心から伝えたいと思えるエピソードにこそ、ホスピスケアの魂が宿る。CUCホスピスが、ご入居者さまとスタッフのエピソードを紡ぎ、伝える理由
「前を向いて生きる」を支える。
株式会社シーユーシー・ホスピス(以下、CUCホスピス)はこの使命を掲げて、がん末期や神経難病の人たちのための住まい「ReHOPE」を運営しています。
2017年の創業から約6年半が経ち、現在は全国に31拠点を展開(2023年8月現在)。少しずつ拠点を広げていく中で、使命を再認識する場として2019年に始めた取り組みが「エピソードキャンバス」です。各拠点のスタッフが、1年間でもっとも「みんなに共有したい」と感じるご入居者さまとのエピソードを発表し、称賛しあいます。
なぜ、CUCホスピスはご入居者さまとの「エピソード」を大切にするのか。エピソードキャンバス開催の経緯を振り返りながら、CUCホスピスが果たす使命を創業者の𠮷田豊美が語ります。
「本当に“前を向いて生きる”を支えられているのか?」不安の声から始まったエピソードキャンバス
𠮷田:エピソードキャンバスの話題に入る前に、私たちについて簡単にお話しさせてください。
CUCホスピスは、2017年の創業以来、がんやパーキンソン病、筋委縮性側索硬化症(ALS)、多系統萎縮症など17症例の方を受け入れてきました。
医療依存度が高い人たちへのケアは、豊富な経験が求められるため、施設によっては受け入れを断らざるを得ません。そのような中で、さまざまな病の方への間口を広げているのは、私ががん専門のホスピスを運営していた際に出会った、ALSの男性の存在がきっかけでした。
その男性は、「苦しまずに、安らかに最期を迎えたい」という願いがありましたが、受け入れ先が見つからず、行き場を失っていました。私たちも、当初は体制面を考慮して受け入れをお断りしていましたが、「難病を理由に、生きることをあきらめかけている人を見捨てていいのだろうか」という葛藤が私の中に芽生えました。スタッフと話し合いを重ねた結果、受け入れを決意。懸命に向き合ったことで、その方は安らかな最期を迎えられたのです。
その時に感じた、「どんなに重い障害や疾患を抱えていても、誰もが最期まで希望を持てる社会を作りたい」という想いが、CUCホスピス誕生のきっかけになりました。想いに共感してくれた仲間が集まり、医療依存度が高い方が安心して暮らせる「住まい」が、北海道、東北、関東、中部、近畿と広がりを見せています。
全国に拠点を広げる中で、私たちの使命を再認識する場として機能しているのが、「エピソードキャンバス」です。各拠点ごとに印象に残ったエピソードを語り合い、もっとも使命を実現している拠点を選び、表彰します。
例えば過去には、胃にチューブが入った状態で入居をした方が訓練を重ねて自分の大好きなカップラーメンを食べられるようになったエピソードや、おしゃれが大好きな女性のご入居者さまの誕生日に、スタッフがその方に化粧を施し、配偶者さまがバラの花束を持ってサプライズをしたエピソードが発表されました。
スタッフが、いかにしてご入居者さまの望みに寄り添い、「前を向いて生きる」姿を支えたのか。私たちの存在意義を考えさせられる貴重な機会になっています。
エピソードキャンバスをはじめたのは、創業から2年が経った2019年のこと。在宅ホスピス(現 ReHOPE)が、少しずつ全国に広がり始め、8拠点目のオープンを控えていた頃でした。
「拠点が次々と増えていく中で、みんなが同じ方向を向いているのかわからない」
「自分たちのケアが、本当に理念を体現しているのか不安だ」
そういった声が、スタッフから挙がるようになったのです。
拠点が少ないうちは、私が1カ所ずつ訪問して、CUCホスピスの原点や使命を伝えていました。しかし、その方法だけでは、全国に拠点を増やしていく中ではいずれ限界が来てしまいます。私が訪問をしなくても、メンバー一人ひとりが使命を実感し、切磋琢磨しあえる場がほしいと強く感じるようになりました。
どうすればスタッフの不安を払しょくし、ご入居者さまの「前を向いて生きる」を支えるケアができるのか。来る日も来る日も考え続けた私の頭に浮かんだのが、日々の「ご入居者さまとスタッフのエピソード」の共有でした。
