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社会の刷り込みと私たちの能力


こんにちは! 

こしあんです。

あなたの周りには「○○はこうあるべきだ!」とか「○○はこうしなければならない!」といった固定観念や暗黙の了解がありませんか。

このような考え方は人が素早く物事を判断する上で大切なことではありますが、この考え方に柔軟性がなければ偏見や差別につながってしまいます。

そして、私たちはこのような「社会の刷り込み」の影響を大きく受けながら生活しています。

たとえば、「新人は始業30分前には出社して仕事の準備をしなければならない」とか「男の子は外で活発に遊ばなければならない」といった、その人たちにとっての「常識」の中にいつのまにかあなたは放り込まれているのかもしれません。

このような社会の刷り込みに何の疑問も持たない人もいれば、その「常識」に苦しめられている人たちもいます。

今回は、「常識」と信じて疑わないステレオタイプと呼ばれる社会の刷り込みについてのお話です。


【ステレオタイプって何?】

「ステレオタイプ」と言われても、聞いたことがない人は何のことを指しているかわかりませんよね。

私も最初は「心理学の話になんで音響のステレオの話がでてくるの?」と疑問に思ったことがあります(笑)

このステレオタイプとは、合理的な根拠なしに、ある特定の集団やその集団に属する人を行動、思考、性格などから過度に単純化・画一化した信念の事を言います。

「日本人は」とか「アメリカ人は」といった言葉で一括りにしてその人を見る感じです。

このステレオタイプには、ポジティブな面とネガティブな面があり、ネガティブなものは「偏見」と呼ばれ、偏見はそのイメージに対する否定的な評価や感情で形成され、「差別」はそのイメージに対して否定的な行動を取った結果と言えます。

もっと簡単に言えば、ステレオタイプは認知、偏見は感情、差別は行動だと言えるかもしれません。

しかし、人はなぜ合理的な根拠もなしにこのステレオタイプは形成してしまうのか?

その要因の一つに私たちのアイデンティティが深く関係しています。

たとえば、あなたが自分の事を他の人に説明するとき、どのようなことを伝えるでしょうか。

自分の年齢や性別、人種、住んでいる場所、性格、考え方などいろいろあると思います。

年齢なら「高齢である」とか、人種なら「日本人」だからといったものがあなたのアイデンティティになるわけです。

みなさんもこのアイデンティティに沿って行動しています。

男性なら男子トイレに入るし、女性なら女子トイレに入りますよね。

自分の性別に結び付いている制約に基づいて行動しているわけです。

このようなアイデンティティと結びついた制約はアイデンティティ不随条件と呼ばれています。

この不随条件は、ある状況下で特定の社会的アイデンティティを持つがゆえに対処しなければならない物事のことをいいます。

先ほどのトイレの例のように、アイデンティティ不随条件は特定のアイデンティティを持つ人の行動を物理的に制限する場合もあれば、目に見えない脅威を感じさせることで行動を制約する場合もあります。

この目に見えない脅威で行動を制限するものを「ステレオタイプの脅威」と呼んでいます。



【ステレオタイプの影響】

この社会の刷り込みであるステレオタイプは、生活する上で重要な役割を果たしてはいますが、特にネガティブなステレオタイプは私たちの能力を奪ってしまいます。

プリンストン大学のジェフ・ストーン教授は、ステレオタイプを調査するためある実験をしました。

参加者に10ホールのミニチュアゴルフをプレイしてもらいます。

その際、白人にはこれは「生まれつきの運動神経」を測定するミシガン運動適正検査の一環だと説明します。

この「運動神経を測定する」という言葉がプレーにどういった影響を与えるのかを調べたものです。

プレーの結果は、「運動神経を測定する」と言われた白人学生は、そう言われなかった白人学生よりもずっとスコアが悪く、最終的には平均で3打差付いたそうです。

しかし、なぜ運動神経を測定すると言われただけでスコアが落ちてしまったのか?

