『スピノザの診察室』夏川草介
SNSで書店のアカウントが入荷を紹介していた。
写真に写っていたのがこの本。内容も知らず、
久しぶりに医療物もいいなと読むことにした。
母が亡くなったこの時に、
この本を読むことになるのも、
巡り合わせというかなんというか。
……選んだのは私なのだけれど。
本作は神様のカルテを書いた現役医師、
夏川草介氏の作品で、今年度本屋大賞の4位。
ちなみにスピノザとはオランダの哲学者である。
かつて、大学病院で内視鏡の名手として、
将来を期待されていた医師、
マチ先生こと雄町哲郎が、
亡き妹の子供を引き取るのと同時に、
終末期の患者を抱えた、
地域病院で働く日々を描いている。
※以下、引用有り。未読の方注意。
流石、現役医師が書く小説だけあって、
終末期の現実が、大袈裟でもなく、
ただ、静かに表現されている。
それは、医師たちだけでなく、
患者やその家族に至るまで、
私がこの半年見てきた光景そのものだった。
以下引用
「病と闘う者も、それに付き添う者も、限界が近づいていた。
人が死ぬということは、大変なことである。
生から死への移行は、どうしても苦痛の谷を越えなければいけない。
例外はあるが、多くがそうである。
医学が発達している今、痛みや吐き気をとる薬もたくさんの選択肢がある。薬が飲めないなら、点滴があり、点滴がとれないなら、貼り薬もある。けれども、『薬をうまく使えば、最後の時間も楽に過ごせる』という考えは、まだまだ幻想にすぎない。」
そうなのだ。
緩和ケアなんて言うけれど、
緩和なんて存在しないじゃないかと、
私は心の奥底でずっと怒っていた。
現実は綺麗では無い。
以下引用
「そろそろ幕引きですわ」
「もうそろそろ、お迎えやと思います」
患者の言葉である。
母は抗がん剤の効き目がなくなってきた時、
「いよいよだと思った」と言った。
その時が迫っていると意識することは、
どれほどの恐怖なのだろう。
私が母を送ったのはひと月前。
あまりにも鮮明な記憶が、
この作品の中のあちこちに存在していて、
私はこの半年を振り返り、
思い出しながら読み進めることになった。
マチ先生が家族にかける言葉は、
私が本当に言って欲しい言葉だったのかもしれない。