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フラッシュバックあれこれ | 京都・四条の心理カウンセリング カウンセリングオフィスSHIPS 認知行動療法・ブリーフセラピー

 こんにちは。カウンセリングオフィスSHIPS代表です。京都 四条烏丸でカウンセリングルームをしています。オンラインカウンセリングもしていますので、全国からアクセス可能です。
 当オフィスは、ブリーフセラピー、認知行動療法を中心にしたアプローチで、プラグマティック(実用主義的な)支援を掲げてカウンセリングをおこなっています。

 さて、前回の記事から相当な時間が経ってしまいました。ちょっと大事な学会でタイカイチョーという役割をあてがわれて、少々ナーバスになっておりました。本当に周りの実行委員のメンバーに恵まれて、助けてもらっていましたので、自分自身はほとんどなにもしていないのですが、無事閉会しましたので、またぼちぼち呟いていきたいと思います。

 さて今回は、最近ちょっと説明したりお話ししたりする機会が多かったので、フラッシュバックについて書いてみます。
 できるだけわかりやすい言葉で、一般向けに書いていきますね。

はじめにー重要なお断り

 今回も無用な誤解を招かないように、読んでいただく前のお断りからはじめます。

 まず、以前も書きましたが、こころの悩みや問題というのは、本来個別性が高い(ひとりひとり違う)ものです。ですから、〇〇という病気/症状には△△するとよい、というような過度に、また安易に一般化できる対処法があるわけでありません。(もし単一の方法だけを主張して、良くなります!と謳っている治療者/支援者がいたら、ちょっと、うーん怪しいので、、まあドンピシャでハマる人もいるかもしれないので断定はしませんが、慎重にお付き合いされるとよいと思います。)
 この記事では、これまでの臨床の中で、また知見の中で、概ね共通しているなと思うこと、基本として大切だなと思うことを書きますが、どんなふうに書こうともそこに当てはまらない例外的なケースは必ず存在します。

 「いやあ私には当てはまらないけどな」「ちょっと私の感覚と違うな」と思われた方がおられたとしても、それは全然おかしなことではありません。 
 今回の記事に当てはまらない方、そういうケースを否定したり無視したりという意図はありませんので、その点はわかっていただけると嬉しいです。

フラッシュバックってなんですか?

 フラッシュバックとは、過去に体験した嫌な記憶が思い出され、あたかも今起きている現実かのような生々しい記憶に圧倒されて、そのときの恐怖や苦痛がよみがえってくる体験です。

 多くの場合、それらはトラウマ体験の再体験であり、今の自分の生活リズムとは関係なく、急に勝手に呼び起こされて、そのまま頭のへばりついて離れないために、苦しい体験になってしまいます。夢の中で起きるとそれは悪夢として体験されます。

 このフラッシュバックという現象は、PTSDで生じる症状のひとつでもあり、診断基準のうちのひとつでもあるんですが、なにもPTSD特有の症状というわけではありません。とても広い意味で捉えると、たとえば過去の青春時代の黒歴史が急に思い出されてワーってなっちゃうような経験も、「病的ではないごく健全な」フラッシュバック症状といえるでしょう。

 一方、PTSDで生じるようなフラッシュバック体験は、本当に生きた心地がしないような、身も心もその記憶に圧倒されてしまってもおかしくないような強さでやってきます。

 とはいえ、どのようなフラッシュバックにも共通する点として、まず知っておいてほしいことは、これは脳の自己防衛としての正常な反応であるということです。なにか危険なことが起きたとき、まるで防犯カメラに記録された映像を何度もチェックするように、危険から身を守るために、そしてこれからの自分を守るために、脳がなんども自動再生しているような状態です。それは危険という異常な事態に対する心と脳の正常な反応であり、自己治療的側面があるものです。決して、フラッシュバックを体験しているその人が弱いとか、我慢が足りないだとか、いつまでも気にしている性格だからだとか、そういうことではありません。

 とはいえ、ずっとそのままだとしんどいですよね。
 そこで、今日はすぐにできる、その場のフラッシュバックへの対処法について簡単に解説したいと思います。
 カウンセリング場面でクライエントさんにもお伝えしている内容です。

 ちなみに、トラウマケアにおける現状の第一選択(推奨されるスタンダードな心理療法)は、トラウマ焦点化認知行動療法、PE療法(曝露療法のひとつ)といったものです。そのほかEMDRなどもあります。強い解離症状を伴う場合には、他の方法も組み合わせていきますが、今日のお話は、そういう全体的なアプローチのなかのごく一部、フラッシュバックに関することだけだということを付記しておきたいと思います。

