(前編)おすすめの一冊『成長を支援するということ ―深いつながりを築き、「ありたい姿」から変化を生むコーチングの原則』
こんにちは、紀藤です。毎週日曜日は、最近読んだ本からおすすめの本をご紹介させていただく「今週の一冊」のコーナーです。今週の一冊はコーチングに関わる書籍です。
先に感想をお伝えすると「この本に出会えてよかった・・・!」と心動かされた本でした。大学院関連の読書勉強会で、信頼する方が選書されているのを見てきっと良書なんだろうな、、、と思っていました。
そして、実際に読み進める中で、その期待をさらに越える形で衝撃を受けました。コーチングについて理論と事例を元にした、こんなに説得力を持ち、また勇気づけられる本があったのか・・・、と。
ということで、今日はこちらの本をご紹介いたします。
それでは、どうぞ。
本書の概要
まず、この著書の帯に書いてある一言をご紹介いたします。
さて、こうした「夢」の大切さは、新しいようでいて、以前から表現を変え、何度も言われていたことです(ありたい姿、ビジョンなどなど)。
しかし、その必要性については、なかなか科学的な根拠を示しきれない感もあったようにも思います。
本書では、このような「共に”夢”を見ることが、なぜ人の成長を支援することになるのか?」について、脳科学的に、また心理学や組織行動学の論文を引用しながら、科学的な根拠を示しながら説明をしていくのが特徴です。
以下、本書の目次をご紹介いたします。
「思いやりのコーチング」とは
まず、”共に夢を見るコーチング”を「思いやりのコーチング」と呼びました。思いやりのコーチングとは、”心からの気遣いを示し、相手を中心に考え、サポートや励ましを差し出し、相手が自分のビジョンや情熱の対象を自覚、追求できるようにするコーチング”(P24)、と説明されます。
それは「誘導型のコーチング」(外から規定された目的を果たすための行動を促すコーチング)と違うものです。(組織におけるコーチング等の依頼では、「リーダーシップの強化のために管理職にコーチングしてほしい」という要望のもとに成り立つコーチングも少なくありません。これは誘導型のコーチングになりやすいのかもしれません。個人的意見ですが)
「意図的変革理論」とは何か
さて、こうした「自分自身のありたい姿」をモチベーションの源とした、「思いやりのコーチング」を行うと、持続する行動変容が起こると述べます。それを「意図的変革理論」というモデルを用いて説明しています。
人の「行動変容」とは、それは直線的に起こるわけではありません。いくつもの波(たまに起こる爆発のような動き=「ディスカバリー(発見)」と呼ぶ)を経ながら成長していくのです。具体的には、5つのディスカバリーが挙げられており、これが円環を描くものが「意図的変革理論(Intentional Change Therory)」と呼びました。
5つのディスカバリーとは「1,理想の自分・パーソナルビジョン」「2、現実の自分」「3,学習アジェンダ」「4、新しい行動の実験と実践」が円環になっており、その中心に「5,共鳴する関係と社会的アイデンティティ」が位置されます。
まず、「1,理想の自分」では、「どういう人間に自分はなりたいのか?」「どういう人間に自分はなりたいのか?」に答えを出すことです。そしてコーチはこのことに対して、希望や楽観を持てるように励まします。
「2,現実の自分」では、その人の強みや弱みを評価するだけではなく「ありたい自分像」と比較し、現在の自分の全体像を見極める手助けをすることをコーチは支援します。(すでに実現していることを評価うする、自己視点だけでなく他者視点も気づかせるなど)
「3,学習アジェンダ」では、現実と理想のギャップを埋めるために、評価した自分の強みを活用できるように促す、対象者が「何をするときに一番高揚するか」を考えつつ、「今までと違う何か」をするための行動アジェンダを考えます。
「4,新しい行動の実験と実践」では、意図した結果につながらなくても、コーチは新しい行動の実験を続けるように奨励します。なぜなら、望ましい突破口が開けるためには「対象者が実験を続ける必要があるから」です。方法が見つかったら、実践に移すよう、コーチは手助けをします。
最後に「5,共鳴する関係と社会的アイデンティティ」では、コーチは対象者に信頼できて、支えとなってくれる人々のネットワークから助力を得ることを支援します。孤立した状態では行動の変化は難しいことを伝え、その必要性を対象者が認識するよう、支援します。
これだけでも非常に骨太ですが、著書のごくごく一部であることに驚きます。なんて読み応えがある本なんだ・・・。
「理想の自分」の構成要素
