農業はやってないんですよ。自分のこと、ロボット農家だと思ってます。
麦わら帽子に、首にタオル。
そんな「農家」のイメージが、今、大きな変貌を遂げている。
「世界を農でオモシロくする」をテーマに、インターネット農学校The CAMPusの校長として、食と農に関するあらゆる活動を展開する井本喜久氏。初著書『ビジネスパーソンの新・兼業農家論』刊行にあたり、「地域×農」にまつわるオンライントークライブが2020年9月5日に行われた。本記事では、「こゆ財団」にてスマート農業などを展開する齋藤潤一氏との対談模様を、編集・再構成してお届けする。
スマート農業で地域の活性化を図る齋藤氏
井本:齋藤さんは、「スマート農業」という文脈で地域を活性化するっていうところのスーパースターなんて言われていますけども。一粒千円のライチを作ったりとか、最近は焼酎を作られたりとか。元々は、ITベンチャーでシリコンバレーでのご経験もおありで。
齋藤:最近は、農業のロボットも作っているんですよ。今って、別に農業ド素人の僕がロボット作ってもいいじゃないかという時代なんですよね。そんな僕から、受講者さんに一言いいかな。
井本:なんですか?
齋藤:みなさん、絶対、この本買わないでください!!(笑)
井本:なんでよー!(笑)
齋藤:これを買われると、僕らみたいなブルーオーシャンで戦っている人たちが困っちゃうんですよね。
井本:それはあるかもね。
齋藤:この本に書いてある事を実践していて、首相官邸にも呼ばれているくらい、ブルーオーシャン泳ぎまくってるわけですよ、我々。
農家としてテクノロジーに頼るのは是か非か?
齋藤:この前、LEDライトでセロリとかパセリとか育てる農業の勉強会をして。農家さんたちと「このLEDライトのレタスは何産なんだろう?」って話になって面白かった。土とか水はその土地のものだけれど、タネは外から買ったりしてるし、いっぱい肥料も入れてるし。
固定観念にとらわれていると、新しい試みができなくて、なかなか前進しないんだよね。
井本:なるほどね。僕は、潤ちゃんがやっているスマート農業にちょっと否定的だったんだよね。ロボットを活用するって考え方もわかるんだけど、テクノロジーに頼りすぎるのもお金かかるし、大変な面も多いじゃん。だから、そこにお金突っ込むのが農家の道として正しいのか疑問に思ってたんだけど。潤ちゃんと話せば話すほど、潤ちゃんは人を育てたいんだな、人が本気になる環境を作りたいんだなぁって思ったんだけど。
齋藤:そうですよ。僕がロボットをやる理由っていうのは一つで、農家さんがもっと楽して、ロボットができることはロボットがやって、人間はもっと創造的にやっていこうよ、ということ。そしたら、空いた時間で、「ポケマル(=ポケットマルシェ)」さんに出したり、「食べチョク」さんに出したり、TheCAMPusさんの授業受けたりとか、創造的なことに時間を使えるじゃん。ロボットを活用することで、人間をいかに幸せにできるかを考えてるね。
井本:「進化と継承」って、昔から先人たちが大切にしてきた考え方や哲学を、ITやロボットと一緒に機能させていくってことかもしれないね。テクノロジーによって新しい知恵が生まれて、またその知恵から新たな知恵が生まれていって、持続可能な形になっていくもんね。
10年後には、「兼業農家」も「専業農家」もなくなる?
井本:僕の予測だけど、10年後には「兼業農家」とか「専業農家」って言葉はなくなってると思うんですよ。2025年くらいから、食糧問題が表面化してくると思っていて、最初はアフリカがぶち当たるって言われている。僕らは太陽光発電とロボットで自動で動く仕組みを作って、砂漠の真ん中にビニールハウスを立てて、絶対に野菜が育たなかったところで野菜を育てて、人類の食糧問題を解決したいと本気で思ってるんです。だけど、僕は農家ではないし兼業農家でもないわけです。この計画が成功したら、砂漠でもどこでも野菜が採れるようになるわけだけど、そこには鍬を持った人はいないわけです。じゃあ、農家じゃないのか? 農家って何? どういうこと? 「農家=帽子被って鍬持ってる」みたいなイメージは、未だにあるけれど、その価値観も変わっていく気がするんだよね。
井本:そうそう。俺は「新・兼業農家」って言ってるんだけど、これからの時代の農業を動かしていくのは都市にいるビジネスパーソンなんじゃないかなと思っていて。ビジネスパーソンって商いのプロだから、ビジネスパーソンが農業に片足突っ込んで、面白いことをやろうとすれば、革命は起きると思う。
齋藤:間違いない。僕なんかもまちづくりのNPOを10年とかやってるけど、MBA持ってるビジネスモデルオタクだったりもする。でも、ロボット作ったりしてるわけですよ。ビジネスパーソンの兼業農家とか副業みたいなものが、めっちゃ時代に必要とされてるって思うね。
兼業農家でも、農業ド素人でも、農業はやっていい!
