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どんな指輪でもよかった|井上健斗&NANA

ふたり指輪『CONNECT』ブランドディレクターの杉原賢です。
3度目となる今回の「ふたりの指輪のはなし」は、僕たちにとって2つの特別な意味が込められています。

まずは公開日が11月22日(いいふうふの日)であること。

“いいふうふ”の対義語は“わるいふうふ”となりますが、あらゆるふたりの関係性は良し悪しで区別できるほど単純なものではないですし、優劣などないはずです。尊重し合えるパートナーシップを築けていれば、形に関わらず、その全てを“いいふうふ”と呼べるはず。だからこそ、11月22日には、普遍的な“良い夫婦”のイメージを更新してくれるようなふたりの話を発信したいと思いました。

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もうひとつは、本稿がふたり指輪『CONNECT』が2021年度グッドデザイン賞を受賞してから初めての記事となったことです。

本来、この「ふたりの指輪のはなし」では『CONNECT』を意図的に紹介していないのですが、今回は受賞記念として『CONNECT』ユーザーのふたりにお話を伺う運びとなりました。楽しんでいただければ幸いです。

「指輪」

それは、あらゆる “ふたり” にとって
特別な意味をもつもの。

どんな指輪が良いの? そもそも指輪って必要?
特別とされているものだからこそ、
慎重に考えたい。

あの “ふたり” は、
どんな指輪をつけているのだろう?

ゼクシィでも、ハッシュタグでも見つけられない
もっともリアルな、ふたりの指輪のはなし。

大切なパートナーとの
指輪を考える時間のために、
ふたり指輪ブランド『CONNECT』
がお届けします。

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今回訪れた “ふたり” は、井上健斗さんとNANAさん。

健斗さんは、性別適合手術の案内などトランスジェンダーのトータルサポートを行う株式会社G-pitの代表。自身もトランスジェンダー(FtM)で、赤裸々な体験談をYouTubeチャンネルで発信している。

NANAさんは、ナイトカルチャー、性学・性教育、そしてセクシュアルマイノリティなど、多岐にわたる分野のPRや広報を行っているフリーランス。パンセクシュアルがいまの自分にぴったりくる言葉だそう。

ふたりとも法律婚と離婚を経験していて、現在は事実婚の状態。なぜいまはその形に落ち着いているのか。NANAさんの連れ子であるAくんと共に暮らすご自宅にお邪魔して、ふたりならではのパートナーシップのあり方について聞きました。

最悪の出会いからはじまったふたり

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──(聞き手:杉原賢)出会ってからはわりと長いんですよね?

健斗(以下、健):10年ぐらいですね。新宿2丁目で出会って......というか、僕がNANAちゃんの後ろ姿に一目惚れして。僕は頭蓋骨が小さい人がタイプなんですけど、NANAちゃんは最強に小さいんですよ。

──つまりタイプだったと。

健:そうです。しかもパッと振り返ったときの笑顔も最高で。そのときは飲んでたし、まだ若かったので、初対面にも関わらず「頭蓋骨を触らせてもらっていいですか!」みたいなヤバい絡み方をしてしまって。近い業界にいるので仕事でたまに会う機会があったんですけど、かなり距離を置かれてました。

NANA(以下、NA):ただのチャラい人だと思ったもん。

健:これが原因で最初の頃は散々で。NANAちゃんはフレンドリーだから、仕事でも知り合いに会ったらみんなにハグするんですけど僕だけ断固拒否ですよ。

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──そこからいまですから何があるかわかりませんね。

健:距離を置かれつつ、1年に1回ぐらいは何かしらの機会で会ってたのかな。当時はお互い結婚していたのでそれぞれの生活を大事にしていたんですけど、いつの間にかふたりとも離婚していて、それで僕から改めて声をかけて告白したんです。最初は案の定断られるんですが、それでも押して押してなんとか付き合うことになって。

NA:アプローチを受けているうちにプライベートの姿や思想を知って、思っていた人とは違うと、チャラい人ではないと気づいたんです。

健:かわいいと思わない人に「かわいい!」なんて言わないからね! NANAちゃんは最高にキュートです!

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ふたりだけでは決められないこと

──おふたりとも法律婚を経験されていますが、現在はどの言葉が当てはまる関係なんでしょうか。

健:事実婚ですね。

NA:区役所上には未婚の妻という形で事実婚の申請をしていて、健斗が世帯主です。別姓のままで、家族名義のクレジットカードもつくれました。

──事実婚を選択したのはなぜですか?

