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【権威への服従】呪いにかかった人に、希望を配る
一人ひとりの「希望を配る」力は小さなものでしかないかも知れませんが、一人が十人に希望を配れば、その十人が次の百人、百人が千人に、千人が万人につながっていくわけですから「バトンを渡す」つもりでやっていければ、それで良いのじゃないかなと思うわけです。
今から一年前、上記note記事を読んだ私は「山口周に、俺はなる」と硬く決意をしました。
今でも読むたびに私の「たいまつの火」が燃え滾る、大好きな記事です。
皆さんが私と同じように「山口周になる」などといった決意をする必要は全くありませんので、まずはぜひ一度お読みいただきたいなと切に願います。
権威の変遷
さて、今回のキーコンセプトは「権威への服従」なのですが、この「権威」という概念・・・というより「現象」と書いた方が正しいかもしれません。これほど合理的的な思考では決して割り切ることのできない、奇怪な粘性がこびりついた厄介な現象も他にないように思います。
言語学的にこの「権威という現象」がどういう概念を持って生み出され、発展してきたのかを考えると、そのはじまりは特定の集団が共通の規範を共有する過程で、指導者に対する敬意や従属の表現として形成され、定着したものと考えることができます。
実際に多くの言語で権威に相当する言葉は、「力」「支配」「法」などの意味を含む語根に由来しており、統治や秩序の概念と関連していますしね。
たとえば、権威を意味する英語の "authority" は、ラテン語の "auctoritas" に由来しており、これは「創設者」「保証人」「証明者」といった意味を持ちます。もともとは「価値のあるものを生み出す人」や「保証する者」を指しており、これが時間と共に「尊敬されるべき存在」や「法的な力を持つ存在」としての意味として発展していきました。
最初に「auctoritas」という概念を深く議論した古代ローマの政治哲学者キケロは、「auctoritas」を「尊敬や信頼をもとにした権威」と捉えました。この時期の「auctoritas」は、単なる力ではなく、知識や人格に対する社会的な信頼に基づくもので、リーダーや国家の正当性を支える要素とされました。キケロの考えは、その後のラテン語圏における権威の基本概念となり、時代が進むにつれて教会や学問の権威としても用いられるようになります。
中世になると、キリスト教神学者のトマス・アクィナスが「auctoritas」をさらに宗教的な意味で発展させます。彼は権威とは神の意志の表現であり、教会や神聖な教えを通じて授けられるとしました。アクィナスの貢献によって教会や聖書の「auctoritas」が強化され、これが英語の「authority」という単語へと、この宗教的な文脈を引き継ぎながら国家や法、聖職者に対する尊敬を表すようにと変遷していきます。そう、権威と宗教のマリアージュです。
これが近代に至って、マックス・ヴェーバーが「authority」の概念を世俗的・法的に再解釈します。彼は「authority」を、宗教的権威ではなく、「伝統的権威」「カリスマ的権威」「合法的権威」の三つに分類しました。
ちなみにヴェーバーの西洋史観的に類型化されたこの概念の整理については、「カリスマ性」と「フォロワーシップ」を育む「共感の重要性について」として、以下にまとめています。
権威はもともと道徳や倫理、法に基づく理想的な統治や秩序の維持のためのものであり、多くの人にとって「高潔で純粋なもの」として理解されてきました。しかし、実際にはその権威が悪用され、腐敗し、私利私欲や権力の維持に利用されるケースが少なくありません。
なぜ、権威は理想から逸れてしまうのでしょうか?
いったん権威が制度化されると、それがしだいに形式化し、柔軟さを失っていきます。権威は本来、社会の状況に応じて変化すべきですが、権威を維持するための制度や規則が硬直化することで、その役割が形骸化してしまうことが少なくない。こうした「形式的な権威」はやがて本来の理想から遠ざかり、ただ「存在するために存在する」ようになっていってしまうのです。
存在するために存在する権威という概念が、今日の私たちが所属する組織や企業において、一人ひとりがやりがいを持ってエンゲージメント高くビジネスに貢献するために寄与してくれるでしょうか?
