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【連載小説】「くじらは神話を運んでくる(仮)」 | 第2話

「王子、お止め下さい」
甲冑を身につけたガタイの良い兵士が二人ががりで潜水服を着た少年を取り押さえている。
だが、少年は物ともせず、二人の兵士をズルズルと引き摺りながら、鉄製の巨大な扉に向かっている。
「えい、出国の邪魔をするな、お前ら」
「潜水服だけで深海に出たら、一時間もせず、水圧で潰されます」
「水圧なんかに潰されるような鍛え方などしとおらん」
「無茶ですって。それにもし水圧をクリアしてもその前にエグレゴアが立ちはばかります」
「彼奴は今度こそ倒してやる」
「なりません、守り神を倒してはなりませんて」
「えーい、うるさいお前ら」
少年は兵士二人に掴まれた手を振りお落とし、扉へ向かう。
兵士達は振りほどかれた拍子に尻餅を付き、そして少年に向かって悲痛な叫びをする。
「帰ってください、ロプト王子」
ロプトは制止を振り切って、扉の前に立つ。
「扉を開け」
そう言うと、扉の装置が反応し、扉が重々しく開き出す。
扉は牛よりか早いが牛歩のように徐々に開き、ロプトは開く遅さに苛立ち扉を蹴る。
ロプトの思いも虚しく扉を蹴っても早くなる訳ではなく、ゆっくりと開いていく。
ようやく扉が開ききり、透明な膜を通して漆黒の海が眼前に広がる。
扉の先に透明な膜が張ってある。
膜の先には海があり、その膜はパラディソス側に海水が流れ込んで来ないように弁のような役割を果たしている。
「相変わらず開くまでが長い。父上の長い説教が短く感じるわ」
愚痴愚痴と言いながら、ロプトは膜を通り抜け、海に身を沈める。
海の底に降り立ち、ロプトは見上げる。
漆黒の海の中で光り輝く海月達が上へ行く道標のように左右並列して伸びている。
「ふん、なんとかの童話で子供が道に迷わないように落としていったものがあったが、先祖がそれを真似して、海月を落としていったのか。これを辿れば地上に行けるはずだが、途中で途切れていないだろうな?童話では誰かに食べられるはずだが」
軽口を叩きながら、ロプトは海月達の道を頼りに上へ泳ぎ出す。

<続く>

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