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戦火のアンジェリーク【創作長編】

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連載長編小説『戦火のアンジェリーク』一覧。 ヒューマンヒストリカルロマンス。R15描写あり マガジン画像はミカスケ様のフリーイラストをお借りし、色味加工させて頂いたものになります…
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#オリジナル小説

戦火のアンジェリーク(1) 1.Australia

戦火のアンジェリーク(1) 1.Australia


1.Australia序曲 ~ 望郷

 『故郷』と聞いて、人は、何を思い出すものなのでしょうか? 育った家、家族、土地、料理、子供の頃の自分……

 懐かしさと共に郷愁の思いを馳せ、『そろそろ帰りたいな』と、躊躇いなく願える場所。赴けば、いつでも温かく迎えてくれる場所。

 そんな存在がある人は、おそらく幸せなのだと思います。そういう意味なら、私も幸せなのでしょう。
 ただ、どれにも、誰かの面

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戦火のアンジェリーク(15)3.Wales ~ the UK

戦火のアンジェリーク(15)3.Wales ~ the UK


3.Wales ~ the UKAubade ~ 彼は誰故に

 様々な不安を抱えた、英国の短い夏が終わりを迎えた、1940年の9月某日。突如、ドイツ空軍による攻撃が、首都ロンドンの街を襲った。翌年の春まで続き、後に『ザ・ブリッツ』と歴史に語り継がれる事になる、ロンドン大空襲の始まりだった。

 アンジュ達の住むカーディフ近郊は、ロンドンからはかなり離れている。しかし、流れ弾や爆破に巻き込まれる

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戦火のアンジェリーク(14) 3.Wales ~ the UK

戦火のアンジェリーク(14) 3.Wales ~ the UK


3.Wales ~ the UK声を無くした天使

 大人に成り立ての一人の少女が生きてきた時間は、人間の一生から見たら、ほんの僅かだろう。が、今までに自身が見聞きしてきた現実から、人間の戦争というものの真理を、漠然とだがアンジュなりに察していた。

 人間が集まる所には、多かれ少なかれ、複数のカテゴリーや階層、理不尽に支配する者と服従する者が生まれる。倫理や制度も名ばかりで無意味……そんな世界

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戦火のアンジェリーク(13) 3.Wales ~ the UK

戦火のアンジェリーク(13) 3.Wales ~ the UK

3.Wales ~ the UK★始まりと予兆

 同日の夕刻。ジェラルドは、グレアムが常連客として通っているという、ジャズバーに来ていた。昼間はカフェとして営業しているが、夕刻から深夜にかけてはバーになる。雇われのブラスバンドによる演奏が流れる中で、飲酒や軽食を楽しむ店だ。そのピアノ演者担当の面接を受ける事になったのだ。
 この数日間、グレアムと相談した結果、教養はあっても、ここで生かせる仕事は

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戦火のアンジェリーク(12) 3.Wales ~ the UK

戦火のアンジェリーク(12) 3.Wales ~ the UK

3.Wales ~ the UK翡翠の目醒め

 一度、落ち着かせてほしい、とジェラルドが先に浴室を使い、続けてアンジュもシャワーを浴びた。温かな湯を全身に受けて、ようやく、心が落ち着きを取り戻す。
 体中が生き返ったが、彼に触れられた部分が、水圧を受ける度、一層熱く、甘くざわつく。自分の身体なのに、もう自分のものではないような気がした。何かが新しく刻まれたような、何かを遺されたような余韻が、纏う

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戦火のアンジェリーク(11) 3.Wales ~ the UK

戦火のアンジェリーク(11) 3.Wales ~ the UK

3.Wales ~ the UK間奏 ~ 救済

 闇から逃れるように辿り着いた場所は、青々とした草原と荒涼な大地、連なる山脈、石造りの街に守られていました。
 心地好い薫風が吹き抜け、草花の香りが漂い、牧羊の鳴き声が響く、のどかな風景。

 温かく素朴な料理、軽快なブラスバンド、飾り気なく豪快に笑い、陽気に歌う人達…… 皆さんは、ここは凡庸で娯楽も何もない、労働者ばかりの退屈な所だ、と言いました

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戦火のアンジェリーク(3) 1.Australia

戦火のアンジェリーク(3) 1.Australia

1.AustraliaGood, bye……

 翌日。アンジュは、フィリップと待ち合わせた、いつもの海辺に来ていた。しかし、いつまで経っても彼は現れない。後に来るはずのエレンも、一向に来る気配が無い。
 すっかり秋が深くなった海辺は、どこか寂しげに見える。ひんやりとした冷たい風が吹き抜け、鮮やかに紅く色づいた木の葉を舞い上がらせている。心細い気持ちを抱きしめ、アンジュは、時間が許す限り、ひたすら

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戦火のアンジェリーク(2) 1.Australia

戦火のアンジェリーク(2) 1.Australia

1.Australia産声

 突然の出会いから、早一ヶ月が経った。アンジュは毎日のように、フィリップ、エレンの二人と一緒に過ごしていた。会えるのは、休憩の僅かな時間の間だけだったが、今までずっと一人で過ごしてきた彼女にとっては、何よりも新鮮で、少し怖くて、貴重な時間だった。
 二人のサーフィンを見たり、アンジュの歌を披露したり、お弁当を持って海辺で一緒に食べながら、少しずつ、色んな話をする。
 

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