第28章 すもーく の たーん
僧侶は、勇者からたくさんの不安障害の対策を学んだ。それらはとても有効な手段に感じていたが、勇者は回復までに1年〜1年半かかったと聞いて驚いた。
僧侶「そうですか、、やはり、それくらいはかかってしまいますか。。もしかしたら、魔法のようにすぐに治るのではないかと期待しておりました。」
勇者「私の場合は、そんな魔法を唱えようにも、何が起こっているかわからないという次元からのスタートでしたからね。」
僧侶「たしかに。ちなみに、勇者様はどんな1年半を過ごされたのですか?」
勇者「私の場合は、勇者就任から3ヶ月、6月末頃でしたでしょうか、迷走神経反射で失神したことから始まりました。これを1日目とカウントします。この段階では病名はわからない貧血でしたが、パーティーに次々と襲いかかる難題、勇者としてがんばらなくてはという重責、なんとなくストレスに関係してそうだなという直感はありました。」
僧侶「そうか、そうですよね、その時は、対策どころか、自分の身に何が起きていたかすらわかっていない状態ですもんね。」
勇者「そうなんです。とりあえず、貧血のような症状だったので、血流に悪そうなタバコは、この日やめると決意しました。」
僧侶「えっ!勇者様、タバコ吸っていたんですか?ははっ、勇者のイメージくずれますね。」
勇者「そうそう、特に最近は、"勇者のイメージ像を守れ"とか、すぐに叩かれる時代ですからね。まあ、他人がどう思うかなんて気にしなければ良いだけですが、健康観点からも、これを機に辞められてよかったかなとは思います。」
僧侶「それはそうですね。」
勇者「そして、4日目頃、パーティーでの活動中、突然、動悸がして、止めようと思ってもどんどん激しくなりなっていき、また失神してしまうのではという感覚に襲われました。今思えば、この動悸の先に、失神することはないのですが、当時はそんな思い込みをしていて。5日目、6日目も、度々。当時は、なんとなくメンタルの問題だと認めたくなくて、まずは、脳と心臓に問題がないか受診することにしました。」
僧侶「はじめは教会(内科、心臓外科、脳外科)に行かれたとおっしゃっていましたよね。」
勇者「えぇ、だいたいはじめの1ヶ月強は、その心臓や脳の検査で終わりました。その異常がない事を確認して、ようやく、魔法使い(心療内科)を訪れたのは8月中旬、倒れてから2ヶ月が経つ頃でした。」
僧侶「そこまででも、結構時間を要してしまったのですね。」
勇者「はい、良くなかったですね。その間、訳もわからず度々パニック症状があらわれ、その恐怖が脳内に深く深く刻まれていくわけで、症状は悪化の一途です。」
僧侶「なるほど、そういう意味では、少しでも早く症状を理解し、対策まで教えていただいた私は、勇者さまより早く解決がされる可能性もあるわけでしょうか。」
勇者「そう思いますよ。私の場合は、まだこの時点で対策はおろか、症状のメカニズムもわかっていない状態ですから。魔法使いには、"不安障害"と診断されましたが、"この病気は一生付き合っていくものです、2年、3年スパンで少しずつ良くなっていくように、焦らずやっていきましょう。"と言われました。その時、ふざけるなって思いましてね、こんな地獄が何年も続いてたまるかと。」
僧侶「その気力が残っていただけ不幸中の幸いでしたね。」
勇者「ほんとにそう思います。それから、絶対治してやると誓い、古代図書館で、さとりの書をはじめ関係しそうな文献を片っ端から読み漁りました。例えば、太陽を浴びたり、軽い運動するのが良いと聞き、散歩や筋トレを始めました。ビタミンなる物質を取り込むのが良いと聞き野菜果物を摂取したり、腸内フローラが重要だと聞き、ヨーグルトや納豆を食べたり、はりきゅうやマッサージを試したり、夜更かしをやめたり。」
僧侶「すごいたくさん対策をしたのですね。」
勇者「えぇ、そんなこんなで3ヶ月目頃でしょうか、不安障害のメカニズムを記すものを発見しました。簡単にしたのが昨日の1枚目のメモです。」
僧侶「ああ、これですね。」
勇者「それまで、暗闇の中、溺れている感覚でしたが、仕組みが理解できた事で、随分気持ちが楽になりました。」
僧侶「それは、大変な3ヶ月でしたね。」