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隠れたストレスの発見が“神サービス”を生んだ!ネピア Genki! 「おむつ無料交換便」


今回は、2023年4月20日~7月20日に実施された「おむつ無料交換便」について紹介します。これはサイズアウトした(小さくなってしまった)子ども用のおむつを新サイズに無料で交換するというもので、子育て層の悩みを解決するものとして、SNSでは「神サービス」という声もあがっていたプロジェクトです。

本プロジェクトが始動したきっかけ、サービスが開始するまでの道のりはどのようなものだったのでしょうか?プロジェクトに関わったコピーライターの花田顕子に話を聞きました。


当事者のインサイトから始まったプロジェクト

-「おむつ無料交換便」とはどのようなプロジェクトだったのか、簡単に教えてください。

花田:「おむつ無料交換便」は、王子ネピアのおむつブランド「ネピア Genki!(以降、Genki!)」が子育て世帯の隠れた悩みをすくい上げ、解決するべく立ち上げました。成長してサイズが小さくなるなどで未使用のまま各家庭に余っていた「ネピア Genki!」の商品を引き取り、新しいサイズのおむつに無料で交換するプロジェクトです。期間は2023年の4月20日〜7月20日の3カ月間で、各回先着1000世帯を対象に3回実施しました。

-この画期的なプロジェクトが立ち上がったきっかけは何だったのでしょう。

花田:もともとのきっかけは、2021年に行った自主プレゼンです。そこから約1年後の2022年に「2023年の製品リニューアルに伴い、子育て当事者に向けたデジタルプロモーションができないか」とオリエンをいただきました。というのも、子育て層がSNSを駆使して育児をする中で、そのときまだGenki!ではデジタル広告やSNSにはほとんどタッチできていなかったのです。
各社のブランド間で品質の差が小さくなり、価格競争と、広告出稿量の戦いになっていたおむつ市場で、大々的な予算をかけずに、ブランドを好きになり、指名買いをしてもらえるようにするにはどうすればいいのか。実現するためには、デジタルに閉じるのではなく、子育て層がSNSで自発的に話題化してくれるような企画が必要だと考えました。そこでヒントになったのが、Genki!のブランドスローガン“赤ちゃんも、ママパパも、おむつストレスフリー。”です。

-「おむつストレスフリー」というコンセプトについて詳しく教えてください。

花田:おむつを使う赤ちゃんがストレスフリーになるのはもちろんですが、ママとパパも含まれているのが、このスローガンの大切なところです。このブランドスローガンを生かす形で、保護者のおむつストレスを減らす施策を考えました。
チームメンバーには子育て中の人が多く、当事者としておむつで困っていることがないかを全員で洗い出してみました。その際に、子どもの成長に伴ってサイズアウトして余ってしまうおむつがたくさんあるというインサイトが出てきたのです。中途半端に余ってしまったり、セールで安いときにまとめ買いしたものの結局使いきれなかったりすることがあり、困っている人が多いとわかりました。
メンバーとの話し合いのなかで「引き取ってもらえたら助かるし、環境にもやさしいよね」という話が出て「おむつ無料交換便」の元となるプロジェクト案が完成しました。このプロジェクト案をクライアントに見せたところ「ぜひ実現したい」と言っていただき、本格的にスタートすることになりました。

-リアルな当事者のインサイトからスタートしたプロジェクトなのですね。

花田:はい。はたから見ると大きな悩みではないように捉えられるかもしれませんが、当事者にとっては、実は隠れたストレスだったんですよね。そういった問題を、私たちでどうにか解決したいという思いもありました。
調査を進めるなかで、未使用のまま余ってしまうおむつが年間約2000万枚あり、そのなかで廃棄されるおむつは500万枚以上あることも判明しました。これを「おむつのサイズアウトロス問題」と名付けて社会環境課題として提起し、PRリリースも打ちました。ママパパにも環境にもやさしいプロジェクトですし、これはGenki!のブランドスローガンを体現できているなという実感がありました。

-クライアント、消費者、環境の三方よしの素晴らしいプロジェクトですね。とても新しく、現代的なCXアプローチだと思いました。

花田:一昔前の世の中では、たとえロスしても、セール品を大量に買ってもらったほうが近視眼的には利益が出るという考え方もあったと思います。でも今の時代には合いませんよね。
王子ネピアは昔から環境問題や社会貢献活動に注力している企業です。そういった背景もあり、売り上げに直結するわけではない企画だからと否定されることなくプロジェクトを進められたのは良かったです。

手探りのなか、全員で取り組んだプロジェクト開発

-「おむつ無料交換便」の反響はいかがでしたか?

花田:SNSで子育て層から「神サービス」「本当にありがたい」「ほかの会社でもやってほしい」といった非常にうれしい反応をいただいて「役に立てたんだな、間違っていなかったんだな」と強く実感しました。
おむつの回収件数は約1880件で、育児メディアや新聞などでも複数取り上げられましたし、 Genki!のブランド認知拡大につながったと思います。

-プロジェクトを振り返ってみて、どんな苦労がありましたか?