到底、そうは思えません。
毎日少なくとも数回は目にする「目下の者が目上の者に迎合する」「本音では何かがおかしいと思っていても意見ができない」といった、このような「現象」が起こっている背景には、実はこうした背景があるわけなのです。
「権威への服従」を解明したアイヒマン実験
はじめに「権威への服従」とはどのような状況かを簡潔に述べておくと、「特定の人物や組織が持つ権威を認識し、その指示や命令に従う態度や行動」ということです。
私たちは一般に、人間には自由意志があり、各人の行動は自分の意志に基づいていると考えます。「自分は権威に服従している」と自己認識している人は、そう多くはないでしょう。
しかし、ちょっと待って。
一般的なビジネスパーソンの方であれば、上司やボスからの指示や命令に反抗することなく従順に応じていると思います。「確かにそうかも」と感じる方がいらっしゃれば、それは自然なことかもしれませんが、もしかすると、ちょっと要注意かも知れません。
ナチス・ドイツの戦犯であるアドルフ・アイヒマンは、「アレだけ」の大量虐殺を実行する中心的役割を担いながら、1961年にイスラエルで行われた、通称「アイヒマン裁判」において、「上官の命令に従っただけだ」「自分には命令に従う義務があった」と述べ、個人的な責任はないと主張しました。
確認しておけば、第二次世界大戦中の1941年から1945年にかけ、アイヒマンはナチス・ドイツのホロコースト政策において、ユダヤ人約600万人の大量虐殺を可能にするオペレーションを立案し、そして実現せしめた人物です。
戦後、初めてドイツ国外でナチス戦犯を裁く大規模な裁判であり、ホロコーストの実態が広く知られるきっかけとなったアイヒマン裁判は当時、世界的に非常に大きな注目を集めました。
このアイヒマンの弁明に注目し、「普通の人でも、上からの命令に盲目的に従うことで残酷な行動を取るのか?」という問いを解明しようとしたのが、当時28歳のイェール大学助教授であったスタンレー・ミルグラムです。
彼は「権威」と「服従」の関係を探ることで、人間の行動の本質に迫ること目指し、おそらく社会心理学史上もっとも有名な実験であろう、所謂「アイヒマン実験」を行います。
この実験では、被験者は「教師」役となり、テストに間違えた「生徒」に電気ショックという罰を与えるよう指示されます。実際に電気は流れませんが、被験者は命令に従い続け、最終的には高い電圧まで指示に従い続けます。結果的に、権威への服従=命令に従い続けることで、人は非道な行為であったとしてもそれを行えることを示した、という大変有名な実験です。
と、ここで冒頭に次いで再度のご紹介ですが、このアイヒマン実験の「詳細について知りたい」と言いう方は、ぜひ以下の記事を読まれてください。私にはこれ以上に面白く書くことが出来ませんので。せっかくなら「自分だったらどこで拒否をするかなあ」と考えてみながら読むことをお薦めします。
と言いながら、ここで研究についてのネタバレをしてしまえば、「被験者の65%が苦痛を与えろという命令に無批判に従う」という結果が出たのですが、この記事(研究)の面白いのは、この研究結果の「裏側」にあります。
というのもこの研究結果は、言わばレコードでいう「A面」でしかなく、実は後日談となる「B面」が存在しており、それがなんと研究から10年も経ってから公表されます。
その公表によると、アンケートの中にあった「あなたはこの状況を、どれくらい信じられると思いましたか?」という問いについて、回答者のほぼ半数が「この実験はフェイクだと気づいていました」と答えているといいます。
となると、当然ながら実験の結果は変わりますね。A面の実験結果だけを観れば、約2/3の被験者が権威に服従していた、しかしB面のアンケートを確認すると約半数の被験者しか権威に服従していなかった。
つまり端的に言って、この実験は茶番だったということなのです。
さあ、「私の記事」が面白いのは、ここからです。
権威に対する文化的態度
実験においてフェイクだと気づきながらも参加した被験者の心理としては、おそらく権威への無条件な服従ではなく、疑って考えること、つまり「クリティカルシンキング」によって、権威者を完全に信じたわけではなく、むしろ一定の距離を持ちながら従っていた「フリ」をしただけなのでしょう。
これは日本の権威主義的な傾向とは異なり、欧米社会の「反権威主義」的な側面が影響していると言えます。
