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駆け込みで『トラペジウム』見てきた日記 東ゆうについての誤解と共感

アイドルものというジャンルと、とにかく東ゆうという女がヤバいやつらしいという評判だけTLで知ってた。
話題になっていたのでうっすら興味はあったものの見に行くきっかけがなかったが、気づいたら近場の劇場の最終上映が今日だったので東ゆうがどんなものなのか見に行くことに。

結論から言うと、思ったより東ゆうはヤバいやつではなかった。

いや実際やってることは相当ぶっ飛んでるし、ヤバいかヤバくないかで言えば断然前者ではあると思うのだけれど、一方で想像以上に共感できるキャラクター像だった。
これは少なからずXでのオーバーな作品語りの印象を受けてしまっていたところはあるけれど、作中の見せ方としても意識的に誘導しているような印象を受ける。

序盤の仲間集めの段階では東ゆうの事情は断片的にしか語られず、ただ東西南北の高校から美少女を集めてアイドルデビューさせるという荒唐無稽な計画とそのための異常な行動力のみが描写されるため、「うおおおこれが噂の異常アイドル怪人!」と面白がってしまった。

ところが中盤から徐々に東ゆうが自身に抱えるコンプレックスが見えてくる。人気が出た理由の分析で他のメンバーを褒めるが自分に対しては「やはり私の目に狂いはなかった」とだけ語り、SNSへの反応やファンレターのくだりでも劣等感を刺激されている。

そして印象が大きく変わったのが「どうして普通にオーディションを受けてアイドルを目指さなかったのか」を問われ、「受けたけど全部落ちた」という事実が明らかになるシーン。

今まで「なんでこんな方法でアイドルへの道を?」という部分が欠落していたため異常さが強く印象づいてしまっていたが、それが崖っぷちのアイドル志望が必死に考えた自己プロデュース計画なのが判明することで、一気に東が共感できるキャラクターになった感覚を得た。

実際問題、東ゆうの行動は突飛だし態度もだいぶアレなのだが、それがネジが飛んでいるとか性格が悪いというのではなく(いや少なからずそういう面もあるとは思うけど)、切羽詰まっているため選択肢を選んだり外に気を回している余裕がないという描写だったという納得感がここで生まれたというか、腑に落ちたという感じ。

とはいえ東の内面がどうだろうがそんな無茶な計画が上手く生き続けるわけもなく、崩壊が訪れる。
何より他のメンバーがアイドルという目的へのモチベーションを共有していない点が致命的で、これはそもそもアイドルを目指そうと言ってメンバーを集めたり自身の目的をきちんと説明することよりも、東西南北というキャッチーさを優先してなし崩し的に自分の計画に巻き込もうとした東の落ち度。

そんなこんなでグループは解散、東ゆうのアイドル計画は破綻するが、おおまかな話の軸としてはここで終わってるのがこの作品のすごいところだと思う。
東西南北(仮)としてのストーリーは無惨なまでの崩壊で終わって、そこからの再起はない。東ゆうの計画は失敗で終わった。

ただし、このどうしようもなく歪な計画は、何も残さなかったわけではない。1枚のアルバムに収録された1曲だけでも形に残るものはあり、それをきっかけにメンバーは再び集まって内心を吐露する。

そこで、「あの時間は悪いだけのものではなかった、経験できて良かった」とされるのがこの作品の肝だと思う。

滅茶苦茶で自己中心的、暴走とも呼べるような東ゆうの計画は案の定失敗に終わって、だけどそれは全部が全部無価値ではなかった。あの時間は美しく、得るものもあった。

そんな東ゆうの計画を形作ったコンプレックスと焦燥感、がむしゃらな情熱と憧れ。それはまさしく青春時代そのものを象徴しているようにも感じられた。
東ゆうが思ったより共感できるキャラクターだったというのは、この点が大きい。

ラスト、大人になって夢を叶えた東ゆうはかつての自分を振り返って「幼稚で、バカで、カッコ悪くて、カッコよかった」と評する。
これはまさに青春の肯定そのものだと思う。

ひたむきで、熱くて、歪で、杜撰で、結局上手くいかなくて。そんな誰しも少なからず持っている青春の記憶。
東ゆうというキャラクターはそんな青春の象徴であり、『トラペジウム』は
それを無駄ではないのだと肯定してくれるような作品だった。

ヤバい奴がいると聞いておそるおそる覗きにいったつもりが、むしろ東ゆうに普遍的なものを感じることになったのだから実際の感想に勝るものはない。それはそれとしてヤバい奴なのも間違ってないとは思うけど
やはり少しでも気になった映画は実際に見に行くべきだし、実際に見て印象変わった!面白かった!と思ってもとっくに旬は過ぎてるし他人に勧めようにも上映期間は終わりつつある自分のようにならないためにも、可能な限り早く劇場に足を運ぶべき。
そんな当たり前のことを再確認した1日だった。

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