井本:こないだ潤ちゃんが、「これから地方に移住したいっていう人たちが一番最初に困るのは仕事だよね」って言ってたじゃん。確かにそうだと思って。でも、それを農とか農ライフというものに紐づけてみたら、仕事っていうのもうまく回り始めるんじゃないかなと思うのよ。きっと、農ライフの中にそのヒントがいっぱいあるはずだから。
「日向ドラゴンアカデミー」(「ビジネスで地域課題を解決」をテーマに、宮崎県日向市でフィールドワークを行いながら実践的に学ぶソーシャルビジネススクール。齋藤は主任講師を務める)でも、企業を目指す人たちに最初に農家さんを見せたりしてたじゃん。ビジネスマンがいろんな仕事をテクノロジーの話も全部含めて有機的に繋げて仕事をやっていくみたいな。そういう人が地方にどんどん移り住んでいくと面白いなぁと思う。
齋藤:そうだね。時間もないから、最後に一言言わせて。僕はね、兼業農家でも農業ド素人でも農業やっていいんですよ、って言いたい! 一橋大学名誉教授の米倉誠一郎先生は、「好きなことをやってるやつにはかなわない」って仰ってる。間違いないと思うんだよ。「自分は農家じゃない、無理だ」とか固定観念で決めつけないで、楽しいと思うならやってみなよ、と言いたいね。
井本 喜久 (いもと よしひさ)
⼀般社団法⼈The CAMPus 代表理事
株式会社The CAMPus BASE 代表取締役
ブランディングプロデューサー
広島の限界集落にある米農家出身。東京農大を卒業するも広告業界へ。26歳で起業。コミュニケーションデザイン会社COZ(株)を創業。2012年 表参道でBrooklyn Ribbon Friesを創業し食ブランド事業もスタート。数年後、家族がガンになった事をキッカケに健康的な食と農に対する探究心が芽生える。2016年 新宿駅屋上で都市と地域を繋ぐマルシェを開催し延べ10万人を動員。2017年「世界を農でオモシロくする」をテーマにインターネット 農学校 The CAMPusを開校。全国約60名の凄腕農家さんを教授に迎え、農的暮らしのオモシロさをワンコインの有料ウェブマガジンとして配信中。2018年(株)The CAMPus BASEを設立。全国の様々な地域で農を軸に地域活性を図るプロジェクトをプロデュース中。
齋藤 潤一(さいとう じゅんいち)
特定非営利活動法人まちづくりGIFT 代表理事
一般財団法人こゆ地域づくり推進機構 代表理事
AGRIST株式会社 代表取締役
慶應義塾大学大学院 非常勤講師
1979年大阪府生まれ。米国シリコンバレーのITベンチャー企業でサービス・製品開発の責任者として従事。帰国後、2011年の東日本大震災を機に「ソーシャルビジネスで地域課題を解決する」を使命に慶應義塾大学や全国各地の地方自治体と連携して起業家育成に取り組む。
これらの実績が評価され、2017年4月新富町役場が設立した地域商社「こゆ財団」の代表理事に就任。1粒1000円ライチの開発やふるさと納税で寄付金を累計35億円集める。結果、移住者や起業家が集まる街になり、2018年12月国の地方創生の優良事例に選定される。
『ビジネスパーソンの新・兼業農家論』 著・井本喜久
★AERA10/19号「アエラ読書部 森永卓郎の読まずにはいられない」で紹介!
★読売新聞「本よみうり堂」にて書評が掲載されました!(10/18)
都会と地方のよさを合わせた働き方をつくる!
・多拠点生活、地方移住、Uターン・Iターンに興味がある。
・田舎で自然に囲まれて、家族や仲間を大切にしながら暮らしたい。
・「食」や「環境」、SDGsにかかわる活動がしたい。
そんな方に提案したいのが「新・兼業農家」。
従来の農業は「大変で儲からない」というイメージが強いものでした。
しかし今の農業は、工夫次第で「楽しくて、カッコよくて、健康的で、儲かる」!
地方と都会を自由に行き来し、これまでの仕事や興味のあった活動と組み合わせ、相乗効果で成果を上げる働き方を可能にしてくれます。
それを後押ししてくれるのが、柔軟な発想・計画・マーケティング・営業・PRなどのビジネススキル。
ビジネスパーソンこそ、「新・兼業農家」に向いているのです。
本書で提唱する「コンパクト農家」は、ビジネス⾯での基準値を「0.5ha(1500坪)で年商1000万」に設定。
数多の成功農家に学びながら自身も二拠点生活を営む「インターネット農学校」校長と共に、新時代の農業の始め方について学びます。