欧米社会の権威に対する反発の背景には、個人の自由な権利が何よりも重んじられる価値観が存在しています。学校教育や職場でも、上司や教師の指導に対して「なぜこれをするのか?」という問いかけが当たり前とされ、自ら考える力や批判的思考が奨励されていますからね。
一方、日本においては、伝統的に「空気を読む文化」が根付いています。組織における立場が明確に定められており、上司や目上の人に従うことが、信頼関係の維持に重要とされています。そのため、上司の指示に素早く応じるということを重んじる傾向がとても強い。
皆さんの周りにいる方々が、上司に対して返事をするその「速度」を見てください。まあ速いこと。それだけではない。顧客からのレスポンスも速い。東京などの都市部に行くと皆さん歩くのも速い。急ぎ過ぎて進行方向とは真逆のエスカレーターに乗り込もうとする人を何度この目にしたことか。朝起きるのも出社するのも早い。真面目で優秀な人が非常に多く、そんな人ほどとにかく速い。極めつけには牛丼の提供までも速くなければならない始末。
せっかく一度きりの生を受けたのに、生き急いでるのでしょうか?いえ、日本の歴史を見てみると、これは仕方のないことだと言えます。
日本は長い間、天皇という権威者に受属する「武士」という権力者らによる支配階級による統治が続き、上下関係や礼儀が重視されてきました。武士が職務の一環として持っていた権威による特別な権限に「問答無用」と「切り捨て御免」というものがありますが、このスキルの重ね技がとんでもない。
「切り捨て御免」は、武士が「侮辱された」と感じた際や、治安を乱す者に対して、刀で処罰することを許された権利です。たとえ庶民にその気が[なかったとしても、武士側にとってほんの少しの粗相でもあろうものなら「は?コイツ気に食わねえな」と感じた途端に「問答無用!」と言って、本当に問答などする暇も与えられることなく、叩っ斬られてしまうのですから。
その場の庶民の立場に立ってみましょう。「よっしゃ!目の前に武士が来たぜ!何て問答したら俺も武士になれっかな~♪」なんて考えているうちに切り捨てられて、自分の人生に御免なさいをする羽目になってしまいます。
では、どうするか。
ありったけの気力を振り絞って、目の前の武士の機嫌を損なわない、あるいは、どうにかして気に入られることのみを、「ノータイムで考える」はずです。それはそれは、「空気を読む速さ」がなければ生きてなどいけません。
私は、徳川家康という人物は、非常に罪な人だなと思います。彼が築いた幕藩体制は、確かに長期の平和と安定をもたらしましたが、その代償として、日本社会に「空気を読む」ことが絶対視される風潮を根付かせた罪もあると言えると考えているからです。
家康が「安定」の名のもとに築いた封建的な秩序は、上位者に無条件に従うことを美徳とする文化を広め、日本人の「権威」への態度を大きく変えてしまいました。つまり、家康の時代から始まった「支配の秩序」が、日本社会において上位者の意向を素早く汲み取り、権威者に対して異を唱えず従う、ということを求める風土を定着させてしまったのです。
こうやって考えてみると、日本人がクリティカル・シンキングを苦手とするのも、ある意味で仕方のないことだと思うのですよね。
ビジネスの時代はもう、安定ではいられない
家康が築いた安定の時代は、ペリーの来航によってグローバル化、つまり不安定な状況に一変しました。幕末から明治維新にかけて、多くの人物がこの不安定な時代の中で戦い抜き、日本は長い戦乱を経て第二次世界大戦では焦土と化しました。その後の高度経済成長期により、ようやく社会が安定を取り戻しましたが、現代のビジネス環境は再びグローバルとの競争という不安定な状況に突入しています。
歴史が繰り返されるのであれば、ビジネスの時代はもう、安定ではいられないのです。
この記事をお読みの方の多くは、ビジネスパーソンとして企業勤めをされていらっしゃると思いますので、どうぞご自身の所属する組織や周りの方々を見渡してみるとイメージがしやすいのではないかと思います。
日本企業において「権威」は組織の秩序や安定を保ち、効率的な業務遂行を支えるものとして重視されがちです。年功序列や先輩後輩の関係が大切にされ、組織の中での「権威」は、安定したビジネス運営を維持するための基盤として機能しています。こうした「権威を尊重する」企業文化は、伝統的な価値観や組織全体の調和を重んじる考え方に支えられています。
しかし、現状はどうなっているでしょうか?
