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ドイツのクリスマス時期のお菓子
お菓子屋の店員さん
「ドイツのクリスマスのお菓子といえば、シュトレンなんですよね」
先日、イベントで開催されていたクリスマスマーケットへ奥さんと一緒に出かけて行って、お菓子屋の店員さんと会話していた時のことだった。彼女はチェコのクリスマス時期のお菓子を作って販売していた。並んでいたお菓子のクオリティがそれはそれは高かったので、じっくりとお菓子を眺めながら色々と会話していると、ドイツのクリスマス時期のお菓子の話になった。冒頭のコメントが彼女から出てきたのは、そんな会話の流れからだった。
彼女が言った背景はよく理解できる。シュトレンはお菓子としておいしいし、ドイツのクリスマスの代名詞と言える地位を日本で築いている、と言えるのだろう。さらにいえば、本場ドイツでもシュトレンは全土に広がりつつあるように感じる。
ただ、シュトレンはあくまでもドレスデンという地方発祥のお菓子。ドイツという国は、元々はドイツ語が話されるという共通点を持つ別々の国々が、近代になってようやく一つにまとまって生まれたという歴史的な背景を持つ。中央集権的な国ではなく、地方分権的であり、地方文化の粒が立っている。つまりドイツは地域による文化の違いが非常に大きい。
なので、シュトレンというお菓子はあくまでもドイツにおいては一つの地方文化であり、他の地方では「自分たちのものではない」と思っている。
そう、日本に当てはめてみると、たとえば外国人が日本について語るときに、「ニホンジンは、ボケとツッコミというカイワをするブンカを持っていて、ドヨウビのオヒルにはテレビでヨシモトをみながら、タコヤキを食べるミンゾクなんですヨネー」と言われるようなものだろうか。「まあ、そういう文化の地域もあるけど、それが日本の全てとは言えないなぁ」と言いたくなる。
特にクリスマスは、ドイツにおいて重要な地位を占めるイベント。そのぶん豊かで多様な文化が出来上がっている。クリスマス時期にはドイツがシュトレン一色に染まるわけではなくて、地域によって様々なお菓子が楽しまれる。
ということで前置きが長くなってしまったけれど、ドイツのクリスマス時期のお菓子文化について投稿した昔のいくつかの記事を整理して、改めて投稿してみよう。
【クリスマス時期のお菓子など】
まず、ドイツでクリスマス時期の代表的なお菓子を4種類ほど挙げてみる。南部でメジャーなプレツヒェンとレープクーヘン。東部発祥のシュトレン、西部でメジャーなシュペクラチウス。
いずれも寒い季節に食べるもの。だから、シナモンなどの香辛料や保存食のドライフルーツが入っていて、その香りが特徴的。
地図で示してみる
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では、それぞれのお菓子について見てみよう。
プレツヒェン
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この時期は、多くのドイツ人女性が大量の小麦粉やら砂糖やら香辛料を買い込んで、家でクッキーを作る。友達に配ったり、会社に持ってきて振舞ったり。
この写真は、同僚による手作りのプレツヒェン(小さいクッキー)。一見すると、それぞれが適当な形の自己流クッキーのようにみえても、実は形や材料等が決まっていて、一つ一つに固有の名前がついている。
たとえば、三日月形のクッキーはバニレキプフェルという名前。キプフェルというのはドイツ語で三日月なので、バニラ風味の三日月形のクッキー。
ちなみにお隣の国、チェコでは三日月ではなく「馬蹄」という名前がついていることを、お菓子屋さんから教えてもらった。たしかに三日月と馬蹄は形が似ている。
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先ほど書いたとおり、この時期のドイツは日本よりもずっと冷え込むから、体を温めるためにシナモンなどの香辛料が入っている。毎年この季節にシナモンの匂いを嗅ぐと、冬が来たという気持ちになる。このクッキーはドイツ南部とオーストリアで特にメジャー。
レープクーヘン
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レープクーヘンは、比較的南部のニュルンベルクという都市が発祥。シナモンなどの香辛料、はちみつ、ナッツ類が小麦粉の生地に練りこまれていて、上にチョコレートがかかっている。