日本人はあまり気にしないかもしれませんが、白人は少なくとも黒人と比べて運動神経が鈍いというステレオタイプを持っていることがあり、それが影響を与えたと考えることができます。

みなさんも陸上競技などで有名な選手を思い出そうとする時、黒人の選手が多いのではないでしょうか。

だからといって黒人全員が足が速いわけではないのですが、このような世間の評価やイメージというものはいたるところにあります。

でも、世間のイメージや思い込みで本当に能力に差が出るのか?
という疑問もありますよね。

そこで、先ほどのゴルフの実験をまったく同じ手順で黒人学生にも行ないました。

結果は、運動神経を測定すると告げられた学生も、告げられなかった学生もゴルフの成績に違いはなかったそうです。

ストーン教授は、特定の集団に関するステレオタイプが具体的な行動に影響を与えるなら、黒人学生がパットゴルフ中に影響を受けるステレオタイプの脅威もあるはずだと考え、黒人に関するネガティブなステレオタイプを思い起こさせることをプレイ前に告げるという実験をしました。

ストーン教授は新たに白人学生と黒人学生を集め、ゴルフをしてもらう直前に「スポーツ・インテリジェンス」を測定する実験だと告げます。

ここで黒人学生たちは、「黒人はさほど知的ではない」という昔ながらのネガティブなステレオタイプを当てはめられてしまうのではないかというプレッシャーにさらされます。

一方で、白人学生たちはそのようなステレオタイプは持っていないので影響は出ないと考えました。

結果は、ストーン教授の予測通り、今度は黒人学生がステレオタイプの脅威に苦しみ、打数が上がりましたが白人学生はこの影響を受けませんでした。

このように、同じ運動でも「ステレオタイプの脅威」が違えば、プレッシャーを受ける人物は変化します。




【誰もが影響を受けている】

このように、ステレオタイプは状況や形が変われば誰でもその影響を受ける現象だと言えます。

私たちは何かしらのネガティブなステレオタイプを持っていますが、そのステレオタイプを喚起する環境に置かれると、それに基づき評価されたり、扱われたりすることを恐れて、そのステレオタイプを自分は当てはまらないようにしなければいけないというプレッシャーを感じてしまいます。

たとえば、あなたがもし職場に一人も同性がいなかったら不安になりませんか?

そんなとき「男なのに自分の意見をしっかり言えないのはダメだ」とか「女性で気が利かない人はイヤだね」と言った言葉が聞こえてきたらどう感じるでしょうか。

ほとんどの人は「そうならないようにしよう」と考えてしまうのではないでしょうか。

もしくは、そのようなステレオタイプをはね返すために、仕事を人一倍頑張って結果を出そうとするかもしれません。

特定の環境についてはこんな話もあります。

ある大学の白人男性にテッドという学生がいました。

テッドは「アフリカ系アメリカ人の政治学」の授業に出席したとき、45人中白人は2人だけで、アジア人が数人とあとは全員黒人だったそうです。

テッドは周りの声に「アフリカ系アメリカ人の政治学の授業に、白人野郎が何の用だ?」といったことも聞こえてきたといいます。

また、ディスカッションが始まったとき、黒人学生が「私たち」という言葉を使い始めたとき、自分が含まれていないことにも気が付きました。

「白人」という言葉が出てきたときも「白人は歴史のこの部分を避けようとする」とか「白人はこうした犯罪の責任を取ろうとしない」と言われ、とて
も居心地が悪かったそうです。

私なら泣いて家に帰るレベルですね(笑)

もちろん、テッドが黒人に対して何かしたわけではありません。

しかし、私たちはたとえ本人の性格や言動とは関係ないのに、このように一括りにして評価してしまうことがあります。

そのためテッドは、善良な人間であることと、その大義の味方であること。
そして、人種差別主義者ではないことを証明する必要性を感じていたそうです。

このようなプレッシャーはその人の個性をなくしてしまう可能性があります。

実際、テッドはヘタなことを言えば「やっぱり白人は、、、。」と思われるかもしれないとビクビクするようになり、表面的な意見しか言えず、安全で無難な考えしかしないようになったといいます。

このような事は学校だけではなく職場でも起こるのではないでしょうか。



【ステレオタイプと努力】

ステレオタイプの脅威によって萎縮してしまう人もいますが、ネガティブなステレオタイプを跳ね返そうとして人一倍努力してしまう人もいます。

これを「過剰(かつ単独)努力症候群」と呼んでいます。

人によっては「女だからといって舐められたくない!」とか「男性だからひ弱だと思われたくない!」といった気持ちが強く出てしまい、自分の所属する集団に関するステレオタイプが自分に当てはまらないことを証明しようと躍起になるのです。

しかし、このような意識は余計な「力み」につながり、自らの能力の上限領域で実力を発揮するのを妨げます。

じゃあ、このような努力は無駄なのか?

