一緒に選んだちがう指輪|YOPPY&松井一哲
「指輪」
それは、あらゆる “ふたり” にとって
特別な意味をもつもの。
どんな指輪が良いの? そもそも指輪って必要?
特別とされているものだからこそ、
慎重に考えたい。
あの “ふたり” は、
どんな指輪をつけているのだろう?
ゼクシィでも、ハッシュタグでも見つけられない
もっともリアルな、ふたりの指輪のはなし。
大切なパートナーとの
指輪を考える時間のために、
ふたり指輪ブランド『CONNECT』
がお届けします。
YOPPYさんは会員制・招待制コミュニティ「6curry」のBrand Designerとして、松井さんはホテルであり住宅でもある物件を提供する「NOT A HOTEL」のArchitectural Design Managerとして働く身。
結婚して1年強のおふたり。いわくアクティブなデザイナーと内向的な建築士で、性格は正反対だけど、穏やかな笑顔を交わし合う様子は、すでに長年連れ添った夫婦のようでした。
そんなふたりは指輪をどう捉えているのか。内装のリニューアル工事を終えたばかりの「6curryKITCHEN」恵比寿店に伺って聞きました。
実はおふたり、結婚指輪はちがうブランドなんだそうです。なぜなんでしょう?
愛をこめて花束を
──(聞き手:杉原賢)出会いのきっかけは?
YOPPY(以下、Y):お互いデザインに携わる仕事をしているものの、ふたりの距離が縮まったきっかけは、スクウェアエニックスの「クロノ・トリガー」というゲームが好きだったことなんです。
Y:やりとりを重ねていくうちに、あまりにも優しすぎるから、本心なのか取り繕っているのか分からなくて「この人サイコパスなんじゃないか?」と思ったこともありました。(笑)でも本当に良い人だったんです。
松井一哲(以下、松):僕はこんなストレートに気持ちを伝えてくれる人は初めてだったので、2度目のデートで告白してくれたときは驚きました(笑)
Y:そうだったんだ。告白の時は「これからも会うなら付き合おうよ」的なことを言ったんですけど、彼は「それは自分から言いたい」と言ってくれて。2週間後に彼の部屋に行ったら、彼は隠していた花束を差し出して「僕と付き合ってください」って。
──おお! ロマンチストなんですね。
松:自覚はなかったんですけどね......これ、恥ずかしいですね(笑)
「お互いの趣味を押し付けるのは違う」
Y:それがちょうど3年前かな?
松:そうだね。
──じゃあ「6curryKITCHEN」恵比寿店が立ち上がった時ですか?
Y:ですね。2018年の7月に彼と会って、8月5日に付き合いました。その後9月の中旬に「6curryKITCHEN」恵比寿店ができて、結婚は去年の2月です。
──結婚する際に婚約指輪と結婚指輪は買われているんですよね。セットで同時に購入する人もいますが、そうではない?
松:別々です。
──では婚約指輪からお聞きして良いですか?
松:彼女はサプライズが好きなので、こっそり買おうと思ったんですが、なかなか苦労しました。
僕はアクセサリーの類いを普段つけないので勝手がわからないし、ジュエリーの知識も無いし、彼女はデザイナーでこだわりが強いので半端な選び方もできないしで。迷走して指輪について調べ過ぎた結果、一時期スマホのネット広告が全て指輪で埋め尽くされていました(笑)
最終的に購入したのは、ティファニーの「ティファニーセッティング」です。
──ティファニーがパイオニアとなった、婚約指輪のスタンダードと言われるソリテール(1つ石)リングですね。
松:130年以上の歴史があり、今の婚約指輪の原点とも言えるのがティファニーセッティングなんですよね。それを知って、指輪としてのデザインの良し悪しを僕の趣味趣向で選ぶよりも、「THE 婚約指輪」と言えるような、最もシンプルかつアイコニックなものを手渡したいと思いました。生涯をかけて所有するものだと考えたとき、そうした選び方が素直だと思ったんです。あとは、これを非日常感がある時に渡したほうがYOPPYが喜ぶのはわかっていて、それにまた苦心したんですけど。
──サプライズですもんね。
松:そのために付き合って1年ぐらいのタイミングで北海道に行ったんです。僕の地元が札幌で、まだ彼女と一緒に実家に行けていなかったし、前々から北海道に行きたいとYOPPYも言ってくれていたので。
安藤忠雄さんが設計された「水の教会」という建築が学生時代からすごく好きで、北海道で婚約指輪を渡すならこのチャペルしかないと思っていました(笑)それで、当日は観光という名目で「水の教会」に併設されたホテルを予約したんです。
策士策に溺れて大成功
Y:ただ私はすごく目ざとくて、そういうのに気づいてしまうんですよ。
松:そう。だから本番のサプライズの前に小さなサプライズをいくつか挟んで、彼女の勘を鈍らせようとしたんです。
──策士ですね。
松:レストランで食事する時に、付き合って1周年おめでとうって書かれたケーキを用意してもらったり。
Y:私はそのレストランでプロポーズがあるかもと思っていたのでちょっと残念で(笑)
松:こういうふうにプロポーズありきって感じだったのでハードルが上がってたんですよね(笑)
Y:私は素直なので、付き合ってすぐに結婚したいとは伝えてて。その時の彼の答えは「まだ1年も経ってないよ」だったんですけど、北海道に行く頃には1年経ってたから、そろそろ何かあるぞ。とそわそわしてたんです。
松:あとは、僕らが泊まった日は近くで花火があがる日だったんですけど、その花火がよく見える部屋を予約していて、彼女にはそれを伝えずにサプライズで一緒に部屋で花火を見ました。そこでイベントが一段落することで、ようやくこの後のプロポーズはないと思ってくれるかなと(笑)そして、事前に貸切で予約していた「水の教会」に行ったんです。
──段取りが凄すぎる…そしていよいよ本番。
Y:まあ彼が不意にトイレに行ってくるねって出て行った時に、「このタイミングでトイレ?」と思って勘付いちゃったんですけどね。
──あ〜気づいちゃった!
