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無名に勝る。映画「悪の偶像」を見る。

もくじ
1.ストーリー
2.加害者と被害者
3.アイドル
4.『悪の』偶像

1.ストーリー

市議会議員のミョンヒは、ある夜息子ヨハンが飲酒運転中に人をひき殺してしまったことを知る。政治家の危機に直面したミョンヒは、密かに揉み消し工作を実行するが、被害者の新妻であるリョナという女性が事故現場に居合わせ、行方不明になっていることが判明。事実が明るみに出るのを恐れたミョンヒはリョナを見つけ出そうとする。一方、小さな工具店を営む被害者の父ジュンシクは、リョナが妊娠していると知り、何としても彼女を捜し出すことを心に誓う。かくして別のルートで“消えた目撃者”の行方を追うふたりの父親は、耐えがたい葛藤に胸を引き裂かれながら、後戻りできない“罪”の闇に足を踏み入れていく…。

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2.加害者と被害者


話の展開が意外な方へと、意外な方へと逸れて行き、全く先が読めない。
 
息子がひき逃げ事件を起こした。その父親の市会議員は、もみ消しを図る。被害者は知的障害のある青年だ。小さな工具店を営む父親が事件の実態に迫る。実は単純なひき逃げ事件ではない。
 

映画は、被害者の父親が、市会議員の正体とその隠ぺい工作をあばき、社会的制裁を加える話だと思った。だが全く違っていた。
 
被害者である息子には、新妻がいた。新婚旅行の最中の事故だった。だが事故以来、行方不明になっている。妻は、中国東北部、延辺からの入国者である。市会議員は、妻が事故を目撃していることを恐れ、その行方を探る。実は目撃されていては、まずいことがある。被害者の父親も、妻が子供を授かっていると知り、関係者を辿り、捜索する。
 

ここで映画は、被害者の父親が息子の残した妻と、お腹の子供を、市会議員の魔の手から守り、社会的制裁を加える方向に進むのかと思う。だが、それもまた違うのである。
 
映画は徐々にサスペンス色を強めていく。妻が入国した経緯、その素性も少しずつ明らかになっていく。
 
その一方で、市会議員は知事選にくら替えして出馬することを目論んでいる。息子のスキャンダルは、致命傷か。政治生命は断たれるのか。
 

話は予想外の方向に転がり、フラストレーションはたまる。最後に沸点に達する。だがカタルシスは得られず、ストレスは残ったままである

3.アイドル


原題は、우상(ウサン)、英語のタイトルが”Idol”、「アイドル」である。ファンを持つ歌手、俳優、タレントなどの意味で現在は使われている。本来の意味では「偶像」であり、ここから現在使われているアイドルの意味が派生した。
 
さらに語源をさかのぼると、フランシス・ベーコンの言う「イドラ」である。人間が陥りがちな偏見であるとか、先入観などの意味を持つ。偶像崇拝の偶像でもある。
 

4.『悪の』偶像


日本公開は2020年のことだ。見たときには、ラストに納得がいかなかった。そうはならないだろう、あり得ない話だ。
 
ところが、昨今の日本を見ると、残念なことだがこの映画のラストに状況が近づいているように思える。
 
 悪名は無名に勝るってね。
 
偶像になりたい者がいて、偶像を作る者もいる。それよりも偶像を信じたい圧倒的多数の者がいる。
 
映画の内容を考えると、日本語タイトルが単なる「偶像」ではなく、「『悪の』偶像」としたのは象徴的だと言える。
 
さて誰が「悪の偶像」なのだろう。先入観に囚われているのは誰だ。


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