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傘をさしたことがない男

そろそろ日本は梅雨入りの季節。

これだけ地球の気温が上がって気候が変わっているにも関わらず、大気の微妙なバランスで成り立っている梅雨前線がもたらす「梅雨」という季節が、今でも変わらず巡ってくるのは驚くところ。

さて、今回はそんな雨にまつわる話を。

軽い雨

むかし住んでいたドイツでは、雨が軽いと感じた。

少々雨に降られて濡れたとしても、ほっておいたら気づくと乾いていたりする。雨によって服や肌がベチャッとする感覚が少なく、要は雨で濡れてもあまり気にならない。あくまで感覚的なものだけど。

その感覚的な違いが起こる理由はよく分からない。

想像してみるに、影響していると思われる要素の一つは、ドイツは日本と比べると基本的に空気が乾燥していること。特に春・夏は空気がカラッとしていて、空気がまとわりつくような重さをまとうことが少ない。だから雨が「軽い」と感じるのか。

また、空気が乾燥していることと関係しているのか分からないけれど、天気の変化が激しくて、急に雲が出てきてパラパラと雨が降ったかと思うと、また急に雲が去っていって陽がさす、を何度も繰り返す。特にそういう時の雨は、軽く感じた。そういう機動的な雲から降る雨は軽い、ということなのか。

ちなみに最近は気候変化によって、ドイツでも昔と比べると激しい雨が増えてきた、という現地の人たちの声も聞く。と書いていたら、ちょうど先日ドイツ南部で大雨が降って洪水が発生した様子。被害が少なかったことを祈っている。

そういった最近の気候変化はともかくとして、歴史的にはあくまでも「軽い雨」がデフォルトな国の人たち。

その結果として、日本とは違う「雨文化」が根付いている。

ドイツの雨文化

たとえば僕が驚いたのは、あるドイツ人。彼は「人生でこれまで傘をさしたことがない」と言っていた。年齢は40才台くらいだっただろうか。

その理由を聞いたら、とってもドイツ人らしく・・

傘をさしたことがない理由①

ドイツ人男性
「傘をさす姿って、弱々しい印象を与えるじゃん」

よく書いているように、ドイツはマッチョな文化。だからといって・・、まさか傘をさすことまで避けるとは。この思考回路は斬新だった。

傘をさしたことがない理由②

ドイツ人男性
「雨なんて、パーカーのフードを被ったらやり過ごせるじゃん」

・・・それはドイツの軽い雨だからだよ。日本でそのスタイルを貫くと、ビショビショになるでー。

さすがに彼のように「人生で一度も傘をさしたことがない」という人は、ドイツであっても多くないのかも知れない。けれど、傘をさすという行為は、日本より一般的でないと感じる。

その結果、どういう「雨文化」が生まれるか?

たとえば、着ている服。

先ほどのドイツ人のように「フード付き」の服を着る人が多くなる。雨がパラパラと降ってきても、フードを被ってやり過ごすことが多い。更に、そのフード付きの服は「雨に強い素材の上着」が合理的な選択になる。そして汚れてもいいように、暗めの色が好まれる。

となると、何が起こるのか。ドイツで雨の多くなる冬の季節には、街の中はフードが付いていてツルツルした素材でできた暗い色目のジャケットを着ている人で溢れかえることも。

また、傘にも違いがみられる。

ドイツで売られている傘は、種類が少ないし、重いし、高い。それは市場が小さくて競争が少ないからではないだろうか。従って、日本のような小型軽量な折り畳み傘なんて、望むべくもない。まあドイツ人はチカラが強いから、重くっても支障ないんだろうけど。

さて、話を「雨の軽さ」に戻すと、そんな僕が感じていた雨に関する感覚について、裏付けてくれる経験をした。

日本で雨にあたったドイツ人

最近、僕がドイツで働いていた当時の同僚が、出張で日本にやってきた。

このところ僕は、仕事で組織開発とか人材開発だとか人事系の仕事も担当するようになった。彼の方も、ドイツの会社で組織開発のプロジェクトを進めていたから、彼が日本へ来る前にメールでコンタクトしてくれた。

元ドイツ人同僚
「いま、うちの会社で組織開発の新しいプロジェクトを進めているんだけどさ。興味あるだろ?よかったら説明してあげるよ」

という親切なオファー。彼が日本に出張している間に一緒に飲みに行って、そこで教えてもらえることになった。

で、待ち合わせて飲み屋までの道のり。あいにく、シャーッと雨が降っていた。

一緒に雨の中を小走りで急ぎながら、彼は雨についての感想を問わず語りに口にした。

元ドイツ人同僚
「思うんだけどさ。日本の雨って、密度が濃いよね。いや、日本だけじゃなくって、アジアの雨って全般に。前に台湾へ出張で行って雨に降られたんだけど、もっと密度が濃かったんだよね」

僕は逆にドイツの雨が「軽い」って感じていたわけだから、やっぱりドイツ人からしたら逆に密度が濃いとかいう表現になるのか、ってすごく納得できた。

ちなみにその話を聞いた後で、僕の職場に台湾人の若い女性がいるのを思い出して、彼女に聞いてみた。


「かくかくしかじかで、ドイツ人から台湾の雨は日本の雨よりも更に密度が濃く感じるって言われたんだけど、どう?」

って聞いてみたら、やはり彼女としては、台湾の雨は日本の雨よりも重く感じる、という答え。

ということで、なんら客観的なものではなく、あくまでも感覚によるものではあるけれど、世界でも地域によって「雨の重さ」が違うんじゃない?っていう切り口のお話でした。

by 世界の人に聞いてみた

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