と思うかもしれませんが、実は取り組むタスクによってそれは変わってきます。

カンザス大学の社会心理学者ローリー・オブライエンとクリスチャン・クランドルは、プレッシャーによって能力に制限がかかるのは分かりましたが、自分の集団がネガティブなステレオタイプを持たれている領域で、確実に好成績を出せそうな場合はどうなるのか?と考え、そのことについて調査をしています。

まず、カンザス大学の男子学生と女子学生に難度の高い数学のテストと、簡単な数学のテストをしてもらいます。

被験者を2つのグループに分け、ステレオタイプの脅威を与え、一方には「これまでこのテストの結果には性差が見られた」といってテストを受けさせます。

そしてもう一方には、「性差は見られなかった」と説明します。

結果は、ステレオタイプの脅威にさらされた女子学生の難しいテストの成績は、ステレオタイプの脅威下にない女子学生や、両方のグループの男子学生よりも低い点数でした。(アメリカでは女性は数学が苦手というステレオタイプがあります。)

しかし、簡単なテストでは逆転現象が起こり、ステレオタイプの脅威下にある女子学生は他のグループより高得点をマークしていたのです。

この事から研究者たちは、人は能力の上限レベルを試されるとき、ステレオタイプの脅威によるフラストレーションや、そのステレオタイプに対する反骨精神によってモチベーションが高まるが、それが「力み」につながり実力を発揮できないと考えました。

ところが、タスクが簡単になり、自分の能力の範囲内で十分にこなせるレベルになると、フラストレーションが低下し、ステレオタイプが間違いであることを証明しようとする努力は、他の集団を上回る成績になることも発見しています。

簡単に言えば、自分にとって難しい問題はステレオタイプの脅威によって能力を発揮できなくなりますが、その問題が十分に対応可能なレベルであれば十二分に実力を発揮できるわけです。

現在では、女性管理職が少ない会社で働く女性は、そうでない女性たちよりも懸命に働いて実力を証明し、ネガティブなステレオタイプが誤りであることを証明しようとプレッシャーにさらされているといいます。

そのため、早期出社や残業が多く、仕事以外の活動が少ない傾向があります。

このプレッシャーは人を意固地にさせ、極めて非効率的で硬直的な戦力を取らせる可能性があるともいわれています。

ではどうすればいいのか?

先ほどステレオタイプの脅威によって「過剰(かつ単独)努力」をしてしまうという話をしましたが、この一番の問題は”一人で頑張ってしまうこと”にあります。

実際、黒人の大学生を対象にした調査では、「知的に劣る」というステレオタイプの脅威に立ち向かおうとして、一人で黙々と勉強に励む生徒が大勢いました。

他の人種では、友達同士で教え合ったり、教師に聞いたりすることが多かったのですが、黒人学生はそれが少なかったようです。

ネガティブなステレオタイプが誤りであることを証明しようとして、「誰にも頼らずにやらないと意味がない」と考えてしまうかもしれませんが、実験でもあったように、自分の能力の上限領域の問題はその「力み」から実力を発揮できないことが分かっています。

つまり、自分にとって難しい問題は他人と協力した方がいい結果を出せるという事です。


【ステレオタイプの脅威を縮小させる3つの手段】

ステレオタイプの脅威を完全になくすことは困難ですが、その脅威を弱めることは可能です。

その方法として3つのやり方があります。

それは「クリティカルマス」「自己肯定化作業」「マインドセット」です。

①クリティカルマス
心理学用語でいうと「干渉レベルのアイデンティティによる脅威」を感じなくなるといった言い方をしたりするようですが、「クリティカルマス」とも呼ばれています。

これは学校や職場など、特定の環境で少数派が一定の数に達した結果、その人たちがもはや少数派であるが故の居心地の悪さを感じなくなることを言います。

たとえば、女性に大人気のスイーツ店に男性がひとりでいる居心地の悪さは、ある程度男性の数が集まればなくなってきますよね。

ただ、このクリティカルマスは相対的な概念であり、絶対的な数字を示すのは難しいと言われています。

ハーバード大学の組織心理学者リチャード・ハックマンたちが世界のオーケストラにおける女性団員のクリティカルマスを調べたものがあります。

女性の割合が10%以下のオーケストラでは、女性団員は自分の実力を証明し、男性をモデルとする「いいオーケストラ団員」に自分が当てはまることを示そうと激しいプレッシャーを感じていました。

女性の割合が20%前後でも、ジェンダー間の摩擦はあったそうです。

そして、女性の割合が40%に達してようやく、男女ともに満足の高い経験を報告するようになったそうです。

このような性別によるステレオタイプの脅威は男女のバランスによって解決する場合もあります。


②自己肯定化作業
研究者たちはステレオタイプの脅威は現実の教室で生まれ、絶え間なく学生の自信と帰属意識を動揺させるという仮説を立て、それを検証するためにある実験をしました。

