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精神疾患の治療が私の良い歯を作っている#いい歯のために

「不安障害」。

その精神疾患がもたらす心身の不安定さは、口腔内の健康も奪い去っていった。


精神疾患がもたらす歯科治療の辛さに苦しんだ8年間

私が歯科治療に苦手意識を持つきっかけとなったのは、ほんの些細な出来事からだった。

それは8年前、奥歯の治療の際に一度だけ軽くえずいてしまったことだった。

その時は、特に問題なく治療を続行できたのにも関わらず、それを機に治療の度にえずくようになってしまい、しまいには口を開けただけで咽頭反射が起きるようになった。

そのことに加え、動悸や強い吐き気、不安感も引き起こされパニックにも似た状態になり、どんどんと歯科治療が苦痛になっていった。

経験したこともないような激しい動悸。
血の気も引くようなおぞましい吐き気。
口を開けただけでえずき、進まない治療。
治療者の冷たい視線。
そして、死ぬような恐怖。

そのような症状に苦しみ、歯科治療で悩んでいることを周囲に相談すると、みなは口々に言った。


「良い歳して、歯医者が怖いなんてみっともない」

「みんな、怖くても我慢してるんだよ」

「そのくらい我慢できない方がおかしい」

と。


「そうなのか。私がおかしいんだ。私が弱いのがいけないんだ。」


周囲の言葉から私はそう思い込み、苦しさを押し殺した。

私はこれ以前に精神科への通院、入院歴があり、その際にASD、不安障害と診断されていたがしばらく精神科から離れていた。

この時も「この症状は不安障害によるものでは?」という考えが頭をよぎったが、周囲の
「歯医者が怖いのはみんな一緒。」「ドキドキするのは当たり前。」といった言葉を受け、精神科の受診は遠のいていった。

だから歯科治療を受ける際の心身の苦痛にひたすら耐えた。
そして、いろいろな考え方や対策を取り入れた。

けれど、そんな私を嘲笑うかのように症状は悪化していき、毎日、歯科治療のことばかりを考えては塞ぎ込むようになった。

そして、そんな状態は新たな問題を呼び込んできた。


それは過剰なブラッシング。

虫歯になって歯医者に行くことが怖いからと、毎日過剰な歯磨きを繰り返した。
それは1回の歯磨きにつき1時間もの時間に及ぶ事さえあった。

それにより、歯はエナメル質がすり減り沁みるようになり、歯茎は炎症により赤く爛れ、歯ブラシ全体が真っ赤に染まるほど出血するようになった。

自分でもやりすぎだと分かっていても、辞められなかった。

歯は何を食べてもつんと沁み、歯茎は常にジンジンと痛んだ。


毎日が苦しかった。
身体も心も重く思うように動けない日々。

過剰な歯磨きを辞められずに口腔内がぼろぼろになっていくのも辛かったし、歯科治療を行う際の心身の苦痛を思うと、生きた心地がしなかった。


「治療が怖いというよりは、治療により引き起こされる体調不良が怖いんだ。」


そう周りに訴えても、理解を得られない日々。
歯医者では小さな子供が静かに治療を受ける中、私1人の治療が進まず難航していた。

治療中、突き刺さる冷たい視線に好奇の目。
投げかけられる冷たい言葉。

それらはいともたやすく私の心を貫いた。


耐えて耐えて頑張って受けてきた歯科治療だったが、ひどい吐き気や診察台に座っただけで起きる咽頭反射、強い恐怖心などから歯科治療を受けることができなくなった。

治療と歯のことばかりを考えてしまう毎日が苦しくて、消えたくなった。

「歯医者から逃れる為に消えたいと思うなんて、私くらいだよな。」
そう思うと自嘲と涙が同時に込み上げた。

行動2つで救われた歯と心

「死ぬ前にまだ、できることがあるはずだ。」

あの時に聞いたその声は、自分の心が発したものだったのだろうか。

私はその言葉に突き動かされるように、前々から気になっていたとある精神科に行った。

久々の精神科では、歯に関すること以外の気になっていた症状も、併せて話した。

私を真正面から見据えた精神科医は、私の訴えに驚くことも軽蔑の眼差しを浮かべることも否定することもなく、ただただ静かに話しを聞いてくれた。

「それはとても辛かったですね。」

精神科医のその一言で、私の冷え切った心が溶かされていくようだった。

診断は変わらずASD、不安障害だった。
それに強迫的な性質があると指摘を受けた。

その後は精神科での薬物療法とカウンセリングを続けつつ、10年以上通っていた今までの歯医者から離れ、別の歯医者へとかかりつけを変えた。

初診時の問診の際、思い切ってASDと不安障害があること、歯科治療への恐怖心が強く診察台に座ることも難しいことを伝えた。

その歯科医師は真正面から私の言葉を受け止めてくれて、私に寄り添った治療をすることを約束してくれた。

問診のみで終えた初診。
診察室を去り際、その歯科医師は私に言った。

「勇気を出して来てくれてありがとうね。」

その言葉に私は今までの苦しさが報われたように感じ、心がふわっと軽くなるのを感じた。

私はその言葉に小さくうなづき、その日から新たなデンタルライフが始まった。


それから1年が経った現在。
今も歯科治療は困難を要するが、診察台に座り口腔内の診察を受けられる程度にはなった。

心に寄り添った治療を受けられるようになったことから歯医者へ行く恐怖が小さくなり、過剰な歯磨きを辞めることができ、口腔内の状態は回復しつつある。

当然、思い詰める日々からも解放され、歯科治療や精神疾患の治療に前向きになり心も体もうんと軽くなった。

行動2つを起こしただけで、これほどまでに毎日が変わるとは思わなかった。
出会い1つ、治療1つで心と体はここまで健康になる。

これからもいい歯と明るい未来の為に、治療に向き合っていきたい。

よづき

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よづき|ASD不安障害の物書き
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