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「子どもと学ぶ、子どもに学ぶ、リベラルアーツ」 〜2024.9.29(日) リベラルアーツをコネコネするイベント 「リベコネ」第1部 シンポジウム レポート〜

「リベラルアーツ」。
「難しいもの?」「大人になってから学ぶもの?」などのイメージがありますが、実は、私たちの身の回りには、リベラルアーツのエッセンスがあちこちに転がっています。
気軽に、普段着のままでリベラルアーツに“コネコネふれる”ことができるイベント「リベコネ」が、2024年9月24日(日)、東京都調布市の「ドルトン東京学園」で開催されました。
第1部のシンポジウム「子どもと学ぶ、子どもに学ぶ、リベラルアーツ」では、教育、子育て、そして社会におけるリベラルアーツの役割について活発な対話が交わされました。
(文章・構成:長島ともこ、写真:Gen Nakagawa


リベラルアーツをコネコネしよう

リベラルアーツをコネコネするイベント「リベコネ」。
主催者は、「自由」と「協働」を教育理念に掲げる中高一貫校・ドルトン東京学園 中学・高等学校校長の安居長敏さん、
信州大学キャリア教育・サポートセンター特任教授であり空き家プロジェクト「nanoda」代表もつとめる山田 崇さん、
子ども時代からのリベラルアーツを掲げるラーニング・コミュニティを運営する「一般社団法人ダイアローグ・ラーニング」代表の井上 真祈子さんの3名です。

オープニングトークで、安居校長先生は、
「ドルトン東京学園は、100年前にアメリカで誕生したドルトンプランをベースに、生徒自身が自分で考える自由を最大限もった上で、教科の学習や探究的な学びのなかから自分の将来に向けての歩みを自分でつくっていく学校です。今日のイベントのさまざまなエッセンスを校舎の隅々に刻んでもらえたら、本当に嬉しいと思います」

井上真祈子さんは、
「リベラルという言葉には、『自由』のその手前に『寛容』という意味があると言われています。自由を獲得するためには、子ども時代から精神的な自立をしていくことがとても大切という思いで活動するなか、より多くの皆さんにリベラルアーツを知っていただきたいと思い、このイベントを企画しました。これから過ごすひとときを、ぜひお楽しみください」と、本イベントへの思いを語りました。

第1部のシンポジウム「子どもと学ぶ、子どもに学ぶ、リベラルアーツ」には、3名のゲストが登場。

進化思考』の著者で、デザインアクティビスト・デザインストラテジスト、慶應義塾大学大学院SDM 特任教授などさまざまな肩書きを持つ太刀川英輔さん(5歳と2歳の子どもの父親)、

東大8年生 自分時間の歩き方』の著者で、作家活動、プロスポーツ選手に語学や異文化コミュニケーションを教える活動に取り組むタカサカモトさん(8歳と1歳の子どもの父親)、

マインドフルネスに関する著書を多数執筆し、マインドフルネスベースのリーダーシップや組織開発のプログラムの提供、「IDGs」(内面の成長目標)の普及活動などを行う荻野淳也さん(13歳の子どもの父親)です。


会場には、教育関係者、子育て中の親をはじめさまざまなバックグランドをもつ人々が集い、山田さんのファシリテーションのもと、“リベコネシンポジウム”がスタートしました。


「“周りの人の物語の登場人物”として自分がいる」〜タカサカモトさん〜

「今日のテーマは『子どもと学ぶ、子どもに学ぶ、リベラルアーツ』。今、皆さんのいちばんの関心はどこにありますか? 子ども“と”学ぶことに関心がある方はグー、子ども“に”学ぶことに関心がある方はチョキ、リベラルアーツそのものに関心がある方はパーを、『せーの』であげましょう」


山田さんからの問いかけに、参加者の皆さんは思い思いにグー、チョキ、パーを示した後、近くの人同士でグループになり3分間対話。
「リベラルアーツに興味があって本を読んだりしているのですが、そのコアがよくわからないので、少しでも知ることができればいいなと思い参加しました」
「二人子どもがいて、まさに今、子ども“に”学んでいる実感があり、チョキをあげました」。
会場のあちこちでそれぞれの関心の一端について共有し合う対話の場が生まれ、和やかなアイスブレイクタイムとなりました。



