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「スマホをかざすだけなのに!」
電動車椅子ユーザーとして介助者なしで外出すると、時折、「ああ、もう………」と、歯がゆい思いをすることがある。
2月16日。一応、誕生日だったので、せめてもの御褒美と、ケーキを買うために駅前の「コージーコーナー」に行った。
いきなりの余談だが、おやつやデザートを個人の判断で自由に買えるのは、障害者向けシェアハウスとしては珍しいらしい。
それはともかくとして……。
平日の昼下がりの割には、店内は混み合っていた。
ケーキはすでに決めていたから、順番を待つ間も迷うことはなかった。
これも余談だが、子どもの頃からモンブランが大好物なのだ。
順番がまわってきた。
声が出せないため、ショーケースのモンブランを指さして「これがほしい!」と伝える。
ここまでは順調だ。
しかし……。
会計の段になって、雲行きがあやしくなった。
買い物では基本的にスマホに入れたモバイルSuicaで支払うのだが、店員がスマホの表側(つまりは画面のほう)を端末にかざすため、反応しないのだ。
androidの場合、通信の読み取り部分が裏側にあるため、表側をいくらあてがっても意味がないのである。
「あれ?おかしいですね」
首をかしげつつ、店員はまたスマホの表側を端末にかざす。
端末側の読み取りが時間切れとなり、あらためて金額を入力して再設定。そしてスマホの表側をかざして反応せず、時間切れで再設定……。
そんなことを、5回は繰り返しただろうか。
「誰か、Suicaの使い方知らない?」
焦った店員がバックヤードの店員まで招集して助けを求めるが、事態は解決せず。
「スマホ(の裏)をかざすだけなのに!」
叫びたい衝動にかられたが、それもできない。
思いきって叫んだところで、奇声にしかならないだろう。
その間にも店内は混み合ってきて、他の店員が対応に追われる。
「私、駅員さんに聞いてくるね!」
このままでは埒が明かないと思ったのだろう。意を決したように店員は言い残し、小走りで店を出ていった。
店から10秒も歩かない距離に、東急武蔵小杉駅の改札がある。
駅員なら、モバイルSuicaの使い方にも詳しいと判断したのだろう。
私はというと、店にぽつんと置き去りにされた恰好になり、気まずさばかりが募っていく。
「迷惑な客だ」と思われていただろう。
「聞いてきたよ!」
数分後、店員が息をきらして戻ってきた。
「裏側をあてるんだって!」
店員があらためて端末を設定し、スマホの裏側をかざす。
「ピッ」
当たり前のように読取完了の電子音が鳴り、支払いは終わった。
ざっと、20分はかかっただろうか。
店員の機転もあり、最終的には無事(?)支払いが完了したから良かったが、今回のアクシデントは、今後の外出スタイルを考えるうえでもちょうどいい課題となった。
サポートを受ける側として、どのようなコミュニケーションが正解だったのだろうか。
時間をかけて、根気よく対応してくれた店員には、もちろん感謝しかない。