健:僕がバツ2なので法律婚に消極的なんです。そこをスタートラインにして話しあって、事実婚を選択しました。

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NA:あと息子の姓の問題も。彼の考えがはっきりしてから決めようかって話になったよね。焦って決めることもないですし、ふたりだけで決められることではないなと。

健:そうそう。だからこれから変わる可能性もあるんですけど、まずは一緒にやってみようってね。僕たちの周りは法律婚できない人がマジョリティで、同性婚や結婚の平等について尽力されている方々もいる。「結婚するか、しないか」という選択肢がある、それってすごく大きなことだと思うんですよ。

NA:たまに同性カップルから「ふたりは法律婚できるから良いよね」と言われることもあります。私はいまパンセクシュアルがしっくり来るんですが、昔はレズビアンだと思っていて、当時は好きな相手と結婚するという選択肢がなかったんですよ。だから誰もが愛する人と結婚できる世の中を望みます。

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トランスジェンダーを告白する

──いま息子さんはおふたりのことをなんと呼ばれているんですか?

健:何も言ってないのに、保育園ではパパ、自宅では健斗なんです。もともとNANAちゃんが健斗って呼ぶから彼も健斗って呼び出して。彼には前のパパの記憶もはっきりあるので、どこかで使い分けをしているみたいですね。あと最近気づいたのが、パパと呼びたいけど呼べないんじゃないかなって。

NA:そうだね。

健:気を遣ってるのか、葛藤してるのか。前のパパのこともあるから。

NA:子どもながらに意識して切り替えて、いまの生活を大事にしようとしてくれてるんだと思います。少し前に“パパとママいつもありがとう”って手紙を書いてきてくれたんですけど、パパの文字の下に括弧書きで“けんと”とも書いていたんですね。どうやら前のパパのことを言っているわけではないと健斗にアピールしたかったみたいで。

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──なんというか大人ですね。ふたりの関係性に何かドキッとするような言葉を投げかけてくることはなかったんですか?

健:一緒に住みはじめたときに「ふたり結婚!」って言ってきたかな。結婚って言葉どこで覚えてきたんだろう。

NA:ねえ。彼が婚姻制度について理解しているとは思わないですけど、初めて参列した結婚式がレズビアンカップルの式だったので「結婚してないの?」って思ってるのかな。

健:たぶん同性が法律婚できないことは知らないよね。それを知ったら「なんでできないの?」って思うかもしれない。

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──健斗さんがトランスジェンダーだということは知っているんですよね。

健:僕がもともと女性だったことは、1年前、彼が5歳ぐらいのときに伝えてます。当時TV番組の『天才てれびくん』に僕と逆パターンの、男性から女性になった方が出演していて、それを普通に受け入れていたのを見て伝えたんですけど、完全に理解しているかは怪しかったですね。でも彼なりにわかってくれているんだと思います。

──そのときのことをYouTubeチャンネルで公開してましたよね。告白したあとに「健斗好きだよ!」って言いに来てくれたって。

健:最初に言ったときは固まってしまったんですよね。大丈夫かなぁと思ってたんですけど、そう言ってくれて。

NA:ジェンダーやセクシュアリティ、身体についての絵本を見せていると「あ、これ健斗のことでしょう?」って言ってるから、理解はしてるんじゃないかな。幼い頃から柔軟にいろんなあり方を受け取っていると思います。

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「合わないね」ではなく「どう居心地を良くするか」

──では指輪のお話を。いま『CONNECT』の「ダブルチタン」をつけていただいてますが、そもそも指輪をつける選択をしたのはなぜですか?

NA:私が欲しかったんです。おそろいのものを身につけたくて。指輪がイコール結婚を表すわけではないけど、このさきコロナが落ち着いて、健斗が出張することも増えて、ふたりでいる時間が減るかもと思うと、手に指輪があればなって。

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健:僕は指輪にあまり興味がなくて、どんなものでも良かったんですけど、そんなときに賢さんとCONNECTに出会っちゃったから。動画にもさせていただきましたが。

──あのときはありがとうございました。

健:あの動画を撮影したあとすぐにNANAちゃんに「これ良いよ!」って紹介してね。

な:そうそう(笑)。私もストーリー性やコンセプトを重んじるタイプなのでピンときて。即決だったね。

──「ダブルチタン」はコンセプトで選んでいただいた?

健:どちらも素敵だったんですが、特に「ダブルチタン」のコンセプトには惹かれました。

NA:そう。2種類のチタンの指輪が少しずつ馴染んでひとつになる、このコンセプトが素敵で。彼は自分にストイックだけど私は緩いとか、私たちは価値観や考え方に真逆なところも多いんですけど、それを知って「合わないね」ではなく「どう居心地を良くするか」という考え方をしているんです。だからぴったりですね。

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健:僕はもともとあんまりアクセサリーをつけるタイプではなかったし、NANAちゃんじゃなかったらつけてなかったと思う。お互いにとってのベストの選択をしたと思ってます。

──嬉しいです、ありがとうございます!