松:完全犯罪は難しいですね(笑)
Y:ただ、指輪を渡してくれる前に彼が目の前で手紙を読んでくれたんですね。その時に彼の手が震えてたり、すごく緊張してるのが伝わって泣けてきて......本当に素晴らしい人だなと思いました。
──素敵なエピソード!
無理に合わせず、お互いの違いを楽しむ
──プロポーズの後だと思うんですが、結婚指輪はどう決められたんですか?
Y:彼も私も指輪について詳しくないので、私がInstagramのストーリーの質問機能を使って「結婚指輪におすすめのブランドある?」って聞いてみたんです。そこで結構な数の返答が来たので、その返答に書いてあったブランドを1つずつ調べて、最終的に3つに絞りました。でも結婚指輪はそれなりにお金がかかりますよね。家の購入、結婚式の諸々とか、お金が必要な予定が決まっていたから、「正直そこにお金かけるのか?」と2人で相談しつつ、とりあえず伊勢丹に見に行くことにしました。
松:最初はお互い同じブランドで買おうとしてたんですけど、結果的には別々になり、素材やデザインの方向性も全く違います。
Y:どちらかが良いと思っても、もう一方が納得いかないパターンばかりだったんです。もともと彼は指輪をつけないから、するのが嫌だと思っている状態でしたし。それなら自分が良いと思うものを買えば良いじゃん!と、それぞれで好みの指輪を決めました。ずっとつけていくならお互いに気に入ったものが良いし、一緒に選んでいる時間が楽しかったからブランドが別々でも問題ないなって。
松:無理に合わせていくよりは、趣味嗜好の違いを楽しむ方が僕らには合っているなと。デザインを統一するよりも、お互いが似合うと思うものをふたりで一緒に選んだという事実の方が本質的には重要だと思ったんです。
──素晴らしいですね。
ちがう結婚指輪でつながる
──ちなみにお互いどんな指輪を?
Y:私はVENDOME AOYAMA (ヴァンドーム青山)のものです。定番のシンプルなゴールドだからどのブランドにもあるやつだけど、デザインに微細な特徴があって、かつ存在感を主張し過ぎない指輪にしました。
松:僕はhimie(ヒーミー)です。ミニマルなものがもともと好きではあるんですが、愛着が持てるものが良くて。ただの結婚の証としてつけるよりは、ファッションの一部になってほしい、でも主張しすぎるのは避けたいと選んでいった結果これになりました。建築の仕上げなどで使われるヘリンボーンと呼ばれるV字型の柄があるんですが、それを思わせるデザインが少し面白くて気に入っています。
Y:でも違うブランドで買ったので、それぞれのお店で店員さんに「え?」って反応されたよね。
松:そうだったね。
Y:結婚指輪は同じデザインが良いって価値観は刷り込みだと思います。
──そうなんですよね。世間的に「結婚指輪は同じデザインを身につけるべき」という謎の前提があるように思います。ふたりが納得できることが何よりも重要なのに。
指輪をつけて変わった価値観
──指輪をつけてから何か心境は変わりましたか?
Y:左手の薬指に指輪をしてると特別感がありますね。見るたびに大人の階段を登ったんだなって実感します。結婚してることを改めて感じさせてくれるから嬉しい。あとこの指輪がこれからのベースになるんだと考えたら服装も変わりました。
松:僕はもともと指輪やアクセサリーをつけない人だったので、最初はすごく違和感があったんです。指に何かがついていることが気になって気になって。外したくてしょうがないというか、締め付けられていることに違和感がありました。
Y:最初はずっと触ってたもんね。
松:ただこれははじめだけの生理的な現象で、今ではまったく気になりません。最近は、周囲の人たちの指輪にも関心がいくようになりました。「あ、この人は結婚してたんだ」とか、これまで気にも留めていなかったのに、違う視点で物事が見えるようになったのは面白いですね。僕も結婚していることが自然と周囲に示せるし、今まで以上に男女関係なく誰とでもフラットにコミュニケーションが取れるようになった気がします。
おじいちゃんとおばあちゃんになっても使えるものを
──では指輪以外にも物を買う時にこだわっていることはありますか?
