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広告から見える社会と個人のメンタルヘルス

心理カウンセラーのゆうきです。
日本を離れ、北米に住み始めて気がつくことは沢山あるのですが、その中でカナダBC州の公共交通機関をよく使うようになってから気づいたことがあります。それは公共の場においての広告の違いです。

広告というのは、公共の場に掲載されるものであり、誰の目にも留まるもの。その社会における広告数やその内容を見るだけで、その社会にはどんなメッセージがあるのか、またその広告による個人のメンタルヘルスや社会的影響が見えてきます。

今回は、広告とメンタルヘルスについて、カナダBC州と日本の比較をしながら、公共の場に掲載される広告が、個人、そして社会全体にどのような影響があるのかを検討してゆきたいと思います。

日本の広告 

日本の電車やバスに乗ると、実に様々な広告を目にします。私が小さかった頃は、恥ずかしくなるような目を背けたくなるような性的なことが書かれている雑誌の広告もあったなと覚えています。現在は、さすがに性的な広告を目にすることがなくなったとはいえ、日本の広告の特徴は、カナダの交通機関に掲載されている広告に比べると、まずはその広告の多さに驚かされます。そして、その内容もとても大きな違いがあることに気がつきました。

ここで最近Twitterで話題となっていた日本の広告を紹介したいと思います。それはTeen(19歳までの)女性向けの整形手術の広告(モデル/俳優の藤井美穂さんが、この広告を問題としてツイートされ、ネット記事にも載っていす)。


この広告には日本社会におけるルッキズムが現れていると思います。広告に掲載されている制服をきた女子高生の写真と同時に、広告文句が飛び込んできます。

ルッキズム(英: lookism)とは外見重視主義[1][2]。主に人間が、視覚により外見でその価値をつけることである[3][4][5][6]。「look(外見、容姿)+ism(主義)」であり、外見至上主義[7][2]、美貌差別[8]、外見差別、外見を重視する価値観などとも呼ばれる[2]。「容姿の良い人物を高く評価する」「容姿が魅力的でないと判断した人物を雑に扱う」など、外見に基づく蔑視を意味する場合もある[5][3][4][6]。

Wikipedia

上記の説明のように、この広告は社会で外見を重視する価値観を推し進めている一つの現れだと思います。他にもこの広告をシェアしていた方達がこのような広告がTwitterに上がっていましたが、それを見ると、どうやらこの広告は、日本の車内にもあったもののようです。カナダの電車の中でこのような広告を見たことがなかったので、このTwitterを見た時は驚きました(カナダに整形手術の広告がないという意味ではありません←ただ公共の場では見ません)。

多くの人が利用する公共の場所で堂々とティーン向けに、それもなぜか制服をきている女子高生を写真に使い、整形手術を勧めていることに驚きました。制服はある意味、年齢がすぐにわかる、この広告のターゲット層がわかるという意味で、シンボルになっているのかもしれません。

このような広告が普段目につくような場所にあれば、自分の外見がどのように見られているのか、より意識するようなるのではないかと思います。そしてこの広告文句にあることが、その社会で受け入れられている「美」」を象徴していて、日本では「カワイイ」が良いのだなとすぐに分かります。そのそのカワイさは「二重」ということ。この広告を見れば、二重でない場合、その個人は「かわいくない」と認識することになり、外見的の悩み、自分のボディイメージにつながってゆきます。

またこの広告を見て、日本特有の現象である「顔パンツ」(コロナ後に生まれたマスクの名称)を思い出しました。そこで興味深いデータがあるのでご紹介します。2023年2月17日に発表された、東京イセアクリニック(医療法人社団心紲会)の調査によれば、現役の小中高校生300名のうち90%以上の若者が、マスクを外すことへ抵抗を感じると出ていました。年齢が上がれば上がるほど抵抗感を感じる割合が多く、その理由に恥ずかしさ、自分の容姿に自信がない、友達にどう思われるか不安、そして目元しか見たことがない友達がいるというのが全体の割合を占める大きな理由です。そもそも感染症対策であったはずのマスク。感染症を気にしていると答えたのは3割程度でした。それも年齢が上がるにつれて少なくなります。(PRTIMESより)