続いて、ゲストの方それぞれの生きざまとリベラルアーツについて、インタビュー形式で掘り下げていきました。

タカサカモトさんは、鳥取県で育ち、自身の将来について考えるなかリベラルアーツと出会い、東京大学文学部へ。「とにかくいろんな人に会って話をしよう」と決めて実行に移すも、最終的にやりたいことが定まらず、休学。旅先でのひょんな縁からメキシコにわたり、国費による奨学金プログラムに応募してスペイン語を学ぶ中で地元のタコス屋さんと出会い、タコス屋さんで働きました。その後ブラジルに渡り、世界的サッカー選手・ネイマールをサポートするなどさまざまな経験をしてきました。現在は地元に戻り、リモートワークで国内外のプロサッカー選手のサポートやリベラルアーツの学び場づくりなど、多岐にわたる活動を行っています。

これまでの経験を「ドラゴンクエスト」のゲームにたとえながらユーモアたっぷりに語るタカさんは、「他者とつながり、他者の懐に飛び込むなかで自分の人生を切り開き、他者に還元する人生」を歩んできています。
「“周りの人の物語の登場人物”として自分がいる、という感覚で生きています」と言うタカさん。


「学生時代、宮本武蔵のようにただひたすら己を高めていく強い生き方に惹かれながらも、自分の弱さに気づき、自由にのびのびと生きている人たちとの出会いを通じて『自分のこれまでの考えは間違っているのではないか』と思うようになりました」と、現在の生き方に至るまでのご自身の学びや葛藤についてお話くださいました。

タカさんのお話から、リベラルアーツは、固定観念や単なる学問ではなく、多様な視点から物事を捉えること、常に学び続け、自分自身を成長させるためのツール、生き方そのものであることが伝わってきました。

お子さんとの関わりにおいても、「5歳の長男が好きになったものは、自分もなるべく好きになるようにしています。長男はWBC をきっかけに野球が大好きになりまして。僕自身、野球には興味がなかったのですが(笑)、野球の仕事を意識的に増やしたり、息子が通う野球教室でボランテイアをしたりなど、『子どもの生きている世界観を共有したい』と思いながら生きている感じです」(タカさん)

これからのリーダーに必要なのは、IQ(知能指数)よりもEQ(感情知性)〜荻野
淳也さん

荻野淳也さんは、大手住宅メーカーから外資系コンサルティング会社に転職して株式上場のプロジェクトリーダーをつとめ、華々しいキャリアを積みあげていました。しかし、1日18時間〜20時間勤務という多忙な日々の中で、心身ともに疲弊し燃え尽き症候群を経験。

この時期にたまたまヨガを体験し、キャリアアップだけが人生の全てではないことに気づき、心の健康の重要性を痛感しました。その後、ヨガスタジオ運営会社に転職し、フランチャイズ事業の立ち上げや法人向けヨガプログラムの開発などを経て独立。
Google社が開発したマインドフルネスプログラムを日本に広め、現在は日本の大手企業やリーダーにマインドフルネスベースのリーダーシップや組織開発のプログラムの提供、「IDGs」(内面の成長目標)の普及活動などに取り組んでいます。

「リーダーシップトレーニングを行っていると、自分の弱みを見せられず、成功を求めるあまりに心の健康を損なっているリーダーにたくさん出会います。しかし近年は、リーダーが自分の弱さを認め、オープンに表現することの重要性が注目されています。これは、『ヴァルネラビリティ』(=脆弱性、脆さ)と呼ばれる概念で、心の柔軟性や人間関係を深める上で欠かせない要素であると考えられています。

また、これからのリーダーに必要なのは、IQ(知能指数)よりもEQ(感情知性)。ドルトンさんの教育理念にも通じる部分があると思いますが、自分の感情をちゃんと知って、状況に応じて適切な行動をとる能力であるEQは、リーダーシップを発揮する上で非常に大切です。私自身、これからも多くの人々と共に成長し、自分の感情をマネジメントできるリーダーを育てていきたいと思います」
(荻野さん)


