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はじめての写真集#4 〜ふしぎなタイトルに惹かれて〜

前回のお話はこちら


新たな写真の楽しみ方を教えてくれる存在、それは写真集。でも意外と、自分で写真集を選んだり、買ったりする機会ってなかったりしませんか?

そんなあなたと一緒に、写真集の楽しみ方を見つけていく本連載。楽しい写真集の世界へ、ようこそ。

今日も今日とて、お気に入りのブックカフェにきた二人、さらおちゃんとカホちゃん。もうすっかり常連です。

並んだ背表紙を眺めながら、どの写真集を読もうかと悩んでいる時が、カホちゃんの好きな時間です。日本語、英語、フランス語。色とりどりの背表紙に踊る言葉のなかで、ふしぎな言葉を見つけました。

「おと……とい……?」
おととい、じゃなくて、おとととい。

「おとととい」/撮影 石田真澄/‎出版 SDP /出版年 2022年

凛とした横顔には、見覚えが。主人公カホちゃんと同じ名前の女優の夏帆。それにしても、「おとととい」ってなんでしょう?手書きの文字と相まって、なんだか懐かしいような気持ちにさせられます。

今日の一冊は、これに決めました。


ページをめくると現れるのは、「素」と呼びたくなるようなナチュラルな姿をさらけ出す夏帆の姿。リラックスした横顔や、無防備な表情、そして寝顔まで。

「すごい。なんだか、幼馴染みが撮ったみたいだね」
隣に座ったさらおちゃんも、思わず惹き込まれているようです。

それもそのはず。この写真集は、じっくり時間をかけて作られたものなんです。写真家の石田真澄さんは、2年という時間をかけ、被写体である夏帆との関係性を作りながら撮影してきたそう。

「ベッドに寝っ転がって撮るのってさ、意外と勇気いるよね?」
「うんうん。角度とか表情づくりとか、難しいよね」
「下からの角度で撮るのって、嫌がる人も多いし」
「そうそう、信頼関係が必要だよね」

もはやベテランと呼んでいいほど、長く活躍しつづけている夏帆。だけどこの写真集の中では、無垢な少女のよう。写真が好きな二人だからこそ、“普通” の一瞬を切り取ることがどれだけ難しいか、噛みしめている様子。

真夏のプール、降り積もった雪、路地裏に伸びる長い影。「おとととい」の中の情景は、誰もが体験したことのありそうな日常的なシーンばかり。だからといって退屈な雰囲気はなく、どこか魔法がかったきらめきも感じさせます。

しみじみと眺めながら、カホちゃんがつぶやきました。
「全体的に、思い出の中の光景みたいだよね」
「ほんとだね。新しい写真集だけど、懐かしいって気持ちになるし、すこし幻想的でもあるよね」

映り込んだ虹色のフレアや、ゆらめく水の透明感、澄んだ空の色。どこにでもありそうな一瞬なのに輝いて見える理由のひとつは、挿し色に映りこむパステルカラーかもしれません。

「シャッターを押すだけなら誰にでも出来るけどさ、同じ状況で私がこの写真を撮ろうと思っても撮れないだろうな」感心のため息まじりに、カホちゃんが言いました。

さらおちゃんもうなずきます。
「一緒に過ごしてきた時間の長さだったり、積み重ねてきた思い出なんかが、写真の中に写ってる気がする」

お会計をしようと席を立つと、写真好きの店長と目が合いました。

「今日は『おとととい』を選んだんですね」と店長。
「おととといって、どんな意味か知ってますか?」
「気になってたんですけど、どういう意味なんですか?」

カホちゃんもさらおちゃんも、興味津々。

「石田さんが子供の頃から使っている言葉で、『一昨日(おととい)の前の日』という意味だそうですよ。素直な発想が可愛らしいですし、ちょっと懐かしいような気持ちになりませんか」

おとといの前の日。昔というにはあまりにも最近で、だけどちょっと記憶がおぼろげで。

「おとととい」と、さらおちゃん。
「おとととい」と、カホちゃん。

おまじないのようなその響きは、日常をちょっとノスタルジックに感じさせてくれる魔法の言葉なのかもしれません。

今日もいい写真日和になったようです。

企画:CURBON/ライター:片渕ゆり


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