フラッシュバックへの対処の前提と原則

フラッシュバックへの対処が上手になることの重要性

 さて、このフラッシュバックへの対応が上手にできること、フラッシュバックに圧倒されずに過ごせるようになることは、トラウマケアの場合には、その最初のステップとしても重要です。

 トラウマ症状、解離症状に対するケアのわりとスタンダードな考え方として、段階的治療論というものがあります。
 ちなみに段階的治療論の始祖はPierre Janet(ピエール ジャネ)らしいですが、ほかにもさまざまな研究者や臨床家が提唱していて、一例としてVan der Hart(ヴァン デア ハート)のステップを紹介します。

Van der Hartの構造的解離理論の段階的治療法
第1段階:安全性の確立、安定化および症状の軽減
第2段階:外傷記憶の治療
第3段階:人格の再統合と回復

このなかで、フラッシュバックに圧倒されずに過ごせるようになることは、ステップ1の安定化の段階に欠かせません。「今」は「過去」とは異なり、ちゃんと安全(今この瞬間、危険じゃないこと)であることを脳に教えてあげることが大切です。

フラッシュバックに対処するってどういうこと?

 フラッシュバック(嫌な記憶)に対処するといっても、まず記憶を消せるわけではありませんし、起きた出来事を変えることもできません。フラッシュバックに対処する、あるいはトラウマをケアするというのは、フラッシュバックをもたらす過去の記憶からの影響、「今」の自分への影響をできるだけ小さくすることです。完全にゼロにするとか、まったく思い出さなくなるとか、そういうことではありません。
 ただ、本来、記憶というものは、思い出したとしても、昔の記憶になればなるほど、「今」から遠ざかるほど、その記憶の鮮明さや生々しさは色あせていくものです。(なんですが、そのままにしていてもなかなか色褪せていってくれないのがトラウマ記憶の特徴ですので、精神/心理業界あげて日々あれこれ試行錯誤しています)。
「過去に辛いことがあった」ということイコール「今も辛さを持ち続けないといけない」ということではありません。過去の傷はあるけれど、今の自分はそれに圧倒されず、今の自分として生活できる、そういうところを目指していきます。

今に意識を向け、今にとどまる

 フラッシュバックへの対処法の大原則は、一言でいえば「今に意識を向け、今にとどまる」ということです。
 フラッシュバックは、過去の記憶がよみがえってくるということですが、どちらかといえば「過去に引きずり込まれるような体験」として表現したほうがいいかもしれません。タイムスリップしてしまうかのような。
 過去の記憶が迫ってきたときに、それに応じるように意識を向けるのは、解決努力ともいえます。「今にとどまる」というと、なんだか「過去の記憶」「過去の自分」を見捨ててしまうような、そんな風に思う人もいるかもしれません。
 でも、「今にとどまる」というのは、「過去を見捨てる」ということではありません。ちょっと考えてみてほしいのですが、転んで怪我をしている人が近くにいるとして、その人のそばにいって労わったり手当てをしたりすることは大切なことですが、その人の隣に駆け寄って、その目の前で自分が転んでみせて自分も同じように怪我をしたとしても、相手の傷が癒えるわけではありませんよね。
 ここでいう相手というのを、「トラウマ体験をした過去の自分」と置きかえてみましょう。
 「今の自分」が、過去に引きずり込まれて、「過去の自分」と同じような苦しみや痛みを味わうというのは、怪我をしている人(過去の自分)のそばにいって、「今の自分」も同じ怪我を負って一緒に苦しむようなものです。「今の自分」が怪我をしても、「過去の自分」の怪我は癒えません。

 だから、「今の自分」は「今」にとどまって、「今」という地点から、「過去の自分」をねぎらい、いたわることが大切なのです。

ブリーフセラピーからみた「今にとどまる」ことの意味

 フラッシュバックがしんどいという状況を、ブリーフセラピーの文脈(フラッシュバックと自分との相互作用という観点)で言えば、フラッシュバックの訴えるがままに付き合えば付き合うほど、フラッシュバックがより一層自分にしがみついてくる悪循環というような感じです。

 「フラッシュバック」を、「自分に悩みを相談してきている人|フラッシュバックさん」だとしてみましょう。困りごとがある人が、時間や場所を問わず、「ねえねえ、話を聞いてよー」「こんなことがあって、すごくしんどくてー」と言って、いつもいつも一方的に悩み事を話し始めるとしたらどうでしょう。そのまま聞き続けても、きっとその人の話がとまることはありませんし、「もっと聞いて」「もっと聞いて」となってもおかしくないですよね。ですから「あとで話を聞くから、ちょっと待ってね」とか「〇〇なら話を聞けるよ」とか言って、いったんその場での悩み相談をストップして、話を聞く時間を再設定するわけですよね。

