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そのメールには…。【ショートショート】

ご当選おめでとうございます。
本日から数えて、アナタの余命は1年余りです。
どうぞ、この1年間を存分に楽しんで、生きてください。


わたしがアナタにご進呈出来るのは、寿命の長さだけです。
その他、生活のクオリティーに関すること、収入、貯金、資産、地位、肩書などなは、一切付属しませんのでご了承ください。


アナタが、どのようなところに行きたい、何かをしたい、買いたい、住みたい、などは、自費でお願いいたします。

尚、どのように生きたいに関しても、どのように逝きたいに付随することかと思います。
お答え出来ますことには限度がございます。よくお考えになって、ご質問ください。


『何、このメール。怖い。』

迷惑メールが送られてくる時がある。
わたしのプライベートに土足で踏み込んでくる奴がいる。
ただ、このメールは、セックスフレンド募集中のような馬鹿げたものではない。

わたしの心の中を見透かすような
ギクリとする内容。

『見られている』その瞬間に、誰かの視線を感じるような違和感。

「母さん、ごめん、ちょっとそばにいて、なんか今ちょっと怖いことがあったからさ。」
一人では居られない。2DKのアパートに母さんと二人暮らしでよかった。

昔ながらの古いアパートは、玄関を入るとすぐに少し広めの台所があり、その奥に6畳の和室が二間続いている。
心配かけるから、母さんにはまだ、メールのことを話していない。

台所には擦りガラスの小窓が付いていて、明かり取りも兼ねている。
その擦りガラスの外に人影が立つ。先ほどから立ったまま動かない。

「母さん、外に誰か訪ねに来ているみたい。」
影は、わたしにしか見えていない。
わたしは母さんにお願いして、玄関の外を確認してもらった。

「ほら、誰もいないってば。」と母さんの返事。

やっぱりか。
わたしはまた、見ている。

よくあることではない、ただ時々ある、この体験をすることが。

みんな起きているけれど、わたしだけが、見えている
そして、怖い時ほど声が出ない、凝視も出来ない。
その場をやり過ごすことだけが、精一杯。

その度に、喉の奥から魂が吐き出そうになる。
けれど、未だに取られたことは無い。

これは夢が暗示か、
それとも白昼夢。

わたしは慌ててメールを消去した。そして人影も消えた。


とにかく、この1年、わたしは生きたい自分になる準備を進めるしかない。
逝く気はないが、どう転んでも良いように。

その夜は、どうにも眠れない。
何もしないと、悪い方に考えてしまうから、
何も考えないように、ただnoteに向かって手を動かしている。

朝方、新聞配達員が、駆け足で新聞を配る足音がアパーに響くと

『わたし以外に生きている人がいる。わたしも生きている。』
そう思うと少し安心して、そして眠れる。














最後までお読みいただきありがとうございます。

すみません、一言、宣伝させてください。
この度、創作大賞2023に短編小説で応募いたしました。

初小説 初応募の投稿でお恥ずかしい限りです。
もしよろしければ、お立ち寄りいただければ幸いです。

『僕の中に路瑠がいる』では
主人公路瑠の、青春、結婚、困難、出産、そして
病に倒れた夫のこと

家族に恋した、家族の恋愛小説と思い
投稿させていただきました。

↓  『僕の中に路瑠がいる』です ↓


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