Y:私たちは一緒になった時に、ふたりで使うものは歳をとっても使えるデザインなのかどうかを買う基準にすると決めました。細かいものはそこまで気にしないんですけど。
松:おじいちゃんとおばあちゃんになっても使えるデザインが良いよねって。お互いにこだわりはあるけど、多少の趣味の違いは超えて、そこを判断基準にしてます。つい最近、himie(ヒーミー)の旗艦店もある、南青山のフロムファーストビルでお皿と醤油さしを衝動買いしたんですけど、これを買う時もその基準で決めました。漆塗りなんですけど、これ結婚する前だとたぶん買ってないデザインなんですよ。人によってはオシャレに見えないと思うんですが、おじいちゃんとおばあちゃんになってもこれを使ってたらかっこいいなって。
Y:そうそう。見た瞬間に買おうってなったよね。
──でもこれだけは譲れない、なんてものもあるんじゃないでしょうか。
Y:どうしても買いたいもので、かつ自分のためのものは自分のお金で買うようにしてます。
松:そうだね。僕は椅子が好きなんですけど、良いものは安くても十数万するので、これはさすがに自分で買います。
Y:もう少し安いのでも良いじゃんって私は思うんですけど、「長く愛されている名作には名作の理由がある」って言って。
松:まあ半分はミーハーなところが......
Y:全部ミーハーだよ!
松:.......はい、僕はそういうところにお金をかけてしまいます(笑)
──YOPPYさんは譲れないものはありますか?
Y:う〜ん、色ですかねえ。
松:2人で何かを見ているときも、YOPPYは感覚担当で、僕は調べる担当です。家の購入を検討していたときも、僕は事前に不動産について本を十数冊呼んで勉強してたんですが、YOPPYは事前情報なし、感覚で見ていくんです。その結果、僕はロジックで良い物件だと言っても、YOPPYが「ここは日当たりが良くない感じがする」「空が見えないからあんまり」って反論してきて、その感覚をもとにしたこだわりを譲らないんです。そうやって意見がぶつかることはあったんですけど、今振り返るとバランスよく検討できたと思ってます。
Y:今住んでいるところはお互いに納得してます。見学の時に家に入ってすぐに決まりました。
松:内見して1分後ぐらいに「購入します」って言ってね。もう即決でした。中古の物件なので、今後自ら設計をして、ゆっくりリノベーションをしていきたいと思っています。
支え合い、刺激し合う正反対のふたり
──何に対してもふたりで取り組んでいるのが素敵です。それにお互いを支え合っているような印象を受けます。
Y:私は考える前に行動するタイプなんですけど、彼は勤勉なので、私が勢い余って失敗しないようにと支えられています。それにすごく穏やかな人だし、基本的に心が広いので一緒にいて落ち着きますね。
松:性格は本当に正反対です。僕はリスクばかり考えるけど、彼女は物事は良い方向に行くって考える人で、言っちゃえば根暗な僕とポジティブなYOPPYっていうか。彼女のそんな性格が、僕にはすごく有難いんですよね。もう家にいてもどこにいても、彼女なしの生活が考えられないぐらいです。YOPPYは裏表も全くないし、それがまたすごく良くて。
Y:表しかない。
松:そう(笑)ジャンプの主人公というか、『ハンターハンター』のゴンとか『ワンピース』のルフィみたいな性格なんです。大人になってもその生き方ができていることに感銘すら受けています。
──松井さんは今お仕事で大胆な挑戦をされていると思うんですけど、それはYOPPYさんの影響があったりしますか?
松:そうかもしれません。新卒で入った建築設計事務所は業界の大手で安定もしているし、尊敬できる先輩や同僚ばかりで、すごく良い環境で。ただ、YOPPYと出会って一緒にいるうちに、自分の物差しの小ささというか、視野の狭さみたいな部分に何度も気づかされました。彼女の周りには自分のやりたいことに挑戦している人がたくさんいるし、生き生きしている人が多いんですよ。
Y:私と一緒にいることで自由な生き方に何かを感じてくれて、それがもし彼に良い影響を与えられているんだとしたら嬉しいですね。
あとがき
杉原です。初回に引き続き、素晴らしい「ふたりの指輪のはなし」でした。
出会いから一貫して、直感を大切にしながら愛情を育んできたYOPPYさんと、理性的かつ情熱的に愛情を表現してきた一哲さん。足りないものを補い合うふたりの関係性がとても素敵です。
クリエイターならではの強いこだわりと、お互いへの愛情が共存しているからこそ、それぞれが自分に相応しいと思える指輪を選べたのでしょう。
「ふたりで一緒に選んだという事実の方が本質的には重要」。
まったくその通りだと思います。
聞き手:杉原賢
文章:Yuuki Honda
企画:Wataru Kiruta Nakazawa
写真:Eichi Tano
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