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夏の裁断/島本理生

これはまたやってくれたなって思った。島本理生さんやりやがった、と。もうこれは誰が読んでも島本理生著書だよって。

柴田に振り回される千紘。猪俣君を振り回す千紘。
なんというかすっきりしないお話。でも、恋愛ってこんなもんだなと。恋愛じゃないや。男と女の関係なんてこんなもんだ。って思う。柴田さんのような人にも身に覚えがあるし、猪俣君のような人にも、清野さんにも、身に覚えがある。

恋愛において、時に被害者に似た気分になることはよくあることで、「あの人は私のことを云々、酷い云々」思うことあるよね。でも、相手はどう思っているのだろうか。私はいつだって本音が知りたいのだけれど、結局当事者が聞いたところで「ちゃんと好きだったよ」とか言うじゃない?どっちか被害者でどっちが加害者とかないと思うんだけど、私は傷もついたし、傷もつけた自覚もある。だからこそ、痛い。

「ああ、この世にはまだこんなに人を傷つける方法があったのか」
と帯に書かれているのだけど、もうその一言だけでこの作品が幸せではない恋愛小説なんだなってわかるのがすごいと思う。

私レビューを書くとき毎回さらっと読み直すの。一度読んでるからそんなにじっくりとは読み直さないけど、この言葉でね10分くらい動けなくなっちゃって。

柴田さん。私はつまらなかったでしょうか。それとも、つまらなくて可愛くなかったでしょうか。それとも、つまらなくて可愛くなくて愚鈍でしょうか。

あ、これは知っている感情だ、って思いました。この作品のレビューをいくつか漁ってみたんだけど、島本理生著が苦手な人って結構多いのね。情緒不安定な主人公。はっきりしない主人公。被害者面した主人公。「主人公に共感ができない」っていう読者の声が割と多くてね、私も人からそういう風に見えてるのかな、なんて思ってしまった。それくらいには、私は島本理生著の主人公たちに共感できるのだけれど。みんなはどういう恋愛をしてきているのだろうか。ありきたりな物語にすらならないことがほとんどだとは思うけど。だからこそ、こういう情緒不安定で面倒くさい女になるのではないのかな。違うのかな。

とにかく島本理生さんは女性の心の繊細な表現がお上手。私好みってだけかもしれないけれど。

恋愛において、相手に何かを求めるのは双方の勝手であって、そこに何の意味はないんだ。ずるい人ばかりで嫌になっちゃうね。
そういうずるい人を知っている人は共感できる作品なんじゃないのかな。



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小説家の千紘は、編集者の柴田に翻弄され苦しんだ末、ある日、パーティ会場で彼の手にフォークを突き立てる。休養のため、祖父の残した鎌倉の古民家で、蔵書の裁断をし「自炊」する。四季それぞれに現れる男たちとの交流を通し、抱えた苦悩から解放され、変化していく女性を描く。
夏の裁断/島本理生

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ちぬ
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