ちなみにカナダでもマスクを外すことが恥ずかしいと感じる若者はいますが、日本のようにここまで多くはありません。なぜ日本ではこのような現象が起こるのか、です。 マスクを外したくないという理由に「見た目」を気にしている割合がとても多いこの調査結果は、日本社会におけるルッキズムの深刻さが現れている調査結果ではないかと思いました。

そして今回の美容整形の広告です。この広告は、上記のような若者を煽るような見せ方であり、また若者の悩みに応える一つとしての商品となっています。もちろん整形美容も商品の一つ。その商品を買うか買わないかは個人の自由です。「美容整形」全てが悪いことではないとは思います。

何が問題なのか?

整形美容に関する広告は、北米でも今まで多数の議論、そして問題定義がなされてきました。2016年に、カナダのモントリールのクリニックがティーン向けに出した広告が大きなニュースになりました。この美容整形の広告問題は、身体的にも精神的にも発達時期である若者層をターゲットにしているところにあり、メンタルヘルスの影響(ボディイメージや自己肯定感を育てること)を無視しているというところにあると思います。

メンタルヘルスへの影響

青年期は、自己確立する時期であり、様々な模索がなされる年代です。また身体的な成長も、個人差はありますが、男女とも18〜19歳まで成長すると言われています。そのような発達過程で、心も不安定にもなりがちな年代で、人からどう見られるかを一番気にする時期なのです。そのような発達期に、影響されやすい若者をターゲットにして、さらにルッキズムを推し進める広告をするべきかどうかは熟考する必要があります。Global Newsでも指摘されていましたが、これは広告倫理にも関わることなのかと思います。

“This is where the marketer will have to contemplate what is ethically correct,” said Robert Soroka, a marketing professor at McGill University.“Legally, there is no problem. It’s what is being ethically appropriate.”「これは、マーケティング担当者が倫理的に正しいことを考えなければならないところだ」と、マギル大学のマーケティング教授であるロバート・ソローカは言う。「法律的には何の問題もない。倫理的に適切かどうかだ」

2012 Global News

児童・青年期のボディイメージと自己肯定感に関する多数の研究では、近年SNSを含むメディアの影響から、ティーンの整形手術が増えていると言われています。現代の子どもたちが生きる世界は、テレビ、ネット、雑誌、インフルエンサーのSNSなどといった様々なメディアがとても身近にあること、また様々なアプリで顔を変えることができる機能も発達していることで、”理想の姿”をあちこちから見せつけられるし、自分の顔を自由に加工できる時代です。そんな中で子どもたちのボディ・イメージが作られ、それが「このままの自分で良い」と感じる度合い、すなわち自己肯定感に影響してゆきます。自己肯定感が低くなれば、それが不安障害やうつ症状、そして摂食障害などといった精神疾患を発症する可能性もありますし、学校ではボディイメージによる、からかいや、いじめも起こりやすくなると思います(いじめなどがあれば、それがまた人の心に影響するという悪循環です)。

そんな状況の中で、近年、子どもの整形手術の需要が急激に高まり北米ではかなり懸念されています。もちろん、整形手術によって自己肯定感が上がり、精神的にも良い結果になるという研究結果もありますが、それは短期における結果であり、長期的に精神的にポジティブな影響があるという結果は出ていません。そのため、特に心身体も成長期である未成年者への整形手術については議論されてきました。

その結果北米では、ヴィクトリア・シークレット(パーフェクトな体型のモデルをを起用していた下着メーカー)はじめ、洋服、水着や下着メーカーは、様々な体型、身体のモデル(セルライトも隠さない)を起用し始め、現在はそれがごく普通のイメージになりつつあります。また2022年イギリスでは、18歳未満の未成年者への整形美容の広告宣伝は禁止となりました。
Sputnik 日本 