NA:こちらこそ、息子にも指輪をと提案してくださって嬉しかったです。

──『CONNECT』にはこどももつけられる「かぞく指輪」という小さなサイズの指輪もあるんですが、息子さんにはおふたりのイニシャルが刻印された、おふたりが実際につけているサイズの指輪を1本ずつお渡ししました。また、来年には小学校に入学されるということで、もしかしたら鍵っ子になるかもと思い、キーリングと一緒に。お渡ししたときに目の前で興味津々で遊んでくれて嬉しかったです。

健:本当に嬉しかったみたいで、ソファからずり落ちながらすごい体勢で1時間ぐらい眺めてましたよ。

NA:お渡ししていただいた場面に3人で一緒に居られたことも大きかったんだと思います。3人でおそろいだとはっきりあの場で伝えられたのは、彼にとって大きなことだったんじゃないかな。

合わない趣味とズレないこだわり

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──おそろいのものといえば、家で共有しているものはたくさんあると思います。何かものを選ぶ際に大事にしていることはありますか?

健:ここに引っ越したのが今年の3月ぐらいなんですが、ものを揃えるときに意見がぶつからなかったんですよね。

NA:映画の趣味とか全く合わないのにね。

健:そう、そこはぜんぜん合わない。僕はジャッキー・チェン主演の『酔拳2』がバイブルで、僕にとって10段階で10評価の最高なんですけど、NANAちゃんにとっては2評価とかなんですよ。観たあとなんて言ったけ?

NA:「バイオレンス!」

健:そうそう(笑)「中身がない!」ってね(笑)そういうところも多いふたりだから、ものを選ぶときのこだわりがズレていないのは奇跡ですね。

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NA:いま言われるまでわからなかったね。指輪もそうだったし。

──いままで何百組と指輪を選ぶふたりの相談にのってきたんですけど、最初から意見がぴったり合うふたりは案外少ないんです。

健:ですよね。だから僕、『CONNECT』を紹介するときにNANAちゃんにプレゼンしようと準備したんですよ。でも最初から好印象で「あ、これ大丈夫だな」となったんですけど。

NA:健斗はもともと指輪に興味がない感じだったから、私の押しつけかなと思ってたの。そこにプレゼンするぐらい気合を入れてガンガンきたから、これは本当に良いものなんだろうなと思った。

──うれしい。本当に良かったです。では最後に、この指輪をつけて何か心境の変化はありましたか?

NA:にやけちゃう。

健:いやぁキュートだ。NANAちゃん本当にキュートだ。

──(笑)

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健:僕はNANAちゃんの手を見たときににやけちゃうかなあ。あとどこに行っても指輪をつけているのを見た周りが「結婚したんだ」って言ってくるから、やっぱりそう思われるんだなと改めて感じました。

──左手の薬指に指輪をつけることが暗に“結婚をしている”という意味合いを持ちますが、それを承知の上でつけられたんでしょうか。どの指につけるか話し合いはありましたか?

健:なかったね。そういうことだよねって。

NA:うん、自然とね。左手の薬指だよねって。そこに疑問も抵抗もなかったですね。

健:僕のバツ2は周りに知られているので「また?」とか「無理だよ」みたいに思われたり言われたりする煩わしさはあるんですけど、それが嫌で指輪をつけないという選択肢はなくて。それよりも指輪をお互いにつけていることでNANAちゃんが嬉しく思ってくれる、笑顔になってくれる。この方がよっぽど大事ですね。

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あとがき

杉原です。実に“いいふうふ”な「ふたりの指輪のはなし」でした。
お互いを尊重しながら、そしてかぞくの在り方を模索しながら、人生を共にすることを選んだ健斗さんとNANAさん。

結婚、そして結婚指輪に対して消極的だった健斗さんが指輪をつけようと思った理由は、「NANAちゃんが喜んでくれるから」。ただそれだけでした。愛する人に喜んでもらうために指輪をつける。それが健斗さんの喜びだったのです。

「どんな指輪でもいい。でも、どうせならつけやすくて、コンセプトに共感できるものを」。そんなふたりに向けた究極の“これでいい”指輪、それが『CONNECT』です。

聞き手:杉原賢
文章:Yuuki Honda
企画:Wataru Kiruta Nakazawa
写真:Eichi Tano
project of https://connect.switchdeswitch.com/

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