確かに長く勤続することで地位が上がり、出世が約束された時代もありましたが、企業が長期的な雇用保障を維持するこは既に困難になりました。
この記事を書き始めた11/8の日経新聞の一面を飾ったのは「日産、世界生産2割減 9000人削減し三菱自株一部売却 」というリストラ発表の記事です。この人数は全従業員の7%といいますから、もの凄い規模のリストラです。
今年はオムロンや武田薬品など大手のリストラが相次いでいますが、これが現状です。多くの企業が組織の効率化を図る中で、組織構造がフラット化しており、管理職や役職のポストが削減している。
つまり「座れる椅子」が、もうほとんど残っていないんですね。
多くの企業で、権威に縋り付いても出世できるポストが既に埋まっているか、そもそも役職そのものが減っていく。出世の機会があったとしても、外部からの優秀な人材や即戦力を求める企業が増加しているため、社内でただ待っているだけでは、もうポジションを手に入れるのが難しい。
面白い話を耳にしました。
今年、放送作家を引退された鈴木おさむ氏の話によると、フジテレビの社長室があるフロアを、出世を切望する中堅クラスの社員が一日に何度もフラついている。鈴木氏が「あの社員はこんなところで何をしているのか?」と、詳しい人物に質問したところ、「偶然を装って社長の目に留まり、どうにか話すチャンスを狙っている」という回答があったそうです。
権威に取り憑かれてしまった、バカです。私は悍ましさしか感じません。
さて、話を戻せば、今やあらゆる業界でグローバル市場への進出は避けられない選択肢となり、各企業が「グローバル基準」にシフトせざるを得ない状況にあることは、今さら言うまでもありませんね。
これに伴い、日本企業も西洋の文化や価値観に対する理解を深めるだけでなく、今後のグローバル・マーケットを見据えた戦略が求められるようになりました。しかし、欧米、つまり先進国市場には、もはや大きな成長余地がほとんど残されていません。さらに、中国市場もリスクが増加する中で、多くの企業が撤退を進めています。
現在、急成長を遂げつつあるインド市場は、日本企業にとっても大きなチャンスに映りますが、そこにはすでに欧米の強力な企業が激しい競争を繰り広げています。こうした状況において、日本企業が新興市場で優位に立つには、単なる製品やサービスの輸出に留まらず、独自の価値や戦略を創出する必要があるのです。
これに対する解決策は、おそらく二つあると思います。
一つは、現状の組織や上司の権威に対してクリティカルに向き合うことです。サステナブル・ビジネスを超え、真に持続可能である「クリティカル・ビジネス」のあり方を真剣に検討すること。
もう一つは、自分の人生をクリティカルに見つめ、未来のために今を犠牲にしないこと。個人としての豊かな人生を追求し、無理に過去から続く流れ、つまり権威に無批判に従うのではなく、自分自身の価値観に基づいた人生の選択ができるようにすることです。
権威への服従という呪いから、目を覚ます
最後に私から皆さんへ提案したいこととして、私たちは「どうせ無理だ」「失敗するに決まっている」といったネガティブな言葉や、「あなたのためを思って言っている」「君のためなんだ」といった、一見するとポジティブな言葉からは、もうそろそろ「オサラバ」をしても良いのではないか?というものです。
こうした言葉を鵜呑みにしてしまうと、「無理をするだけムダ」「期待に応えなければ」といった自己暗示をかけ、自らの行動の選択肢を減らし、挑戦する意欲や新しい方向性を見出す力が、知らないうちに奪われていきます。
こうした言葉のことを、「呪い」といいます。
「呪い」というのは「人から行動の自由を奪う言葉を用いた情報」です。
これは、批判や否定的な言葉や過剰な干渉などを通じて、他者の行動や可能性を制限します。
こうした呪いに対して、本来であれば人は反抗し、反対の意見を述べる力を持っています。
私たちは、自分の可能性や自由を制限しようとする言葉に対して「それは違う」と言う権利を生まれながらにして備えているのです。
しかし、権威者から浴びせられる呪いの言葉があまりに強力だと、反抗する意思さえ萎縮し、自己の心の声は、かき消されてしまいます。
自由を求める内なる力があるにもかかわらず、いつしか他者の期待や価値観に従うことが「正しい選択」であると感じるようになってしまうのです。
あるいは、私たちの身の回りを見てみてください。
現代の科学者や専門家といった「エリート軍団」は、権威を帯びた知識や技術を活用し、数々の「誘引装置」を開発して私たちの意識と選択を無意識のうちに操作しようとしています。
無限に消費を促す画面、飽食を可能にする食品、注意を引きつけるニュース、果てしないゲーム、中毒性のある薬物などは、まるで現代社会が設計した「服従の装置」のようです。
この仕組みから自律性を取り戻すためには、権威にただ付き従うのではなく、何が私たちにとって本当に価値あるものかを見極め、意識的に選択する力を養うことが不可欠です。
「いつか終わりが来るからこそ、すべては美しい。そなたは今より美しくなることはないし、この瞬間が二度と来ることもない」
今ここにしかない瞬間を、権威的な誰かの意図に流されるままに過ごしてもよいのでしょうか?
それとも、今この瞬間を、自分自身の選択で彩るべきなのでしょうか。
僕の武器になった哲学/コミュリーマン
ステップ3.真因分析:そもそも、この問題はなぜ起こっているのか、問題の奥に潜む真因を突き止める
キーコンセプト39「権威への服従」
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