答えのない時代には、多様な意見を尊重しまとめ上げていくリーダーシップが求められます。ソクラテスが弟子たちとの対話を通じて真実を見つけたように、対話をしながら学ぶリベラルアーツは、リーダーを育てる実践的な学びだとわかります。

お子さんが13歳になり、「父親と遊ぶよりも友達と遊ぶほうが楽しいと思うようになっているようで、少し寂しいです」という荻野さん。
「子どもが小さいときは『子ども“と”学ぶ』だったのが、成長につれ、『子ども“に”学ぶ』に変わってきています」。


子どもはエラーの達人。でも大人は子どものエラーを抑制しがち〜太刀川英輔さん

2023年12月『進化思考 増補改訂版』を出版した太刀川英輔さん。増補改訂版では、「終章 教育の創造的進化」でリベラルアーツに触れています。太刀川さんには、「進化」の視点から捉えるリベラルアーツについて語っていただきました。

古代ギリシャに起源を持つリベラルアーツの出発点は、「自由7科」。7科は「3学」と「4科」に分けられ、主に言語にかかわる3科目=「文法」・「修辞学」・「論理学」と、数学にかかわる4科目=「算術」・「幾何」・「天文」・「音楽」からなっています。

太刀川さんは、リベラルアーツの「3学」を、自然界の進化における「変異」と「自然選択」に例えています。

「自然界の進化は、偶然の変異と自然選択によって生物が変化していく過程です。この過程においては必ずしもすべての生物が生き残れるわけではなく、環境に適応したものが生き残ります。

リベラルアーツを構成する『3学』は、この視点から捉えることができます。
言葉遊びや、物事を別の視点から捉える『文法学』は新しい発想を生み出す力につながり、自然界における変異に当たると言えるでしょう。物事の因果関係を考え、論理的に思考する力を養う『論理学』は、自然選択において、ある特徴が生き残るための必然性を問うことに似ています。自分の考えを効果的に伝える力を養う『修辞学』は創造的提案であり、新たな発想による変化と同時に論理性が必須です。文法学と論理学を往復し、創造的な言葉を紡ぐ練習だったのではないでしょうか」

その上で、リベラルアーツを学ぶ上で大切なのは、「エラー(失敗)を恐れないこと」であり「観察力を育むこと」という太刀川さん。


「子どもはエラーの達人です。でも大人は、子どものエラーを『危ない』と思ったり、エラーすること自体をおそれて抑制してしまいがちで、そこに疑問を感じています。また観察からエラーに意味を見い出す力をどのように鍛えるのか。この往復が、僕にとってのリベラルアーツです」

太刀川さんの言葉に、安居校長先生は、
「私たちの学校では、生徒一人ひとりが自分自身の考えを持つことを大切にしています。大人たちが経験してきたことを伝えることは大切ですが、それが必ずしも正解とは限りません。生徒自身の経験を踏まえ、何が正しいのかを自分で判断する力こそが重要だと考えています。
『進化』という言葉は、より良い方向へ進むこと、つまり、向上や成長を意味するものとして捉えられます。しかし、教育の現場では、この『進化』という言葉が、特定の価値観、例えば良い成績を目指すことというように狭く解釈される傾向があるように思いますが、これはやめたほうがいい。『上へ上へ』と進むだけではなく、時には後ろに下がったり、横へ進んだりすることも、その子の成長にとって大切なステップなのだと思います」と話しました。


「確かにそうですね。進化とは、かならずしも前に進む変化ではないですからね」と、太刀川さん。

荻野さんは、こう続けました。

「今日参加している子どもたちに伝えたいのは、大人のいうことを鵜呑みにせずに、疑ってかかってほしいということ。物事をありのままに見て、好奇心のおもむくままに、『なんでだろう?どうしてだろう?』と疑問に思うことを大切にしてほしいですね。自分で考え、自分で答えを探すことが、創造性や新しい発見につながるはずです」

シンポジウムでは、リベラルアーツを軸に、教育、子育て、そして社会における個人のあり方について、多角的な視点から対話が深まりました。
参加者たちも、それぞれの経験や考えを共有し、互いに学び合う貴重な機会となりました。




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