 フラッシュバックへの対処として、「今にとどまる」というのは、このフラッシュバックさんが一方的にしゃべりだすのを一旦とめる、という部分であり、そういう悪循環をとめるという意味があります。そのあとの話を聴くというプロセスは別に必要ですね。フラッシュバックさんの話を聴いてあげないということではありません、つまり見捨てるというわけではないわけです。

 フラッシュバックさんが向こうからやってきたタイミングで聴くことと、こちらが指定した安全な空間や場所、時間で、自分のペースでその人の話を聴いてあげるのは、その文脈の意味、効果は全然ちがうものになります。このフラッシュバックさんの話を聴いてあげるというプロセスは、トラウマ処理のプロセスの一部と同義であり、これはひとりでやるというよりは、カウンセリングの中でやっていくものです。

 ひとまず今回は、フラッシュバックに巻き込まれないように、過去に引きずり込まれないように、一旦「今にとどまる」ということについて学んでいきましょう。

「今」にとどまる方法を見つけよう

 今にとどまる方法を見つけることは、フラッシュバックへの対処でとても重要です。どのような感覚に目を向けるのが、自分にフィットするかは人それぞれですから、自分にフィットする方法を探してみましょう。
 きっとまったくフィットしない方法はないと思いますから、順位付けをしてみて、順位の低いものも、一応自分の引き出しのなかにもっておきましょう。今、ピンとこなくても、もしかすると、次はそっちの対処法のほうが役立つかもしれません。あとでも書きますが、ひとつの必殺技をもつより小さなたくさん小技を持っておくほうが大切です。

1.非言語アプローチ ー 身体感覚や外部の情報に目を向けて「今」を感じる

 「今」というこの瞬間に目を向けるためには、「今」でしか感じられないもの、「今」まさに感じている身体感覚(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚/肌感覚)に目を向けることが役立ちます。

視覚

 フラッシュバックのときには、そこから目を背けるかのように目を閉じてしまいやすいですが、目を閉じると意識が身体の内側内側へと向きやすくなります(自分の内側の内臓感覚に意識を向けようと思うと自然と目を閉じる人は多いと思います。そういうことです。)。それよりも、目を開けて、あたりを見回して意識を自分の外側に向けてみましょう。目に入ってくる部屋の様子、目の前の人、景色をみて、当時自分が危険だった環境と、今は全然ちがうということを確認できると、今にとどまりやすくなります。
自分の体も観察したり触ってみたりして、体がどこも怪我をしていないこと、安全であることを確認しましょう。

聴覚

 周囲の音に耳を澄ませてみましょう。耳を澄ませると、自然と「今」聞こえてくる音を探すようになります。それは意識が自分の外側を向き、かつ「今」に向いているということです。人の話し声、車の音、空調の音、その他の生活音など、意外にも色々な音が鳴っていることに気づくかもしれません。
 自分で音を立ててみたり、声を出してみたりしてもいいでしょう。

嗅覚

 気に入っているフレグランスの匂いや、食べ物や飲み物の匂いを味わうように嗅いでみるのもいいでしょう。いずれも、「今」自分が感じている匂いなのだということを意識して。

味覚

 食べ物や飲み物を少し口に含み、その味(甘味、塩味、酸味、苦味など)を感じてみるのもよいでしょう。

触覚/肌感覚

 今自分が感じている触覚、肌の感覚に目を向けるのもよいでしょう。
 座っているなら、背中やお尻に椅子が触れている感覚、体重が乗っている感覚に気づくかもしれません。空気の冷たさや、温かさ、衣服をまとっている感覚に気づくかもしれません。
 目の前の机や壁を触ってみましょう。触ったときのひんやりした感覚、ザラザラ/ツルツルとした感覚、それらに気づくかもしれません。いずれも、「今」あなた自身が感じている感覚です。
 足をしっかりと踏みしめ、大地の上に立っている感覚、体重がかかっている感覚に気づき、味わうのをグラウンディングテクニックと呼ぶことがあります。

2.言語アプローチ ー 言葉を発して「今」にとどまる

 周りを見回して実況中継するように目にとまったものを言葉にしていきましょう。目に入ってくるものの、ものの名前や形、色などを声に出していきましょう。「いまは〇年〇月〇日、〇曜日。今の私は〇歳。今、自分の部屋にいて、観察しています。〇〇がいま、みえる。△△な色をしています・・・」といった具合に、「今」の情報を言葉に出していきます。

 ほかにも、言葉をつかって、今の感覚はフラッシュバックであり、過去の脅威そのものではない、過去に戻ったわけではないということを脳に伝えてあげましょう。
 たとえば、「これは昔の記憶で今の現実ではない」「今は安全」「今おきているのはフラッシュバックで、今そのものではない」といった現実に焦点を当てるような言葉を出して、自分に聞かせてあげると役立つことがあります。

