主に短編小説を書いています。 【すきなもの】 ・本 ・映画 ・アニメ(比較的最近のもの) ・夕飯 ・ビール ・コーヒー ・小鳥 ・服 ・メガネ 【受賞歴】 2020年 「ARUHIアワード」大賞受賞(短編小説) 出演: 要潤 奥菜恵 海老名瑠花 山本久々璃 ほか https://bookshorts.jp/aruhi_award_happy_birthday 【見てくれてありがとうございます】 まだまだ修行の足りない身です。感想やご意見、大変参考になります。(ささい
とある日、私はついに仕事中に倒れてしまい、上司に帰って休むよう厳命された。ここのところ、ほとんど眠れていなかったのだ。同じくノゾミも夜はきちんと眠れていなかった。けれど彼女は隣に私がいる安心感か、私よりは幾分眠れているようだった。それに体調がすぐれないときには無理に学校に行かせず休ませていた。おかげで彼女は今のところ何とか学校には通い続けている。 その日は本当なら仕事が夕方までの予定だったので、ノゾミは学童に行くことになっていた。それが急に午後までになったので、私は学童
<あらすじ> ----------------------------------------------------------------------------------- 周りからの苛烈な苦情で母子家庭の主人公は安いアパートを転々とした。泣き声。足音。幼い子供は何かと音を立てるのだ。そんな時に見つけたのが子供の通学路で見つけた古い団地の建物だった。団地は古いが鉄筋だった。頑丈なので、アパートほど音は気にならない。しかも家賃も格安だった。迷わずアパートから転居し
月曜日。デスクについてノートパソコンを起動させるとGoogle Chatに着信通知がついていた。チャットは三件、全てマネージャーからだった。彼のデスクは僕の隣で、まだ来ていなかった。 「パーテーション100台案件、どうなってます?」 「打ち合わせで出たあの件です」 「もしもーし」 全て日曜日の着信だった。うちの会社の休日は、おおむね暦通りになっていた。だから僕は休みである日曜に、会社からの連絡を見たりしない。 ふいにきつい香水の匂いが鼻をつき、僕は自然と体がこわばった。
それは夏の終わりのことだった。その日は土砂降りの雨だった。 玄関に入ると、傘の先から糸のように切れ目なく水が落ちていた。 うちに傘立てはない。だから僕はいつも造り付けの下駄箱に傘をかけていた。けれど、濡れた傘をそのままそこにかけておくのはいけない。時間が経つと、傘はとんでもなく臭くなる。部屋全体が、まるで足みたいな匂いで充たされる。だから僕は傘をさしてそれが濡れた時には必ず一晩干していた。部屋のなかは狭くてとても干す場所はない。ベランダしか干す場所はない。けれ
イチハラさんには、やっぱり大学生くらいの彼氏がいるかもしれないという噂は瞬く間にクラス中に広まった。恋愛がらみの、特にこういうセンセーショナルな噂はただでさえ広まりやすいところに「絶対内緒」というラベル付けをしたのがてきめんだった。内緒扱いになるだけで、その噂の信ぴょう性は高まり価値も増す。私の経験上、内緒扱いの噂のほうが、そうじゃない噂よりかえって広がるのは早かった。 イチハラさんを攻撃していた連中は、その正当性が揺らいだことにより、自分たちはやりすぎたのではないかと今
みんながみんな、複数人でかたまり「楽しそう」な様子で話しこんでいる。 「アヤカと小五から四年連続一緒なんだけど」 「担任またカモセンとかマジ最悪」 どう考えても目の前の人間に伝えるには大きすぎる声を張り上げている。つまりまわりに聞かせている。それにはきっと、自分は決して孤立していないとアピールする意味もあるのだろう。そして話しつつも、ちらりちらりとまわりの様子をうかがっている。 中学二年生最初の日。今までのクラスメイトがシャッフルされて、新しいクラスメイトが最初に集うタ
空には鉛色の雲が厚く垂れこめている。じめじめとした空気はずっしり重く、そして熱い。呼吸をすると息が詰まる感覚がする。歩く振動にあわせてシャツが肌に張り付いたり剥がれたりする。 丘の斜面は一軒家が建ち並んでいる住宅街で、僕はそこを一人で歩いていた。間隔の広い街灯が、そのあかりでぼんやり塀や生け垣を浮かび上がらせている。深夜なので窓明かりはない。 丘の頂上にはうっそうとした森が残されていて、僕の住むマンションはちょうどその森と住宅街の境界に建っていた。 マンションの廊下を
いってきますとコヨリが唇をとんがらせて目を閉じた。見送りの僕は身をのりだして玄関にいるコヨリにキスをした。コヨリは目をあけるとため息をつき、「なんだかなげやり」とつぶやいた。 「なんでさ」 「そうやってあつかいがどんどん雑になっていくんだね。まるで私がいることがあたりまえみたいになっちゃって」 コヨリはぶつぶつとぼやきながら扉をあけて出ていった。いったい何が気にいらないのだろう。僕は彼女がなぜそんなことを言うのかわからない。 コロナ禍以降、僕の会社もコヨリの会社