満月と優しい朝。
あの満月からもう1ヶ月が経っていた。
10月10日。朝から激しく降り続いた雨はいつの間にか止んでいて、絶好の”お月見日和”。
だが、仕事が多忙を極め連日の早朝からの勤務や休日出勤に疲れ果て、眠気に任せてまだ20時にもならないうちに眠りについてしまっていた。
●お月様が呼んでる
「満月の夜は浄化される」とか、「不満や不安が噴き出す」「精神的に不安定になる」「眠くなる」などと言われているが、もし本当にそうだとしたなら、私はその影響をかなり受けやすいのではないだろうか。
そのせいか前日からまた、仕事に関する不満や疑問、不安がこみあげ、それらを必死に抑え込んで激務に耐えたのだ。心身ともに疲れていたには違いない。
最近にしては珍しく、なかなかの長時間を睡眠にあててしまった。
どれくらい眠っていたのか。
外は寒かったはずだし、悪夢を見たわけでもないと言うのに、汗をびっしょりかいて目を覚まし、ふと窓の方に目をやると、まんまるな月がすっぽりと窓枠の中心に収まって見えた。
琵琶湖の方を向いた窓。
きっと今、琵琶湖へ自転車を走らせれば、水面に移る満月と琵琶湖の美しい写真が撮れるはずだ。
反対側の窓からはピンク色の朝焼けも見える。
適当に着替えを済ませ、朝の冷たい空気の中自転車を走らせた。
●奇跡のように美しく、優しい朝。
いつもの場所にたどり着くと、
月は思った通りに”いつもの風景”のど真ん中で淡く光っていた。
なんて綺麗なんだろう!夢中になってシャッターを押し続けた。
「おはようございます!」
誰かに明るく声をかけられファインダーから目を離すと、朝のウォーキング中だろうか?上品そうなマダムが笑顔で、でもどこか遠慮がちにこちらを見ていた。
きっと、私があまりにも周りに目もくれず写真を撮りまくっているものだから、声をかけては見たものの、こちらの反応が不安になったのだろう。
「おはようございます!」
マダムの明るく元気な声に思わず笑顔になって挨拶を返すと、
「お月さん、綺麗やねえ!」
それだけ行って彼女は颯爽と歩き去っていった。
ただ道ですれ違ったそれだけの知らない同士。
こう言う挨拶をするのは小学生以来かもしれない。
懐かしさと暖かさ、嬉しさが胸に広がった。
たったこれだけのやりとり。もう会うこともないかもしれない。
だけどマダム、ありがとう。
あなたのおかげで、その一瞬の心のふれあいで、今日は1日の始まりが素晴らしい物になりました。
さわやかな気持ちで帰路についた私の目に
飛び込んできたのは、反対側から登る金色の朝焼け。
東を向けば太陽が登り、西を向けばまんまるな月が沈んで行く。
見知らぬ人と言葉を交わし、心満たされる。
まだ癒えぬ傷や、不安や疑問、迷い、憤りや悲しみ、それらを一瞬にして拭い去ってくれるような、奇跡のように美しく、とても優しい朝だった。
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