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まるで夢みたい、すべて現実味がない。映画「迫りくる嵐」を見る(※ネタバレあり)。

2017年公開の中国映画である。同年の東京国際映画祭において、最優秀男優賞と最優秀芸術貢献賞を獲得した。主演男優は、ドアン・イーホン。監督はドン・ユエ。長編映画として初の監督作品となるという。
 
最初、話の流れがなかなか理解できない。

白髪交じりの男が、刑務所の出所手続きをしている。身分証明書の発行は来週となること、入手するまで市域を出てはいけないこと、20元の手数料がかかること、などを告げられる。

レンガ塀に沿った通りを歩く。天気は晴れ。振り返ると、誰かがサイドカー付きのバイクに乗って、こちらに向かってくる。
バイクに乗った人物のアップ。また切り替わって白髪まじりの男。
顔にズームアップする。何かに気が付いた。
バイクに乗っているのは昔の自分だ。
バイクの男にまたカメラが戻って、回想シーンがスタートする。

時は、1997年。
回想のなかでは、いつも雨が降っていて、ずっと重苦しい雰囲気。
映画は救いようのない話だ。
 
主人公の名は、ユイ。大規模な工場の警備員をやっている。
工場内の窃盗やもめ事を解決しているらしい。
工場で模範工員として表彰を受け、スピーチもする。

工場近くの事件現場に向かうところだった。
途中でバイクが故障してしまう。

3件目の連続女性猟奇殺人事件が起きた。手口はいつも同じ。よく似たタイプの女性が、ナイフで殺される。ユイは警察の手助けをしながら、情報を得る。警察から、工場で探偵といわれていることを揶揄されるが、意に介さない。犯人が工場の従業員に違いないと見込んで、独自の捜査を行う。


 
ユイには夢がある。捜査で手柄を立てて、警察に取り立ててもらうこと。
 
警察の検証の終わった現場で、鍵を見つける。工場の掲示板に写真を掲げ、反応する工員がいないか監視する。写真を注視する工員に近づくと、逃げ出した。
工場の敷地内を追いかけ、もみ合いになるが、あと少しのところで敷地の外に逃がしてしまう。追跡の過程で弟子が、高所から転落し、頭を打って死ぬ。もっと早く病院に連れて行けば、助かったかもしれない。


 
自責の念からますます捜査に熱を入れる。
恋人のイエンズをおとりにすることを考える。


 
チンピラに絡まれているところを、助けて懇意になった仲だ。
飲食やカラオケなどで接待する仕事に就いているようだ。
 
美容院を用意し、接待の仕事をやめさせる。
犯人はその街で、被害者を物色するらしい。近くの飲食店から監視する。
 
ユイはゆきずりの女性とは関係を持つが、イエンズに求めはしない。本当の恋人とは思っていない。だから、おとりにするという発想になるのだろう。
 
その企みが発覚する。
 
イエンズにとって、ユイは自分に好意を持って、美容院まで持たせてくれた存在だった。
そのユイの本心が、おぞましいものであったと知り、ショックを受ける。
深い失望を味あわせてしまう。ユイはイエンズを失う。

 そのときまで、自分の行為が残酷なものであったことに思い至らなかった。
 
失ったものは取り戻せない。しかし代償の大きい賭けに次々と挑み、ますます深い傷を負う。だんだんと狂気に陥り、最後には犯罪に走る。



 
出所後、2008年、ユイは工場が取り壊されるという報道に接する。工場に忍び込んで、模範行員として表彰を受けた講堂に立ち入る。そこにいた昔を知る老人に、警備員が模範工員として表彰を受けることはない、そんな事実はなかったと否定される。
 
イエンズの残した、「まるで夢みたい、すべて現実味がない。」という言葉が沁みる。

ダークなサスペンス映画である。
だが、サスペンス要素よりも、喪失感が観る者の胸に刺さる。


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