第21章 きとうし の たーん
人の身体には自律神経なるものがあり、身体の各所へ指示が飛んでいる。この指示系統の乱れが、様々な症状となって自分を苦しめていたのだと、僧侶は理解した。
なんとか制御できないものかと身体をクネクネしているところで勇者と目があった。
ゆうしゃは にっこり ほほえんでいる。
僧侶「自律神経は、自身が意識して制御するものではない、とおっしゃっていたかと思います。それなのに対策なんてできるものなのですか。」
勇者「そうですね、例えば、"たたかう"、"ぼうぎょ"、"どうぐ"、"まほう"と言った具合に、一つ一つコマンド入力するレベルでのコントロールは不可能でしょう。比べてしまうと世界を支配するほうがよっぽど簡単です。あくまで、おおまかな作戦を伝えるイメージと理解してください。」
僧侶「具体的には、どんな風に、、」
勇者「例えば、昨日お会いした時、あなたはひどく緊張されていましたよね。そこで、おまじないをかけて、緊張をほぐしたのを覚えていらっしゃるでしょう(第1章参照)。あれはまさに自律神経を操作したと言えるでしょう。」
僧侶「あ!たしかに、、あれはどんな仕組みだったのですか?」
勇者「自律神経の制御に有効な手法として"呼吸"があります。」
僧侶「呼吸ですか、、たしかあの時、深呼吸をうながされていましたね。」
勇者「息を吸うと交感神経が活発になり、息を吐くと副交感神経が活発になります。呼吸を繰り返すことでそのバランスを保つわけですが、昨日は、交感神経が活発になってしまい緊張してしまっている状態だったため、息を吐くことを強めに意識してもらい副交感神経を活性化し、バランスをとろうとしました。」
僧侶「なるほど、そのような意味があったのですね。たしかあの時、嫌な気持ちを赤い雲にみたて、外に吐き出す、という対処もしたと思います。あれにはどういう意味があったのでしょうか。」
勇者「言ってしまえば、気を紛らわせただけです。あの時あなたは、緊張した自分の状況に恐怖する状態にありました。恐怖すれば、アドレナリンが放出され、交感神経が活発になり、さらに動悸が激しくなる悪循環です。」
僧侶「ああ、例のファントムですね。」
勇者「そう、この恐怖は言ってしまえば、気のせい、幻覚なのです。産み出してしまった幻覚に、襲われそうになっている、その時、あなたはどう対処すれば良いと思いますか?」
僧侶「戦う、、わけにはいかない感じがしますので逃げるのが良いでしょうか。」
勇者「いいえ、戦っても逃げてもダメです。必要なのは"観察"です。」
僧侶「観察??見てるだけですか?」
勇者「そう、ファントムに襲われる自分を、ふわふわと意識だけ抜け出し、見下ろし観察してみてください。よく目を凝らして観察していると、ファントムの攻撃があなたをすり抜け、あたっていない様子が見えてくるでしょう、ああ、これはやっぱり幻覚なんだと、わかってきます。例えば、動悸が激しくなってきた時、ドキドキしてるな、この血液はどこに送られるのだろう、運動能力上がってるのかな、今なら魔王も倒せたりして、、、みたいな感じです。なんなら、もっとドキドキ来い!さあ来い!って念じてみてください、絶対それ以上悪くならないので。」
僧侶「なるほど、試してみたいです。こんな時に限って症状がでないもんなんですね。」
勇者「皮肉なもので、心の底から出てこいと祈っている時、ファントムは決して顔を出さないのです。」
[攻略の手引き]