なぜこのお菓子がニュルンベルクで有名かというと、この街は昔からヨーロッパを行き交う大きな道が交差する街で、交通の要所。それゆえ交易が盛んで商業の都となり、世界各地からあらゆる商品が入り込んできた。
だから、世界各地で採れる香辛料やチョコレートが使われるこのお菓子が名物に。ニュルンベルクは今でも、大規模な見本市やクリスマスマーケットが開かれる商業の街として有名。
あとレープクーヘンは、「飾り」として作られるものもある。その場合はしっかりと深く焼きを入れるので、超ハード。そのぶん長い期間飾っておける。この天井からぶら下がっているハート形のものが飾り用のレープクーヘン ↓
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シュトレン
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左側がシュトレン。ドイツ東部のドレスデン発祥。レーズンなどのドライフルーツや、アーモンド、クルミなどが入ったフルーツケーキのようなもの。通常は上から粉砂糖がまぶされている。正式名称は「クリストシュトレン」(キリストのシュトレン)。
ドイツでも今では広く浸透していて、パン屋さんで一般的に売られている。親がドレスデンに住んでいる同僚は、味に定評のあるドレスデン地元のパン屋から通販で何箱も買い付けて、職場で配っていた。
シュトレンは外側が粉砂糖がまぶされて真っ白で、少し扁平の独特な形をしている。これには意味があって、生まれたばかりのイエスキリストが白いおくるみにくるまれた形を表していると言われている。キリストの生誕にちなんだ期間に食べるものだから。
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でもこないだ日本で発見したシュトレンは、フランスパンそっくりなスリムでスタイリッシュな形だった。かなり違和感が・・。
シュペクラチウス
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シュペクラチウスは、風車の形をしていることから想像できるように、元々はオランダ発祥。だから、オランダに近いドイツ西部のデュッセルドルフではクリスマス時期のお菓子の定番。やはり、シナモン、白胡椒、生姜などの香辛料が入っている。
レープクーヘンとシュトレンの缶
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上がニュルンベルクで有名なお店のレープクーヘンの缶。
下がドレスデンシュトレンの缶。ドレスデンの中心部広場の絵が描かれているものが多い。
クルミなどナッツ類
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クリスマス時期にはよく食卓に置かれている。クルミはドイツでも栽培されていることに加え、マカダミアナッツやカシューナッツなどのナッツ類は、昔は「外国のエキゾチックで高価な食べ物」というイメージがあったために、クリスマス時期の「特別な雰囲気」を醸し出すのに使われたらしい。
実際、会社で開催されたクリスマスパーティーへ行ったら、食後はみんなでワインやビールを飲みつつ、クルミを割りながら延々とつまんで食べていた。
あとクリスマスの時期には、バレエ定番演目の「くるみ割り人形」が上演され、クリスマスマーケットでもくるみ割り人形が売られている。
【ひと言コメント】
この時期のドイツは、空気が冷たくて湿気が多い。その独特の空気感の中で、香辛料の匂いが漂う中で楽しむクリスマスマーケット。
または、オイルヒーターのよく効いた温かい屋内で、家族や友人たちと食べるシナモンたっぷりのクッキー。
ドイツへ来た当初は、そういった感覚が分かったような分からないような、どこかピンとこなかった。
でも毎年毎年そうやって同じようなことを繰り返し経験していくと、冬になるとそれらの経験が恋しくなってくる。特に、匂いや空気感は、人の記憶と密接に絡み合っている。ドイツ人たちは、子どもの頃から毎年繰り返し何回も何回もそういった経験を経ているから、やっぱりクリスマスは特別に心に埋め込まれている「幸せの象徴」の一つになっていると思う。
by 世界の人に聞いてみた
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