整形クリニックの意図としては、若者の悩み解決に答えていたのかもしれません。そして、もしもここに、本当に悪気がないとしたら、これはルッキズムやメンタルヘルスへの影響に対しての作る側の認識不足の表れだと思いました。日本社会では、このようにメンタルヘルスに関わること、人としての尊厳に関しての「認識不足」がよく見られます。倫理が考えられていないことが分かります。

このような広告が簡単に公共の場に出てしまうという社会は、心と身体の発達途上である未成年者の自己肯定感を育てる社会といえるのか?その視点で考えた時、大きな疑問が残る広告で、もっと社会で議論されても良いことだと思いました。

カナダBC州で見かける広告

カナダでも美容整形の広告がないわけではありません。ただ公共の場で整形美容の宣伝を見かけることはほぼありません。ただ現代は、SNSの中でアルゴリズムによって、いろんな形で個人に直接広告・宣伝は届けられています。美容に興味のあるサイトばかり見ていれば美容関係の広告がどんどん個人に届く時代。このようにインターネットの世界は規制がまだまだ甘いので、そういう意味でも、イギリスでは禁止になったのでしょう。ただ公共の場にそのような宣伝がないのは少しホッとします。ではどんな広告を目にするのか?

カナダのBC州でまず思うのは、広告の数が少ないということ。日本に比べると物凄く少ないと思います。もちろんカナダも消費社会です。ただ日本よりも広告が少なく、特に電車やバスでは本当に少ないです。そして広告の種類も限られているという印象です。

広告から見られるメッセージ

いくつかカナダBC州のバス、電車、モールで見かけた広告を紹介します。
よくカナダのBC州で見かける広告のジャンルとしては、日本と同じくなんらかの売買商品(不動産など含め)や、お店(レストラン、ブランド、リテールショップなど)、エンターテイメント(映画、劇、イベントなど)や生涯学習に関するキャリアを応援するような学校の広告があります。

日本よりもよく目に付くのが様々な支援サービスの広告です。特にこの支援に関する広告は、公共の場でとても大切なメッセージになると思いました。そして日本に比べると、雑誌の宣伝というのがないことに気がつきました。

電車やバス、そのほか公共の場で目にする広告は、日本のように売るための商品の宣伝広告もあるのですが、特に学校や社会支援サービスの広告は、市民に向けて、必要な情報やメッセージを届ける、という意味で使われているような広告が多いなと思いました。

いくつかカナダBC州のバス、電車、モールで見かけた広告を紹介します。

学校系の広告:

学校系の広告・2023年

上記の写真は、一般のカレッジ(左)や、先住民向けのカレッジ(右上)の宣伝と、右下は、移民であれば無料で受けることができる英語のクラスの宣伝です(全て2023年のもの)。

左のダグラスカレッジの宣伝文句は「誰が先住民の青年をサポートし、社会的正義に挑戦するのか?という文句で、「私がします(I do)」というメッセージ。学校では、社会支援に携わるようなコースがあると感じさせる広告です。また、右上は先住民の方たちのカレッジです、先住民族の言語習得、再生可能エネルギーやビシネスを学べるようです。

右下の移民向けの無料英語学校は、緑の部分に大きく子供のプリスクールが併設されていることが書かれていて、メッセージは、親が学んでいるときに、子供たちも遊びを通して学んでいると書かれています。

仕事系の広告:

仕事・キャリアの広告・2023年

上は州の政府が提供しているWorkBCというところの宣伝。仕事を得るためのトレーニングや、キャリアアップのための経済的サポート含む様々な情報をもらうことができるとのこと。一番下もキャリアアップの広告。

そして「You Are not ALONE・あなたは一人ではない」という言葉が目に飛び込んでくる、この真ん中の広告は、職業に関してのキャリア支援の宣伝ですが、移民向けのもの。カナダへ移民してから生活をスタートしなくてはいけないので、仕事探し、キャリアパスというのは本当に重要です(大変でもある)。

社会支援系の広告:

