風とギター
夜中の電話で
長い長い愚痴を聞いたな
寝取られて悲嘆に暮れる話
少し前には俺が寝ている横で
いちゃついていたのにな
相槌を打つしかできなくても
お前が楽になるなら
話せばいいと
随分前の話だが
都会に向かう電車に飛び乗り
お前たちに手を振ったとき
俺は強がってたんだ
縮みあがった心臓を
悟られないように隠した
待っているのは希望と抑圧
そして快楽と孤独だった
靴を溶かした話はしたっけかな
笑っちまうけどあの頃は良かった
ぶつかる奴すべてに喧嘩を売り
街の奥では黒い棒で殴られたが
昼間は陽の光を浴びていた
酒の瓶で大道芸を見せて
子どもが笑うのが好きだった
わずかな平穏で十分だった
きっとすぐ次の相手が見つかるさ
俺にはお前の未来が見える
お前は家族に囲まれて笑い
俺のことは忘れてしまうだろう
その頃俺は海の上にいる
見回しても陸地は見えない
波もないのっぺりとした水面
俺はただ漂っている
俺は死んだと噂されるだろう
あの頃もそうだったよな
そのうち噂すらなくなる
たしかに俺は祭壇を蹴り飛ばし
聖人を前にして腰を振る男だ
だがまだ生きている
うまく消えることができない
俺はお前の愚痴を聞いたんだ
ああそうだそれはその通り
お前のことなんか気にしてなかった
自分の頭の蠅を追っていただけだ
それはそれはとても大変だったんだ
穴倉みたいな薄汚れた街の中で
護らなければならないものがあった
大切なものなんてひとつでいい
他に構っている暇なんてなかった
地獄の中で光を見たんだよ
確かなものをひとつだけ残して
俺は忘れ去られてしまうだろう
まるで最初からいなかったように
どんな物語もなかったかのように
墓石どころか塵すら残さず蒸発する
風と混ざり合って跡形もなくなる
黄泉から聞こえるギターの音色
それでいいんだそれでいい
Chan Chan
※多少の刺激を得ていることを除けば、この詩と動画の曲は関係はありません。
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