スープは音を立てて吸うべし

静まり返った高級レストランのど真ん中で、
突如怪音を発して、
ズズズーっとスープをすすることは
社会的勇気であります。
お上品とは最大多数の決めることで、
千万人といえども我ゆかんという人は、
たいてい下品にみられる。
社会的羊ではない第一の証明が、
このスープをすする怪音であります。
ー 三島由紀夫『不道徳教育講座』

これは、私の尊敬する
三島由紀夫大先生のお言葉である。
私のような世間知らずの若造にとって
先生が教えてくれる「不道徳」は
誠に甘美で魅惑的なのである。

ごく普通の中流階級の家庭で育った私だが
最低限のマナーや礼儀は教わってきた。
それは作法にとどまらず、
適度なコミニュケーションの取り方や
なんとなく流れる空気の読み方、
それらを自然と身につけて大人になった。
我ながら、お行儀は良い方だと思っている。

そうして培った、無難さや協調性は
教室の中では重宝されてきた。
真面目でお利口さんと褒められてきた。
しかしどうやら社会の中ではそうもいかないらしく
私は日々戸惑っている。

空気を読みすぎるせいで、
お客さんのペースに飲まれてしまい
ビジネスチャンスを逃したり。
奇をてらった策もなく
ただただ無難な意見しか持たないまま
会議で自分の存在意義を見失ったり。

オフィスのど真ん中で
自分の声を上げられない私は
結局社会の羊であって、
めきめき上に登っていく狼は
突拍子もない発言や斬新なアイデアを持って
どんどん周囲を巻き込んでいく。

仕組みの中に収まることに安心する私は
仕組みに飲まれて思考を停止しまっている。

三島先生、スープを静かに飲む作法は
もうたくさん教わりました。
誰もが振り向く大きな音でスープを飲む無作法は
どこで誰に教われば良いですか?

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