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『語学の天才まで一億光年』: 高野秀行の語学青春記
図書館で高野さんネタで盛り上がっていたら、「ならまた一冊借りていこう」というノリになって借りた一冊。
高野秀行の最新作『語学の天才まで一億光年』は、単なる語学学習の指南書ではない。これは彼の冒険と青春の記録であり、語学を通じて世界を探検する物語だ。彼はこれまでに25以上の言語を学んできたが、その学習法は極めてユニークで実践的。
基礎情報
タイトル: 語学の天才まで一億光年
著者: 高野秀行
出版社: 集英社インターナショナル
出版年: 2022年
ページ数: 320ページ
ジャンル: ノンフィクション、語学、冒険
本の概要
著者の語学学習は、教室での勉強ではなく、現地での実地使用を通じて身につけたものだ。彼はネイティブに直接習うことや、自作のテキストを使うなど、独自の方法を駆使している。本書では、インドで英語を上達させた経験、フランス人女性からフランス語を学んだエピソード、コンゴでリンガラ語を話して現地の人々と親しくなった話など、驚きと笑いに満ちたエピソードが満載だ。
各章の紹介
第一章 語学ビッグバン前夜(インド篇)
インドでの冒険は、著者が探検部として最低レベルの活動とおぼしき「海外一人旅」を選択したことから始まる。ニュージーランドから来た女性バードさんと共に、カルカッタでマザー・テレサを訪ねることになるが、ジョンという男に騙され、パスポートと航空券を奪われる。この経験を通じて、英語の「正しさ」にこだわる必要がないこと、そしてトラブルが語学を鍛えてくれることを学ぶ。
第二章 怪獣探検と語学ビッグバン(アフリカ篇)
アフリカでは、フランス人のシルヴィからフランス語を学び、ザイール人のウィリーからリンガラ語を教わる。「それをやらないと目的が達せられない」という状況になると急に前のめりになる性格で、現地の人々と親しくなるための言語と、コミュニケーションをとるための言語の二刀流を駆使する。これが彼にとっての「語学ビッグバン」に繋がった。
第三章 ロマンス諸語との闘い(ヨーロッパ・南米篇)
スペイン人女性のパロマからスペイン語を学び、アマゾンではカメラマンの鈴木邦弘と共に探検を続けたエピソード。スペイン語を「言語界の平安京」と称し、その規則性に驚く。また、フランス語の権威であるA博士のコメントにより、フランス語熱が冷めて一時的に離れるが、必要性があれば何でもやるという姿勢を貫くのが著者らしい。
第四章 ゴールデントライアングルの多言語世界(東南アジア篇)
本章では、語学を最優先にすることの重要性を訴えている。語学のスタートダッシュが大切であり、海外旅行で語学を上達させたいなら、自分より少しでもできる人と一緒に行ってはいけないと強調する。また、先生や教科書が教えてくれた文法事項よりも、自分で発見したことは絶対に忘れないと述べる。
第五章 世界で最も不思議な「国」の言語(中国・ワ州篇)
ここでは暫定的に法則を見出し、時間をかけて少しずつ改良していく楽しさを語っている。語族や語派を知ることで、その言語を学ぶのにアプローチがしやすくなるとのこと。彼にとっては、ネイティヴの例文読誦を自分で反復練習することがベストの学習法のようだ。
エピローグ
ネット環境が普及した最近の学習法として、ネイティヴに例文を録音してもらい、それを毎日繰り返すことを続けているのは変わらないが、無理して覚えないようにしているらしい。現地へ行って「あらためて覚える」ことを重視している。また、言語には「情報を伝えるための言語」と「親しくなるための言語」の二つがあると述べ、翻訳や通訳はガラス越しでの会話のようなものだと感じている。
考察
著者の語学学習法は、非常に実践的であり、現地での体験を通じて言語を身につけるという点で独特だ。彼の方法は、語学を単なるコミュニケーションツールとしてではなく、現地の文化や人々と親密に関わるための手段として捉えている。これは、語学学習の新たな観点を提供しており、読者にとっても大いに刺激になるだろう。
また、彼の語学学習に対するアプローチは、現代の自動翻訳技術が進化する中で、依然として人間が言語を学ぶ意義を再確認させる。言語は単なる情報伝達の手段ではなく、人と人とを結びつける「親しくなるためのツール」であるという彼の見解は、ジャーナリストの本質に則している。
まとめ
『語学の天才まで一億光年』は、語学学習に興味がある人だけでなく、冒険心を持つすべての人におすすめの一冊だ。高野秀行のユニークな語学学習法と彼の冒険の数々を通じて、語学の楽しさと奥深さを再発見できるだろう。ぜひ手に取って、彼の語学青春記を体験してほしい。