今世紀最大のホラーかもしれない。『ナイルパーチの女子会』
これは、ホラーだ。
なんて怖い本を借りてきてしまったんだろう。
終始、ゾクゾクとした寒気に襲われながらも、どうしても読むことを辞められず、一気に読んでしまった、柚木麻子『ナイルパーチの女子会』。
丸の内の大手商社で働く栄利子と専業主婦の翔子をめぐる“オンナの友情”の物語。
“おひょう”こと翔子が綴るブログ『おひょうのダメ奥さん日記』を通じて出会ったふたりは、年齢が同じということもあってすぐに意気投合。
「いい友達になれそう」という予感もつかの間、支配欲が強く、一気に距離を詰めようとする江利子に戸惑う翔子、自分を受け入れようとしない翔子に苛立つ江利子。
一度、おかしな方向に回りだした歯車は止められないのだろうか。
翔子に執着するあまり、江利子はまともな判断力を失い、職までも失う。
一方、翔子は翔子で、平穏で安泰だったはずの家庭を破綻させてしまう。
一緒に時間を過ごせば過ごすほど、心の距離はどんどん離れ、感情はこじれて、もつれて。
物語の終盤では、どちらも“お互いが、今日同じ時間にこの世界に存在する”という事実だけで、痛々しいほどに疲弊している。
怖いのは、江利子や翔子に似た人を知っているから。
あるいは、自分自身の中にも多かれ少なかれ、江利子や翔子に重なる性質があるから。
それにしても、女性の”ドロドロ”とした感情や関係性は日本のドラマでもよく描かれるけれど、男性同士にはこういうことはないのだろうか。
ないのだとしたら、このちょっと異様な人間関係は、どんな風に見えるのだろう。
タイトルの“ナイルパーチ”とはアフリカ熱帯域を中心に生息する淡水魚に由来する。
淡白な味で食用魚としても広く用いられるが、肉食で凶暴性が強く、生態系を壊してしまうことから「世界の侵略的外来種ワースト100」にも選定されている。
果たして江利子と翔子、どちらがナイルパーチだったのだろう。
幽霊や物の怪よりも、生きている人間がいちばん怖い。
つくづく、そう思う。
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