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映画メモ『あのこは貴族』~からっぽの器に自我の滴を注いでいく
2020年日本映画。よかった。ざっくり言うと、良いとこのお嬢さまが自我に目覚めるまでの物語。シンプルなんだけど、「この先どうなるんだろう?」という関心が最後までずっと続く。
世の中には、想像もつかないような下々の暮らしをしている人もいれば、彼女から見ても雲の上に住んでいるような人もいる。華子は人々の相対化を通じて、自分がどういう存在であり、どう生きてきたのかに気づいていく。
雨の中、彼女が東京の街を自分の足で歩き出すシークエンスの美しさ。
義母に頬を張られてもびくともしない、肚のすわった表情。
門脇麦、スクリーンに映える役者だなあー。
かっこよくてからっぽで、からっぽであることを実は自覚していた高良健吾もよかった、哀れで。
水原希子、石橋静河、山下リオも魅力的で、こういうの見ると映画俳優は必ずしも突出した演技力を必要としないよねと思う。
しかし、30過ぎた女友だち同士って、ここまでスキンシップ的なキャッキャウフフするかな? そこはちょっとおじさんの理想っぽいなと感じたのだが今の若い人はこうなのか?
とにかく、日本人が作った日本の映画だなーと思った。
終盤に至るまで、喜怒哀楽も言葉も乏しく、モヤモヤしつつも泣きも怒りもせずひたすらぼんやりしている華子の様子、めっちゃ日本人。
何一つ自分で選ばず生きてると、感情すら薄くなるんだよね。
社会階層を描きつつ、
「狭い水槽の中で生きてるって意味では、どの階層もみんな同じなんだよね」
みたいに、共通点への気づきが前景に出て、階層社会への批判的目線はアリバイ作り程度にかすかなのも、ザ日本だなーと。
タイトルの含意がいまいちわからなかったのもあり、原作小説も手に取ってみようかな?と思う。