支援系の広告

左のピンクの広告は、Pink Shirt Day(ピンクシャツ・デー)と言って、いじめ防止デーの広告です。この広告は2018年のものですが、毎年キャンペーンが打たれます。ピンクシャツデーの由来は、カナダのノバスコシア州のハイスクールで起こった出来事から始まりました。当時、ある男子学生がピンクのシャツを着ていたことで、いじめられてしまい、その抵抗として、同じ学校の学生たち立ち上がり、皆にピンクのシャツを着て学校に行こう!となり、この活動が国全体に広がってゆきました。今では日本でもあるそうです。(日本ピンクシャツデー公式サイト

右上は、2022年のWAVAW・レイプクライシスセンターが出した広告です。WAVAWでは、24時間ホットライン、携帯のショートメールやチャットでのサポート他、心理療法のサービスにバンクーバー市とUBC大学キャンパス内にある病院への付き添いサポート、また法的な手続きなどサポートしてくれるアドボイケイターに繋がることができます。性的被害のサポートは、この一箇所にまずは繋がれば、心のケアだけではなく、必要なこと全て包括した支援を受けることができるので、性的被害者にとっては負担が少なくなるなと思います。

右真ん中は数年前に立ち上がったバンクーバー市民病院がバックアップしている12歳から24歳まで(ティーンからヤングアダルト)を対象にしている支援団体 Foundryの広告です。心と身体、生活全般といった若者の生活にまつわる全般のサービスを提供しています。心理療法に関しては、電話、オンライン、チャット、対面セッションなど、気軽に相談したい時に予約ができるシステムが画期的で、その相談に応えるのは心理療法士です。そこから続けてカウンセリングを受けたければ、次のセッションの予約も可能。1回だけの使用も可能です。心理療法はじめ、その他全てのサービスは無料で受けることができます。(2023年)

右下の写真は Connectiveという、地域支援団体(住まいに関すること、法律、教育や就労などに関する相談)の広告です。(2023年)

社会にどんなメッセージを発信するのか?

カナダにもルッキズムや若者問題は様々あります。ただそれを「問題」と捉えているからこそ、どのようなメッセージを公共の場で見せるかが大事になるのかなと思いました。先ほども書きましたが、SNSを通してあの手この手で宣伝するので、まだ自己の成熟度が途上のティーンが、心が揺れ動く時期に、自分の容姿を気にして整形に関しての検索をすれば、そのような宣伝も頻繁に目にすることでしょう。それは大きな問題となっているので、小学校の高学年からフェイクニュースのチェックの仕方なども含めてメディアリテラシーを学んでいます。

このように近年、人々のボディイメージ、自己肯定感に関しては、SNSの発展とともに、メンタルヘルスにも影響があることはわかっています。特に心と身体が未発達な未成年者になればなおさら(その上、現代の子どもたちはインターネットが当たり前の時代に生まれているので、一世代前の感覚とも違うでしょう)。情報過多かつ、まだまだ規制の甘いインターネットが身近なだけに、個人がどんな情報を選ぶかが問われている時代です。公共の場所というのは、SNSをしなかったとしても、誰もが目に触れることのできる場所。そのような場で、社会が誰に対して、どんなメッセージを伝えるのか。広告は商品を売るためだけのものではありません。ものを売る側が、買ってもらうために宣伝をするのか、それとも、その社会をより良い社会にすることを促すような宣伝なのか。

広告の倫理を考えてゆくことは、メンタルヘルスのリスクに対する予防にもなります。そして、その社会に暮らす人々に向けたメンタルヘルスの向上は、こんなところからでもスタートできるのです。

参考:
Plastic surgery for prom? Montreal clinic targets teens with new ad, 2016 Global News
Body Image, Self-Esteem, and Mental Health, 2015 Canadian Mental Health Association)
Teens, Body image, and Social Media, 2019  Psychology Today
For Some Teens, as Masks Come Off, Anxiety Sets In, 2022   NYTimes 
Effects of advertising on teen body image, Wikipedia)
未成年のマスクに関するデータ,  2023 PRTIMES

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