さて、ディスカバリー1「理想の自分」について、個人的に興味深かったお話があります。それが「理想の自分の構成要素」として説明されているモデルが示されていたこと。
「理想の自分」がどうやって出来上がるのかを考えるときに、「なるほど!」と感じる内容で納得感が高いものでした。以下、補足を含めて記述させていただきます。
キーワードは「PEA」
さて、先程ご紹介した「意図的変革理論(ICT)」の間に「PEA>NEA」という表記があります。思いやりのコーチングにおいて、この「PEA」というのが重要キーワードとなっています。
PEAとは「Positive Emotinal Attracotor(=ポジティブな感情を誘引する因子)」のことです。持続する成長のためにはこのPEAが重要と述べ、逆に、外部からの命令が引き金となる「NEA(Negative Emotinal Attracotor)」は妨げになると述べます。
(ちなみに具体的には、持続的な変化のためには、PEAの影響下にある時間・頻度を、NEAの2~5倍にする必要がある、という研究も紹介しています)
このPEAを呼び起こすためには、例えば、以下のような「パーソナルビジョンを呼び起こす質問」をコーチがすることも効果的だと述べられます。
その他にも、「思いやりを示す」「感情の伝染(周囲の人々のポジティブな感情が映るように場をつくる)」「マインドフルネス(目の前のことに意識を集中する)」「遊び心を持つ(喜び、笑いを刺激する)」「自然の中を歩く」「コーチングにおける共鳴する関係を築く」等が、副交感神経を刺激し、PEAを呼び起こすことになる、と述べています。
「死ぬまでにやっておきたいことのリスト(バケツリスト)」なども効果的だそうです。
最後に:私の心が震えた理由
本書のまとめをしていて、まだ前半の一部しか触れていいないのに、4000文字を超えていて驚愕しております(また来週も「後半」としてご紹介させてください)。
さて、この本を読む中で、私の心が震えた理由は「パーソナルビジョンがいかに重要なのか」が腹落ちしたことでした。
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個人的な話で、やや余談となりますが、私も研修をよくやる中で、その締めくくりとして「1年後のありたい姿を描きましょう」というようなワークを行うことがあります。
これが無駄だとは思いません。「1年後どんな状態になりたいか。そのためにいつ・何を行うのか」。繰り返しになりますが、そのようなありたい姿&アクションプランを描くことは、行動を促す上で役に立つものです。
しかしながら、もう一方ではこうも思うのです。
「その人自身が、”人生における”自分のありたい姿”を描けなければ、自分から動くことは難しいだろう」とも。
仕事は、その人の人生全体のごく一部でしかない。それが、より豊かで素晴らしいと感じられるものの”部分”が仕事です。全体を考えた上で、「仕事はこのようにありたい」という目標が統合されてこそ、その人にとって、内側からわき起こる変化を促すのだろう、とも感じていました。
こうしたワークに近いものは、前職の『7つの習慣』の「第2の習慣 終わりを思い描くことから始める」の習慣の、個人のミッションを考えるというものが比較的近いものでした。「個人のミッション・ステートメント」を考えて、そして仕事の目標に紐づける、というものです。
しかしながら、このワークは、こういう感想も多く見られました。
「抽象的で、よくわからない。考えたことないし」
「夢とかビジョンとか、仕事に何の役に立つの?」
「あなたはそういうもの(ビジョンや夢)が好きかもしれないけれど、私は苦手なんだよね」
・・・と。
重要だと確信している。でもその根拠を示すことが難しい。そんなことを私は、研修等で「ありたい姿を描く」ようなワークを際に、毎度の事考えていました。
その中で本書は、「共に夢を描くことが成長を支援する」ことの重要性を述べます。「共鳴する関係を築き、本人だけでは難しいパーソナルビジョンを見つける。その支援こそ、その人の成長を支援する」と科学と事例で、堅牢な主張を述べてくれます。
そのメッセージに、これまで感じていてモヤモヤと、自分がコーチングや研修などで、これからどう貢献できるのかが、繋がったように思ったのでした。
このコーチングに則った支援を、自分もしたいと思いましたし、そうありたいと改めて感じました。改めて、こうした知見を世に届けていただいた皆さまに感謝したいと思った次第です。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!