花田:とにかく大変でしたね。プロジェクトのGOが出てから4カ月程度でローンチさせなければならなかったので、時間的な制約もありました。サービス開発と広告制作を並行して行う必要があったため、とにかくやることが多くて。普段はCMやプロモーション制作の業務に携わっているのですが、なにぶんサービス開発については未知だったので、正解がわからないなかでスケジュール管理を行うのには非常に苦労しました。広告を外注したくなる気持ちが、痛いほどわかりました。

-やるべきことが多いなかで、どのようにプロジェクトを進めていきましたか?

花田:まったく新しいサービスなので何をどのように進めていくのかをゼロから考えていく必要がありましたが、実現に向けてクライアント、運送会社、電通の3社で検討を重ねられたので連携はスムーズでした。クライアントから運送会社に密に連携をとってくれて、その風通しの良さにも助けられました。

-3社の連携が取れていたからこそ、実現できたのですね。

花田:連携が取れていた以上に、クライアントの「実現したい」という強い気持ちが、プロジェクトの実施につながったのだと思います。
私たちは広告戦略はどうするか、サービス設計はどうするか、と、どんどん考えることが増えていったので、アジャイル的に進める必要がありました。チームメンバー全員が短期間でもしっかりと企画や制作物を仕上げるスキルがあったおかげで、乗り越えることができました。

大切なのは「誰もが持っているインサイト」を発掘して磨くこと

-「おむつ無料交換便」のCX的なポイントは何だったと思いますか?

花田:インサイトを起点としてプロジェクトを考えた点だと思います。普段の広告制作は課題解決のための戦略をいかに表現として優れたものにするかというアウトプット先行ですが、今回の企画は顧客の強いインサイトをつかむことが何よりも重要でした。「保護者が持っているインサイト」をうまく発掘してアイデアを磨いていけたので、成功に結びついたのだと思います。
またユーザーの使い勝手の面では、ブランドスローガンを体現すべく、保護者目線でストレスのない仕組み作りに注力したのもポイントです。「送料無料」「自宅まで配達員が引き取りに伺う」「その場で同じ枚数の新サイズに交換する」など、梱包の手間などのストレスを減らすことを意識しました。そのほか、開封済みのおむつでも引き取るなど、利用する際のハードルをできるだけ取り除いています。

-チームメンバーに子育て当事者が多いというお話がありましたが、今回のプロジェクトを進める上で、花田さん自身の体験とリンクしたところはありますか?

花田:サイズアウトおむつの問題は、私やチームメンバーの実体験でもありましたし、CXに関しては私が入社間もないころに新人研修で聞いた話とリンクしていると思いました。
新人研修で「コンビニの来客数を増やすためには」という課題が出たんです。参加者からは「芸能人を呼ぶ」「派手なイベントをやる」というプロモーション的な案が多く出るなかで、講師の方が「カップラーメンにお湯を入れるポットを置く」という一見派手さはないけれど、本当に人の役に立ちそうなアイデアを出されていて。広告の企画というのは、こういうやり方もあるんだなと印象に残っていました。今はほとんどのコンビニにポットがあると思いますが、当時はそうではなかったんですよ。
そういった、みんなが心の中に思っているけれどまだ顕在化していないインサイトを拾い上げて、かたちにできたのが「おむつ無料交換便」の良いところだったのかなと思います。

-最後に今後の展望について教えてください。

花田:今後も“赤ちゃんも、ママパパも、おむつストレスフリー。”になる新しい施策を検討していきます。これからも、子育てに関わる人、またその先の社会が今よりもっと良くなるためのインサイトを発見し、何ができるかを考えていきたいです。

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誰しもが感じているのに当たり前過ぎて顕在化していない不満や不便を発見して解決し、それによって企業や商品への信頼と好意を向上できたことはとても理想的なブランドコミュニケーションの形だと思いました。同時に、使っている方がおむつのサイズをアップする時に、他のブランドへ離脱する可能性を下げる効果もあったのではないかと想像します。
そうした副次的なメリットも含めて、優れたカスタマーエクスペリエンスの設計だったのではないかと感じました。
今回のインタビューは、ウェブ電通報「月刊CX」( 月刊CX に関してはコチラ)とも協力し取材を行いました。今後も電通と電通デジタルが設立したCX領域のクリエイター集団「CX Creative Studio」として、より幅広い事例の収集や紹介等を行っていきます。応援やフォローをよろしくお願いします。

プロフィール

電通:花田 顕子(はなだ・あきこ)

カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブセンター
コピーライター/プランナー
コピーライター/プランナーとしてさまざまな広告主のコミュニケーション、ブランディング領域に関わる。コピーを中心としたコミュニケーションを得意とし、近年ではPRやSNSを活用したブランディングを手掛ける。主な受賞歴に、TCC新人賞、ACC、Spikes Asia、ADFESTなど。

※所属・役職は取材当時のものです。