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【ショートショート】 幽霊になれなかった私
生きたいと消えたいがせめぎ合う、そんな日常。
孤独に苛まれ
不安に苛まれ
そして人の目に恐怖する。
消えたくもなるのだけれど、それでもやっぱり生きたい、生きていたいと思う。
消えたいと生きたいの狭間。
だから私は幽霊になった。
言葉を発さず、微動だにせず、人目につかないよう、気づかれないよう。
怒らせないよう、叩かれないよう、落胆させないよう、期待させないよう、縮こまって気配を消して、音を消して、姿を消して。
そして私は幽霊になった。
幽霊になれたんだ。
だってほら道ゆく人は誰も私のことを気に留めない。
泣いたってほら誰も私の涙になんて気づかない。
幽霊になったんだ。
あれだけ望んでいたのはずだったのにちっとも嬉しくなんてなかった。
ふよふよと彷徨う私はしきりに目元を擦った。
『消えたいって望んだのはあんたじゃないか。』
”誰か”の言霊が空気を揺らした。
私は堪えきれずに涙を溢す。
あ、幽霊になっても涙って出るんだ。
でも信じられないほど早くその涙は蒸発してぬけるような青空に吸い込まれていった。
『私、ずっとずっと寂しかった。誰かに見つけて欲しかった。私を見つけて、私を見て欲しかっただけなんだ。』
言霊として発した私の想いをソイツは嘲笑った。
ソイツに実体なんてなかったけれど、なぜかはっきりと嘲笑われていることが分かった。
そして一瞬、空気が静まり返る。
再び空気が揺れた時、ソイツは先ほどとは違う意味ありげな嘲笑を響かせた。
『だったら見つけてもらえよ。』
言霊は響かなかったけれどそう言われた気がした。
私は涙を拭きさって、夏風と共にサーっとその場を去る。
『こんにちは。』
道ゆく人に挨拶をした。
やっぱり気づかれない。
『いつもありがとう。』
宅急便のお兄さんに感謝を伝えた。
お兄さんはビクッとして辺りを見回す。
「ねえ、先生。体調悪いから薬を変えて欲しいんだ。」
病院の先生に初めて要望を伝えた。
「今でも充分強い薬出てますよ。」
お、返事が返ってきた。
でも先生はパソコンを見たまま、1度もこちらを見なかった。
ワタシヲミテ。
先生はぎょっとしたようにこちらを見た。
あと一息だ。
ワタシヲミツケテ。
「おはよう。今日も暑いね。」
私は学校で初めてクラスメートに話し掛けた。
その子はこちらを振り向くと「おはよう。」って言ってにっこりと微笑んでくれた。
やっと見つけてもらえたことが嬉しくて私はその子の腕を掴んだ。
掴めたんだ。
「え・・・? 」
その子は困惑しているような複雑な表情を浮かべ私を見上げる。
私を見つけてくれた。
その高揚感と感謝が思わず口から零れる。
「ありがとう。大好きだよ。」
私はその子の腕をきゅっと握った。
「っ・・・。やめてください。」
でもその手は振り払われてしまった。
「なんか怖いし、気持ち悪いです。」
その子は不快感をあらわにするとそそくさとその場を去ろうとする。
「待って。行かないで。」
私は追いかけたのだけれど、その子は悲鳴を上げながら全速力で逃げていった。
私は肩を落とし項垂れる。
だって幽霊なんだもん。
怖がられたって仕方がないよね。
そうやって言い訳してみる。
それから私はとぼとぼと歩いてうちに帰った。
重たい玄関ドアを開け「ただいま。」と言うと「おかえりー。」と家族の声がした。
私はとっちらかった自室でノートパソコンを立ち上げる。
キーボードを叩いて文字を入力する。
幽霊になれなかった私
狭く薄暗い自室にカタカタとキーボードを叩く小気味の良い音だけが響いていた。
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