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永木 公(ながき きみや)
2022年4月18日 11:38
ある年の八月、東京は神保町の飯田橋駅前にさあっと一筋の風が吹き、軍服姿の青年が現れた。青白い顔で、目は血走り、日の丸に「報國」と書かれたはちまきを飛行帽の上に巻いている。あどけなさが残る青年にはあまりにもミスマッチな格好だった。時勢にまったくそぐわない、なんとも異様な格好だが、周囲の人々は彼を気にかける様子もない。青年は驚いたように大きく目を見開いたあと、不思議そうな顔をしながら、ゆっくりと人の
2022年2月14日 13:35
いつから、雪にワクワクしなくなるのだろう。僕の知る大人は、雪の予報を見ても顔をしかめるのばかりだ。たった今車のワイパーを上げに外へ出たパパも、さっきから明日履くブーツを探しているママも、どこか困ったような顔をしている。どうして、「積もらなければいい」なんて言うんだろう。あの真っ白い世界が待ち遠しくないのだろうか。おかしなパパとママを横目に、僕は僕のとっておきのブーツと手袋を引っ張り出して、歯磨き
2022年2月16日 23:04
彼は人見知りの陰性な人として通っていた。しかし「高校生の天才シンガーソングライター」がキャッチコピーだった彼の、その美しい高音と陰鬱な歌詞は、多くの人を虜にした。 彼の代表曲は『迷宮のバラード』と言った。叶わない恋の悲哀を語る歌詞と、彼の少年のような歌声はあまりにもミスマッチだったが、それが人々に刺さった。 私はむしろ凡人でありたかった。自らを犠牲にして手にした「天才」と言う評判など少し
2022年2月25日 12:09
「ちちをかえせ ははをかえせ としよりをかえせ こどもをかえせ わたしをかえせ わたしにつながる にんげんをかえせ にんげんの にんげんのよのあるかぎり くずれぬへいわを へいわをかえせ」 峠三吉『原爆詩集』より 母はふやかした落花生を潰している。開戦してしばらくは白米に落花生を混ぜていたのだが、配給が目減りして以来、これを潰した粉を入れた雑炊が我が