これは、コネチカット州ハートフォード近郊の人種的に統合された学校の中学1年生を対象に行われたもので、新年度が始まってすぐにクラス全員に一

人ひとりの名前が書かれた封筒を手渡します。

このとき、無作為に選ばれた半分の生徒にまず、「自分にとって最も重要な価値(家族関係、友人関係、音楽、信仰など)」を2つか3つあげ、その理由を一段落の短い文章で説明するという作業をしてもらいました。

書き終わったら用紙を封筒に戻して、先生に手渡します。

その後、学期中に同じような作業を何度かしてもらいます。

残りの半分の生徒も要領は同じですが、内容は自分にとって「もっとも重要でない価値」を書き出し、それが他人には重要かもしれない理由を書くという指示をしました。

この行為がどう学校の成績に影響を与るのか?

自己肯定化作業をしたグループは、新学期が始まってから3週間で生徒の成績を前年度よりも上昇させたそうです。(ただし、最も優秀な黒人生徒を除く)

この成績上昇は、自己肯定化をした授業でも、それ以外の授業でも見られました。

そして、生徒たちがその学期全体を通じて、人種的ステレオタイプについて考える時間が減ったことも分かっています。

逆に、この作業をしなかった黒人生徒の成績は下がり続け、学期が進むにつれ人種間の成績格差は一段と大きくなりました。

自己肯定化作業をした黒人生徒は、白人生徒との成績格差は40%も縮小しています。

そして、この作業をした黒人生徒の成績は上がり続け、白人生徒との成績格差は2年以上にわたり縮小し続けました。

しかし、この研究では自己肯定化作業は白人生徒の成績改善にはつながりませんでした。

人種統合した学校では効果を発揮するかもしれませんが、ステレオタイプの脅威が大きくなく、アイデンティティが均一的な学校ではあまり効果がないとも言えます。


③マインドセット
研究チームはキャロル・S・ドゥエックのマインドセットでステレオタイプの脅威の影響が縮小し、能力についてステレオタイプを持たれている生徒の成績やテストの点数を上昇させられるかどうかを調べています。

テキサス州の農村部の中学校一年生から、低所得家庭出身のマイノリティの生徒を無作為に選び、一年に渡り大学生のメンターをつけます。

この期間中、大学生は担当する生徒に2回会うとともに、日常的にメールをやり取りして学業上の助言をしています。

このとき、中学生は2つのグループに分けられており、一方のグループには知性は拡張できるという「成長マインドセット」の助言が与えられます。

メンターは、脳は新しいことを学ぶと新しい神経間結合を作ることを毎回説明し、難しい問題を解こうとすると神経細胞の樹状突起が伸びることを示すウェブサイトを見せました。

もう一つのグループは、知性の拡張可能性ではなく、薬物の乱用防止を強調する助言が与えられました。

期末考査のテスト結果を比べたところ、成長マインドセットのグループは男女とも読解問題で、もう一つのグループよりも大幅に優れた成績を見せました。

しかも、この成長マインドセットのグループは「女子の数学が苦手」というステレオタイプの脅威をはね返し、女子の数学の点数は男子と同レベルだったんです。

一方、薬物乱用防止を強調したグループでは、女子の数学の点数は男子よりも大幅に低いことがわかりました。

またこのことから、能力についてステレオタイプを持たされている生徒を指導するのが上手な教師のアプローチを研究すれば、成績の改善になるのではないかと考えられています。


最後に

あなたも「○○だから」といって自分の能力に制限をかけることがないでしょうか。

この社会の刷り込みは強力であり、その脅威は特に意識しなくても私たちに襲い掛かってきます。

無意識に縛られているステレオタイプの脅威を知ることで、その影響を最小限にすることは可能です。

みなさんも年齢、性別、人種のことを考えたとき、一番最初に浮かんだイメージがただの刷り込みではないのか?
と考えてみてください。

私たちは自分のステレオタイプを通して「みんながどう思うか」を考えます。

「高齢」というアイデンティティにネガティブなステレオタイプを当てはめている人は、自分が歳をとったときにそう評価され、扱われると考えてしまうことがあります。

でも実際は、とても元気で知的な高齢者もいるわけです。

決して世間のイメージに流されないようにしてくださいね。


今回はここまで

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それではまた次回お会いしましょう。

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