恋のために生きるって、こんな感じ?「とうへんぼくで、ばかったれ」
片思いをしているときの気持ちの内訳は、確かに
「会いたい、と、知りたい、でほぼ十割」かもしれない。
これは朝倉かすみ『とうへんぼくで、ばかったれ』の主人公・吉田のことば。
(文庫版は『恋に焦がれて吉田の上京』。うーん、このタイトルだったら手に取らなかったかも)
これを聞いて友人の前田は「ストーカーの動機の内訳ともひとしいような気がするんだけど」と首をかしげる。
そうだよねー、わたしもそう思うわ。
そういえば、なんだか終始、吉田と会話しているようだったな。
主人公は23歳の生娘・吉田。
ある日、契約社員として働いていたデパートの広告でモデルを務めることになった吉田は、撮影に立ち会った広告代理店の“仙人っぽい”雰囲気をまとったおじさん、エノマタさんに一目惚れ。
いつか会えないかと勤務先をうろうろしていたところ、代理店が倒産してしまう。
上京して再就職をしたエノマタさんの勤務先を突き止め、とるものもとりあえず上京。再びエノマタさんの勤務先近辺をうろつきつつ、じわじわ距離を縮めていく…。
すごいなと思うのは、恋愛経験ゼロの吉田が、さほど恋愛に興味がなさそうな40代のおじさんをゴリ押しで落とす熱量だ。
待って待って、そんなに?
確かに、誰かを好きになったり、仲良くなりたいと思ったりするとき、「この人のことをもっと知りたい」と思うけれども。
そんなに全部知りたくなっちゃうものだっけ?
それでいて、エノマタさんの家にあるキティちゃんグッズ(元カノの残骸だと思い込んでいる)のことだったり、自分についてどう思っているのかだったり、本当に知りたいことは聞けないから、せっかくおつき合いに至ったのに、つゆほども山田は幸せそうではない。
エノマタさんと一緒にいるはずなのに、ひとりでサイコロを振って、いろんなことを勘違いしたり思い込んだりしたままどんどん進んで、
まるで「ひとりすごろく」だ。
もはや年齢的にも、内面的にもエノマタさん側にいるわたしは、山田の勢いというか、止まらない爆走っぷりに思わず口が半開きになってしまうのだけれど、
自分にもこういう性質が、確かにあったように思う。
どう考えても怖いから取り戻したくないけれど、なにかに夢中になる感覚をすっかり手放してしまった今となっては、ちょっとだけ羨ましい。
そういえば最近、“推し活”に励むひとたちが楽しそうでいいなぁと思いながら眺めているんだけれど
“推し”がいるって、届かない、結ばれないという前提ありきの「会いたい、と、知りたい、でほぼ十割」なのかしら。