てる力と、個別のところで表現を作っていく。その個別のところでも、どうアイデアを込めていくか、それが言葉でありビジュアルであるということかなと思いました。
今回は「減塩」という顧客側の課題設定で作られていて、つまり商品の情報を知らせて買ってもらうような流れではなくて、減塩をしたい人のジャーニーに合わせてレシピがある。こういう顧客側の課題設定として思考を変えることで商品を知ってもらい買ってもらう発想じゃない発想になると思います。これは食品だけではなくて色々なブランドや製品に応用可能な考え方でしょうか?
中田:そのように思いますね。生活者の皆さんもこんな世界、暮らしがあったらいいのになって思っても、知らないから分からない部分があります。ですが、その課題解決法やそういう世界が向こうにあるんだよって見せてあげることが、常にどの業種においても必要だと思っています。特にお客様を分析するPDM®においては、どんなニーズがあるのかもしっかり捉えることができるので、まさにそういうお客様を主軸にした発想の仕方ができるのではないかと感じています。
並河:ありがとうございます。まさにカスタマーを中心に発想し、カスタマーのデータを基にして、カスタマーの体験を見つめているわかりやすい事例だったと思います。中田さんありがとうございました。
データマーケティングとクリエイティブを融合させるNext CXスキームについて興味のある方は、ぜひご相談ください。
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プロフィール
電通:中田 有(なかだ・たもつ)
CXクリエーティブ・センター 統括CD / グループ・クリエーティブディレクター
データマーケティング脳とクリエイティブ脳の両脳発想から生まれる「作戦創造力」を武器に、クライアント様の事業成長のためのABCDX拡張ストーリー上に、さまざまなマーケティング&クリエイティブアクションを提案。事業計画、パーパスアクション、CXクリエイティブ企画、ビジネス創発、そしてそのPDCAをデータドリブンに手掛ける。TCC新人賞・朝日広告賞グランプリ・毎日広告デザイン賞最高賞など、受賞多数。
※所属・役職は取材当時のものです。