スタッフがご入居者さま一人ひとりと、どう向き合ったのか。迷ったときにどのような決断をしてご入居者さまの「生きる姿」を支えたのか。きっと、スタッフ自身の印象に残り、「聴いてほしい」と思える日々の出来事にこそ、私たちが届けるべき価値があるはずだと思えたのです。
そうしたエピソードを発表しあうことで、自身の価値観に気づいたり、ほかの拠点のケアを疑似体験できたりと、お互いの成長や原点回帰にもつながっていくのではないか。
そう考えた私は、エピソードを共有しあうアワードの開催と冊子の作成を決意。各拠点に連絡に連絡し、「自分の心に残るご入居者さまとのエピソードを共有してほしい」と伝えました。
あなたに「生きてほしい」から食べさせる。ホスピスケアの真髄を実感
エピソードキャンバスの開催を決めてからは、怒涛の日々でした。
拠点から送られてきたエピソードを読んで追加でヒアリングをしたり、温度感が伝わるような写真を提供してもらったりしながら、冊子の作成と発表の準備を進めていきました。
そうして迎えた発表当日。人前での発表に慣れていないスタッフが多いので、内心ひやひやしていたのですが……杞憂でした。みんな、堂々と発表していましたし、中には感極まって泣き出す人もいたのです。
今でも印象に残っているのが、生きる意欲を失っていたご入居者さまのエピソードです。
その方の口癖は、「人工呼吸器も胃ろうもつけず、早く死にたい」。食事もほとんど摂ろうとしませんでした。ある日、スタッフが食事介助をしていると「どうせ私は死ぬ。今さら食事なんていらない!」とご入居者さまが叫んだのです。
「それは違う」──と感じたスタッフ。ご入居者さまにこう伝えました。
「私たちは、あなたに生きてほしいから食事の介助をしています。ここは、死を待つ場所ではなく、最期まで希望をもって生きていくための場所。私たちがしているのは、“生きるための介助”なんです」
スタッフの言葉を聴いて、ご入居者さまはハッとした表情を浮かべたそうです。その後、栄養を摂れるように胃ろうの手術を受けることを決意。スタッフの熱意が伝わり、「最期まで自分の命を全うしたい」という想いが芽生えたんでしょうね。
ご入居者さまの言う「死にたい」は、「助けてほしい。本当は生きていたい」という想いの裏返しかもしれない。表面上の態度に惑わされず、心の中にある想いにいかに寄り添うべきか。ホスピスケアの真髄をあらためて実感させられました。
助け合いの文化こそが、「前を向いて生きる」を実現する
エピソードキャンバスを始めて、2023年で5年が経ちました。当初はペインコントロールやリスクマネジメントなど、医療行為の話が中心でしたが、ご入居者さまの生き方に寄り添う内容が増えてきました。特に、「食べることに向き合う」「地域や社会とのつながり」「ご入居者さまの挑戦を応援する」といったテーマが語られるようになってきましたね。
食・つながり・挑戦──これらは、人間が根源的に持っている欲求なのだと思います。どんなに病状が悪化しても、ご入居者さまは一人の“人間”。ご入居者さまが持つ欲求を抑えつけず、「生きること」への希望を持てるようなケアをしていく。それが、私たちがプロとして果たす役目なのだと感じます。
がんや神経難病になっても、ベッドから起き上がってもらい、イスに腰かけてもらい、外の空気を吸ってもらう。そして、「今日一日、ありがとう。楽しかったよ」と言ってもらえる瞬間を作っていきたい。スタッフが紡ぎだすエピソードを聞いていると、その想いが強くなっていくのを感じます。
私たちの使命である「『前を向いて生きる』を支える。」は、けっしてご入居者さまだけに届けるものではありません。この理念が示す「支え合いの文化」を、社会全体に浸透させていきたいと考えています。
人は誰しもが老い、「死」に向かって進んでいきますよね。今は「支える側」である私たちも、いずれは「支えられる側」に回る時が来る。そんな時に、お互いに支え合い、望みに寄り添うことができれば、「生きること」に対して希望を持てる人が増えていくと思うのです。
そんな社会を実現するために、エピソードキャンバスを通して、私たちの使命を心に刻み続けていきたいです。
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