
変化しようとしている人を色眼鏡で見続ける組織
10年ほど前、私が支援していたデイサービスの職員Aくん。
Aくんは20代後半の男性、専門学校卒業し、特養を経て3年ほど前にこのデイサービスに転職してきた。
彼はおじいちゃんおばあちゃんが大好き、現場では誰よりも動き、イベントの際は率先して誰よりも盛り上げた。
熱い思いは時に他スタッフや施設長に対しても同様。
「もっと利用者さんに喜んでもらうためにこういうイベントやりましょうよ」
彼が企画したイベント準備のために多くのスタッフが夜遅くまで残った。
当初は皆、彼に巻き込まれ準備していた。
しかし次第に施設長に不満の声があがる。
「私、そんなに残業できないので先に上がらせてもらっていいですか?」
その意見を施設長がAくんに伝える。
「パートさんでも残ってくれている人いるのに正社員が先に帰るなんてありえないくないですか?利用者に対する気持ちが薄くないですか?」
施設長がAくんにそれぞれの家庭の事情がある事を伝えたが納得できていない様子。
「この会社は頑張る人のやる気を削ぐ、そういうところなんですね」
Aくんのフラストレーションは施設長や次第に会社に向いて行った。
Aくんは現場がメインだが、生活相談員の仕事も兼務していた。
利用者さんは当然のこと、CMや家族にも人気があった。
しかし施設長は彼の意見をそのまま通していくと、他スタッフが辞めてしまう、手に負えなかった施設長は社長に直訴。
同会社の別デイサービスへ異動となる。
「なんで僕が異動なんですか?」
「新天地でチーム作りを学んでほしい」
社長が直接Aくんに伝える。
異動先でも同じことがおこるだろう、辞めてもらうしかない。
通勤時間が倍かかる施設へ。事実上の肩たたきである。
「わかりましたよ、いきます」
社長の想いとは裏腹にAくんは異動を受け入れる。
彼は異動して1ヶ月、異動先でもスタンスは変わらなかった。
異動先の施設長も前施設長や社長からAくんの話を聞いており頭を悩ませていた。
しかし、2ヶ月目からAくんが定時に帰るようになった。
何が起こったんだ、心を入れ替えたのか?
Aくんに聞いてみる。
「実はお付き合いしている人がいて、子供が出来たんですよ。彼女の体調が悪いので定時であがります」
Aくんは彼女の妊娠からガラッと人が変わった。
利用者さんへの想いは強いものの他スタッフや会社への棘が徐々に取れてきた。
1年後、彼は施設でも認められる存在になった。
施設長は彼を社長に昇進させることを提案した。
しかし社長は首を縦に振らなかった。
「あいつはまたすぐに戻る」
Aくんの異動前の施設長も同様、Aくんの昔のイメージが強く残っているが故に今のAくんの動きをフラットに見ることが出来ない。
Aくんは助勤で異動前の施設に1ヶ月行ってもらうことになった。
以前のAくんを知っているスタッフも大勢いたので反対意見噴出。
1ヶ月だけなのにAくんが来るなら辞めるというスタッフも出てきた。
Aくんは出勤した。
1週間経ってもAくんの話をまともに聞かない異動前施設のスタッフ。
さすがのAくんもフラストレーションがたまり、爆発。
「ほれ、見たことか。あいつやっぱり変わっていない。」
前職スタッフも社長もあざ笑う。
Aくんはその翌日退職願を出し2週間後施設を去った。
彼にも課題はあるものの、変わろうとしていた。
しかし周りは彼の見方を変えようとしなかった。
風のうわさでは彼は介護施設を複数店舗経営している法人のマネジャーになったという。
変わろうぜ、と相手に促す側も変わらないと本人も変わり切れない、そう痛感した出来事だった。