第九とタワーマンションが教えてくれた幸せの形
年の瀬の午後、妻と二人で第九のコンサートに出かけました。
澄んだ冬の空気の中、静かな街並みを抜けて会場へ向かう道のり。
隣を歩く妻の嬉しそうな微笑みを見ていると、心の中がふんわりと温かくなりました。
ホールに入ると、そこにはいろんな人たちの「年末」がありました。
穏やかな雰囲気のシニア夫婦や、楽しげに弾む声を交わす若いカップルたち。
やがて響き始めた第九の調べ。
大太鼓の深く力強い音は胸の奥まで響き渡り、弦楽器の繊細で美しい旋律が心をゆさぶる。
そして、合唱。
コンサートが終わり、余韻を胸にホールを出ました。
https://youtu.be/NXEbLs00bT0?t=3427
その帰り道、ふと目に入ったのが、ホールの近くにそびえる立派なタワーマンション。
「あんな場所に住めたら、どんな気分だろう?」そんなことが頭をよぎります。
設備もいいだろうし、快適に過ごせそうだな。
帰宅して価格を調べてみると、1億円以上。現実とは少し離れた世界の話です。
でも、その時ふと考えました。
たとえこのマンションが手に入ったとして、私たちの幸せはどれくらい増えるのだろうか、と。
大切なのは、住む場所の豪華さではなく、その場所でどれだけ笑い合えるか。
どれだけ一緒に過ごす時間を愛おしいと思えるか。そんな思いました。
思い返せば、今日だってそうでした。
コンサート前に寄ったケーキ屋さんで甘いお菓子とお茶を楽しみ、
帰りにはパン屋さんで香ばしいパンを買って帰る。
そんな何気ない時間の中にこそ、私たちの幸せはあるのだと、胸の奥で確信しました。
それでも心が少しだけ締め付けられるような感覚がありました。
私には手が届かないマンション。非現実的な価格なので、気にすることでもないでしょう。
でも、村上春樹さんの『ノルウェイの森』を読んだ時に感じた、あの切なく胸の痛み。それと似ているような感覚でした。
でも、私にとって本当に大切なものをそっと教えてくれるようなものでした。
タワーマンションに住んでいなくても、目の前にいる妻とともに1日を大切に過ごし、笑顔を一緒に紡いでいく時間こそが、私たちにとっての本当の財産なのだと思います。
非現実的な夢に心を揺さぶられるのではなく、いまここにある現実の中で、
どうやってもっと素敵な時間を作っていけるか。
それを考えることこそが、本当の幸せに繋がる道だと改めて感じました。
帰り道、冷たい冬の風がの中でしたが、不思議と心は温かいままでした。
そんな穏やかな年の瀬の一日でした。