降霊実演と破滅 TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー (2022年製作の映画)
ヘイリーとジョスが主催するパーティは酒も薬もないかわりに過激な降霊実演をやってSNSで人気があった。冥府と現世を仲介するのは防腐処理をした屍体の手。それは生前悪魔崇拝に耽溺していた者の手だと言われ握手すると黄泉への扉が開きI let you inと言うとランダムな霊が憑依し、90秒以内に握手を引き離すことで安全な「トリップ」ができる。──はずだった。
ホラーの主人公が落ちていく破滅のきっかけにはオブセッションがあり、ミア(Sophie Wilde)の場合は母親の自死とカンガルーだった。
導入で轢かれた動物をどうするかという判断が出てくる。
どこかで見たことのあるジレンマだが、主人公が運転する車に鹿が飛び出してきて轢くか、すでに轢かれたのを発見するか──それを「楽にしてやる」ためにまた轢く。そのオブセッションが主人公を不安にさせる。ここではオーストラリアらしくカンガルーだったが、導入にそれがありミアは生かしたまま置き去りにする。
旧世代の方ならご記憶があるかもしれないが(あるいは今もやっているのかもしれないが)昔、中学校の教室で女の子たちがウイジャをやっているのをよく見た。半紙にハイとイイエとあいうえおが書いてあり、だいたい10円玉をつかってそこへ指を重ね、権勢のある子が主導でわざと指を動かして、意味をなす語をつむぐ──という遊びだった。霊に聞くことと言えば「○○くんは○○ちゃんのことが好きですか」みたいな愚にもつかないことだったし、霊にとってもそんなもん知らんがなという話だったが、わざと動かしていることを指摘すると女の子に怒られた笑。
しかしウイジャとかコックリさんは西洋世界でもアジアでも長い歴史のある降霊術である。すなわち、そこに悪霊に魅入られるような脆弱性をもった人が参加し、霊がやってくる条件が揃ったばあい、ほんとうに何かが降りてきて憑依するという可能性があった。(のではなかろうか。)
Talk to Meはウイジャやコックリさんよりも危険度が高いと思われる「握手会トリップ」をパリピの感覚でやってしまうのがポップな活気につながっていて、さらにTalk to Meが斬新だったのはその「握手会トリップ」の説明が省かれていたから。
アデレードの若者たちが、これこれこのような風変わりな遊びに夢中になっています──という説明を置かずに、その現場をいきなり描写する。それが「こいつらなにやってんだ?」というキュリオを形成してポップ&斬新な印象につながり、そこへ格好のエフェクトやサウンドデザインや演技力を加え、結果Talk to Meはドントブリーズやミーガンのようなバジェット破壊ヒットに昇華された。概説によるとA24のホラー映画として最高収入をあげ、続編を開発中だそうである。
個人的にはミアの愚かしさがすきではなかった。悪魔というものは、主人公の隙やわだかまりを突破口として忍び入ってくる──とはいえミアは失策を犯しすぎている。ライリーが可哀想だし全体としてTalk to Meの事故はぜんぶミアのせいだ。しかし映画はよかった。最近の映画は長くなる傾向があるせいか短さも新鮮でサクッとして潔かった。
監督はDanny PhilippouとMichael Philippouのコンビ監督。ユーチューバーでもあるふたりにはRackaRackaというコンビ名がある。これが初監督作品で、日本の映画監督やユーチューバーとの格差を感じざるをえないが、ふたりはインタビューで妄想代理人、るろうに剣心、ブギーポップは笑わない、エヴァンゲリオンが好きと述べた──とwikiに書いてあった。
映画を繁く見ていて、日本映画に感心する機会が少ないが外国映画に感心することが多い──という体験値を持っているわたしは、その外国のクリエイターが日本のアニメや漫画からの影響をあげていたときに驚く──という現象に出会うことがたびたびある。まったくの別物にトランスフォームされているからでもあるし原型よりも面白いからでもある。
Nopeにしたってピールは映画の着想をエヴァンゲリオンのサハクィエルから得たと明言していた。日本製にたいする外国人の着眼点にははかりしれないものがあると思う。
ただ自分は日本映画に点がからい──とは思ってはいないのだが。
imdb7.1、RottenTomatoes95%と82%。
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