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『パンデミック』から読み解く「協力」のメカニクス

 前回の記事で考察した”「協力」発生する条件”について,協力ゲームの金字塔として名高い『パンデミック』を例として,実際のプレイの様子をみながら具体的に考えてみます。
※なお以下で登場するA~Eは全て大学生で,『パンデミック』をプレイするのは全員今回が初めてでした。ボードゲーム自体のプレイ経験も少ない者ばかりでした。
※大見出し内の数字は,前回の記事の箇条書き番号に対応しています。

「共通の目的が明示されていること」(A-2-2)

 『パンデミック』では,ゲームセットアップ時から9つの都市に18のウイルスキューブが撒かれ,文字通り世界各国に感染が広がっている状態から始まります。

(セットアップ終了直後,Aの手番時)
B)向こう(アジア方面)に固まってる。(ウイルスキューブが)嫌な配置になっている。
A )(ウイルスキューブが)4つになったら,こっちにも増えて一気に(東南アジアにも感染が)回ってくる。
B)(筆者に対して)ルールの確認をしたいんですけど・・・

 感染拡大の状態が視覚的にわかりやすいことも相まって,「一人が動くだけではウイルスを駆除できなさそう」な感じが全体に共有されやすいと考えられますその結果,自然と話し合いが生まれ,ルールの確認・共有とともにプレイヤー共通の目的が明瞭になっていくといえます。
 これに加えて『パンデミック』は,「治療薬開発に必要な都市カードの枚数」と「手札にできる上限枚数」のバランスがシビアです。また都市カードの種類も4つあります。個々人が無策に行動してもクリア条件を満たせない・分業体制を確立する必要があることは,プレイしていれば自ずとわかるようになっていると思います。
 さらに言えば,これらの要素は現実世界の再現になっています。近年ではチーム医療など連携の有効性が叫ばれて久しく,プレイヤーにとっても協力の必要性がイメージしやすくなっていると思われます。「協力」のメカニクスをもつゲームの中にはファンタジー・SFなど非現実的な舞台を題材にしているものがありますが,その世界に関する知識がまっさらな状態から始まります。そういったゲームよりも「とりあえず協力」となりやすい,という利点があるかもしれません。

「自分と相手の役割の得手不得手」の理解・共有(B-4-1)

 『パンデミック』には複数の役職が存在し,それぞれに固有の能力があります。このゲームの場合,ゲームで行われるアクションに対応している能力を持つ役職が多く、その役割をプレイする際に期待される動きが理解しやすいといえます。

(エピデミック発生後)
D※衛生兵)アジアをどうにかした方がいいよね?
B)中東もやばそう・・・。ジャカルタ(の都市カードを)持ってるよね?
D)持っているけど・・・移動して,ここらへん(東南アジアから中東にかけて)を取る。
B)(そのようにアクションを取るDに対して)衛生兵が(ゲームに)出ていなかったら,やばいな。
 
~・~
B※通信司令員)誰か動きたい人いる?(Bは各自の手札を確認する)Dさんが先に東京に来ていないといけないから・・・(Bは各プレイヤーの東京までのマス数を数える)。アジアはいまそんなに(感染が)ない。受け渡しだけで(ターンを終了しても)いける。Cさん,(中東に)移動させといてもいい?このへん(後でウイルスキューブを)取り除けるように。
(その後,ACDは自身の今後のターンでの動きを確認する。)

 このようなやりとりを生じさせるには,各プレイヤーがゲーム内で取り得るアクションをシンプルに洗練させつつ,役職の個性(能力)もそれに対応させて組み立てることが大切だと思われます。
 特にこの「役職の個性(能力)」について,ゲームクリアに向けたタスクシュートに直接貢献できる長所であることが望ましいと考えています。言い換えると「ゲームクリアに向けた障壁を取り払えるような能力」でしょうか。そういった個性(能力)は,他のプレイヤーから「こうしてほしい」という期待を生み出しやすいと思います。
 (例えばほかのゲームでは「アイテムが他の役職より多く入手できる」「ダメージが多く与えられる」などがあります(『ゾンビサイド』など)。これは「アイテムの入手が困難な局面」や「1点でも多くダメージを与えないといけない局面」では協力の生じる余地が大いにありますが,そうでない場合はちょっとラッキーと言う程度にしか感じられず,他プレイヤーからの期待も生じにくいと思われます。)