 それから、「現在形」と「過去形」をはっきりと使い分けましょう。
 過去の記憶から呼び起こされる体験やイメージについては「過去形」で。今感じている体験やイメージについては「現在形」でいいましょう。
 「〇〇が△△といっている」ではなく、「あのとき、〇〇が△△といった。」といった具合に。

フラッシュバック対処法のコツ

1.小さな効果を大切にしましょう

 大きな効果を期待しても、すっきりと症状がなくなることは少ないかもしれません。でもちょっと痛みが和らぐだけでも、なにもないよりは、だいぶホッとすることができます。少しだけマシになったなとか、ちょっとだけ痛みが和らいだとか、小さな変化に目を向けていきましょう。

2.ひとつの必殺技より、いくつかの小技をもちましょう

 どのような対処法がその人にフィットするかは人によってさまざまです。同じ人でも、ある対処法がフィットする時もあれば、そうでない時もあります。これさえやれば大丈夫という絶対的な対処法があるわけではありませんし、そういう絶対的な対処法を見つけるのがいいというわけでもありません。ひとつしかないと、その対処に効き目がないとき、その対処がつかえないとき、行き詰ってしまいますよね。一つの必殺技よりも多くの小技をもてるようにしましょう。

3.うまくいったならなんどもやりましょう

 少しでも自分にフィットしているかなと思う対処法があれば、なんどもそれらを試していきましょう。新しい対処を習得するには練習が必要です。意識しなくてもできるようになるまで、何度も繰り返し、少しずつ試していきましょう。

4.過去の自分をいたわる気持ちでいましょう

 上のほうにも書きましたが、「今」にとどまることは、決して過去の自分を見捨てる、過去の自分を見てあげない、ということではありません。でも、大けがをしている人(過去の自分)を前にしたとき、手当てする側(今の自分)がその怪我に圧倒されて、足がすくんでいては、できる手当てもできませんよね。怪我をしている過去の自分に対して、圧倒されない距離感で、落ち着いて少しでも穏やかにかかわれるようになるためにも、フラッシュバックに対処できるようになるといいですね。そのとき、「過去の自分」を責めてもしょうがないし、励ますよりは、「よくがんばったね」「あなたのおかげで今の私は今ここにいるよ」とねぎらいと感謝の気持ちで言葉をかけてあげることを意識してみましょう。


 ま、長くなってきたので、ひとまずこんな感じです。最後までお読みいただいた方、本当にありがとうございました。ちょっとでもヒントになることがあったならうれしいです。

 今、一緒に取り組んでいる方、これからも少しずつやっていきましょう。

 はじめましてのかた。もし、こころと人間関係の問題で、悩んでいることや、抱えている気持ちを誰にも話せずにいたら、あるいは誰か身近な人に話したけど、どうしていいかわからないなっていうときは、一人で抱えずカウンセリングを行ってみることも検討してみてください。
 悩みに大きいも小さいもありません。こんなことで相談していいのかな?と思うようなことだったとしても、気にしなくて大丈夫です。というか、こんなことで相談していいのかな?と感じながら来られる方にかぎって、お話をうかがうと、「こんなこと」どころか「よく今までひとりで抱えてきましたねー」って思う問題であることが多いです。
 まずひとりで悩んで、つぎに身近な人と悩んでみて、それでもどうにもならないようなら心の専門家の出番です。では。

カウンセリングオフィスSHIPSの詳細はこちらです。公式ホームページです。

https://counselingships.com/

カウンセリングオフィスSHIPSでは、ブリーフセラピーや認知行動療法に基づくカウンセリングをメインに実践しています。

 最後の最後に、文献っていうよりも、トラウマケアの文脈において、貴重で重要な学びの機会と臨床の機会を支えていただいている先生方にお礼を申し上げたいと思います。
 もうかれこれ13-4年前、トラウマ概念と支援アプローチについての今でも色褪せぬ指針を示していただいた佐藤克彦先生(精神科医)、USPTを通じて今に活きる重要な治療論と解離支援への臨床知を与えてくださった新谷宏伸先生(精神科医)、治療方法論のみならず支援姿勢としてのアイデア/引き出しを増やしてくださったホログラフィトークの嶺輝子先生(心理臨床家)、柔軟でフットワークの軽い支援体制で医療的支援をバックアップしていただいている瀬尾崇先生(精神科医)、さいごに、的確かつ明確な治療指針を示していただき心強い協働体制で臨床を支えていただいている稲垣貴彦先生(精神科医)に、あらためて感謝と尊敬と敬愛とともにお礼を申し上げます。
 ほかにも本当に多くの治療者/支援者のネットワークに支えられて臨床ができています。感謝しております。日々、精進します。

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