「自分と相手の資源・情報の偏り」・「ホットスポットとの距離の遠近」の理解・共有(B-4-2・B-4-3)

 まず各プレイヤーが持っている資源や情報,特に『パンデミック』であれば都市カードの手札については,公開するほうが協力が起きやすいと思われます。これは”誰(と誰)が特定のタスクシュートに貢献でき、誰(と誰)はそれに貢献できないのか(=別の何に貢献できるのか)”の判断に結び付き,役割分担ができるようになるためです。

A)香港に飛んで・・・
B)研究所で集合。行ってくれたら都市カードを渡せる。(Aはそのようにアクションを行い,Bのターンで都市カードを渡す。)
 
~・~
B)(イベント「政府の援助」のカードを用いて)どこに調査基地を作る?
C)(自分はムンバイにおり,黒の都市カードが5枚揃っているが)基地に行かないと治療薬を開発できない。
B)じゃあムンバイに作っておくね。

 盤上のどの位置にプレイヤーがいるのかがわかりやすいことも同様です。下記のシーンでは,プレイヤーがアジア方面とヨーロッパ方面で分断されており,一方のホットスポット(この例では感染が広がっており対応が必要な箇所)である中東方面へと誰かが向かわないといけない状況であることがすぐにプレイヤー間で理解されています。対面でゲームを実施できているという状況も幸いして,場所を示す指差しも頻繁に生じます。

(中東にウイルスキューブが広がっているという話題のなかで)
D※衛生兵)赤(の治療薬を作るのは)後の方がいいか。
B)(Dに)ここらへん(中東方面)歩いてもらえます?
(Dは中東までのマスを数えてカラチへ移動し,ウイルスキューブを3つ取る。そのターン終了後,エピデミックが発生してサンクトペテルブルクが再度引かれるも,予防のため同地に留まっていたA(※検疫官)がウイルスキューブの配置を阻止してアウトブレイクを回避。引き続き,誰と誰がどこで集合すれば効率よく都市カードを交換できるかを話し合う。)

 『パンデミック』のルールはそこまで複雑な部類には入らないと思います。そのためゲームが進むと,プレイヤーはボードゲームに不慣れでも取りうるアクションの中でジレンマを体感しやすいのではないかと思います。「協力」の観点から言えば,取り得る選択肢の数が把握できる程度に十分限定されている(手札の枚数も把握しやすい数、都市間のルートも多すぎない)と思われるため,各プレイヤーが考えていることが発言に出やすく,交渉も生じやすくなっているといえます。

 ただし,皆で情報を共有しやすいために集約もされやすく,いわゆる「奉行」が発生するリスクが最も高まる要因かと思われます。ただ奉行が出たとしても「うまく協力できた」とシナジー効果を実感させることで不満感を減らすことができるかもしれません。つまり「奉行された側」も達成感が得られる仕組みをつくることが考えられます。この点『パンデミック』は特殊能力の発揮で「自分にしかできない手番」が比較的多くつくられている印象があり(B-4-1と関連),巧みなゲームデザインであると感じます。

「危機的状況に陥れること」(C-2)

 『パンデミック』は,協力の進め方がわかってきた中盤あたりからアウトブレイクが起きる危険性が高まり,進め方次第では終盤あたりでアウトブレイクが連鎖することがあります。

(開始から約40分後。エピデミックカードが引かれ,以前のターンでウイルスキューブを取り除いた箇所に再びキューブが置かれたり,アウトブレイクが生じたりする。青のウイルスキューブの数が足りなくなりそうだという情報が共有される。)
E「もはや安全な場所は無くなった(笑)」
(皆で何かできることは無いかと話し合い,F・Gは今まで温存していたイベントカードを使ってみようと思い立つ。Fは「予測」のイベントカードを用い,どの順に感染カードを並び替えるべきかの考えを皆に共有する。)

 Eの言葉に象徴されるように,中盤以降はエピデミック・アウトブレイクの対応にも追われるようになり,ゲーム開始当初の治療薬開発という目的と合わせて二重の目的を背負わされることになります。この状況は,「1人ではクリアできないという共通認識をもつこと」(C-1)にもつながります。


 はじめてプレイする者同士,特にこれまでボードゲームをあまりプレイしてこなかった者同士でも,これだけの相互作用が生じる『パンデミック』は大変興味深い素材であるといえます。何度も経験を積めばまた違った「協力」が生じてくるものと思われます。引き続きプレイしながら検討していきたいと思います。


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